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第2章離職ゼロを叶える「従業員第一主義」

「待遇はもちろん、ビジョンを持つことがすごく大事。
そして経営者の想いを伝えて、浸透させること。」

ロンドさんのすごいところは、2013年の創業時から、スタッフが60名に増えた現在に至るまで、離職者がゼロだということ。従業員満足を非常に重視されているからだと思うのですが、その考えはどこから?

石田●「従業員が辞めない組織を作ること」が僕らの起業理由でもありますからね。僕はCSR(企業の社会的責任)に非常に興味があって、社会貢献的な活動も、できるところから始めています。美容室にとって一番基本となるCSRは「雇用」だと思うんです。まず自分が幸せじゃなきゃ、人を幸せにすることはできません。だから、うちの企業理念には「従業員第一主義」に加えて「従業員の物心両面の幸福の追求」と掲げています。
その実現のため、経済面の充実はもちろん、やりがいがある仕事を与えることも僕らのやるべきこと。「お客さんは自分で引っ張ってこい」というサロンもあるでしょうが、僕らはそうではなくて「集客も経営者の仕事」という考え方です。
心身の豊かさのため、完全週休二日制にしているし、今年から祝日の営業時間を縮めました。美容師ってセンスがすごい大事で、センスを磨くには映画を見たり好きな洋服を着たり、外国に行ったりすることも必要。でも生活がカツカツだとそれができない。だから生活に余裕をもたせてあげたいし、それができる雇用形態にすることを重視しています。

美容業界は徒弟制度的な部分があります。みなさんは厳しい待遇が残るトップサロンで育ったと思いますが、自分たちの経験とは違う組織を作ることに対して難しさは?

吉田●その点でいうと、勤めていたサロンを辞めてから起業するまでの間に、業務委託のサロンで働いた経験が役立っているかもしれません。

石田●そうですね。それぞれの勤め先の都合もあって僕ら6人が同時に退職するのは難しかったので、起業まで業務委託のサロンで働いたんです。そこで衝撃を受けましたね、「こんな世界があるんだ!」と。自由に外出できるし、給料も自分のがんばりが反映される。ただ、この形態でずっと働くのは難しいかなとも感じました。結婚して家族を養うには保証がないし、出産でブランクが空く女性のライフプランを考えても業務委託では働き続けられない。トップサロンと業務委託、両極端のサロンの形態を知ったからこそ、そのいいとこどりをした中間を取れた気はします。大手のように創業時から社会保険に加入したり、業務委託のようなやりがいあるインセンティブを用意したり。

ロンドさんではスタイリストになると「基本給プラス歩合制」という形で、平均給与が60万円だそうですね。なぜこれだけの給与水準が実現できているのでしょう。

吉田●集客に力を入れて稼働率や回転率を上げたりという仕組みはありますけど、でもやろうと思えばできるんですよ。できないのは社長が報酬を取り過ぎなんじゃないですか。我々は実力に応じて正当に配分しているので、売上1位や2位のスタイリストよりも代表の給与が低い月も当然あります。
これは考え方の違いなんでしょうが、たとえば社長の報酬を売上の10%として、売上1億円の会社なら報酬は1000万円。もっとほしいからって社長の取り分を30%にしてしまったら、スタッフも困るし会社も大きくなりません。それよりも、まずは売上を100億円にして、その10%である10億円の報酬がもらえる会社に成長させたほうが長期的に見たらいいでしょう。だから我々はスタッフの給与に還元したり出店コストに投資したりすることを優先して、その先に大きな見返りがあればいいかなと思ってやっています。

待遇面以外に、スタッフが辞めない秘訣だと感じている点は?

石田●僕らは起業時点から「美容業界の年商1位を目指す」という目標を掲げているんですが、それがスタッフの心に火を着けていて、「一緒に実現させたい」とスタッフは考えているようです。やっぱり経営者がビジョンやゴールを持つことってすごい大事だなと感じます。あと吉田がこの前、スタッフに聞いたんだよね?

吉田●そうそう、スタッフに「お前らなんで辞めないの?」って。そしたらゴールが明確で期待しているってのもあるし、次から次に新しいことを始めるから楽しいって言ってくれて。「辞めるなんて考える暇がない」って言っていました。

ビジョンや理念をスタッフに浸透させるために、どのようなことをしていますか。

石田●第1日曜の夜は店を少し早く閉めて、全スタッフを集めた月例会をやっています。そこで理念について話したり経営塾での学びを共有したり、あとはトレンド発表とか毎月テーマを変えて話しています。日常の中で、代表が折を見て理念を口にすることも大事。スタッフは僕らのインスタを見ているので、そこで理念にちなんだ話を書いたりとか。そういう繰り返しで理念が浸透していくのかなと思います。

技術以外の勉強会を定期的に設けている美容室はまだ少数派なので、珍しいですね。

吉田●経営方針とか会社の中長期計画について、社員に共有する美容室はあまりないかもしれませんね。年1回とかならあるでしょうが、うちは月例会で代表それぞれが自分の得意分野、担当分野にちなんで話すようにしています。
代表6人は週1回、半日ほどかけて話し合う機会を設けて、それぞれの考えをすり合わせています。

代表が6人もいると、スタッフから見たときに「人によって言うことが違う」みたいな混乱は?

吉田●細かい部分は違うことがあるかもしれないけど、「それは問題じゃない」とスタッフには伝えています。変わることと、変わらないことがあるんだよと。状況に応じて戦略は変わるけど、理念は変わらない。「代表の言うことのニュアンスが人によって違っていても、君たちを幸せにしたい、お客さまを幸せにしたいという気持ちはみんな同じだから」って話していて。
だからたとえ僕と石田でスタッフへの提案が違っていても、「こんな意見も、あんな意見も…いろいろ自分のために考えてくれてありがたいな」と納得してくれます。きちんとこういう考えを伝える、言い方はよくないですがスタッフを洗脳することが代表者は大事だなと思います。
あともう一つ、代表の大事な役割は“ネガティブをポジティブに変えさせる”こと。たとえば「今日は忙しいうえに新しいスタッフは仕事を覚えていなくて、お客さまを待たせてしまったしバックルームも片付けられませんでした…」とスタッフが落ち込んで相談してきたとしましょう。どのサロンでもよく起きることだと思います。そんなとき、どう対応するか。僕はこう話します。「バックルームが片付いていないのは、お客さまがたくさん来てくれたからでしょう?そりゃキレイなほうがいいけど、手が回らないくらい忙しいなんてハッピーじゃん!新人スタッフだから動きが悪い?いやいや、新しいスタッフを入れられない美容室もあるのに、新人教育が大変だなんて嬉しい悩みだよ!」ってね。
問題解決はしなくてはいけないけど、起きている問題はポジティブなことで成り立っているんだから、まずは考え方をスイッチしなきゃって伝える。それから、解決策についての話を始めるんです。そうしてポジティブから入ると、ぐっと意欲的に取り組めるんですよ。

そんなふうに言われたら、考え方が変わりますね。毎日楽しく、前向きに働けるから、辞めたいと思わないんですね。

吉田●うちは有名サロン出身で中途採用したスタイリストも多いんですが、みんなが「ロンドに入ると性格がよくなる」って言っています(笑)。楽しく働けるからでしょう。さっきも話した通り、辞めたいと思って入社する人間なんていないんですよ。それが1年後、仕事に対して何らかの絶望を抱いているなら、組織が変わる必要がある。そのために僕ら代表が取り組むべきことっていろいろあると思うんです。

石田●もし今回の記事を経営者の方が読んで、ロンドをマネしてみてもうちみたいになれないとしたら、大事な1ピースが抜けているはず。マネジメント、マーケティングも大事ですが、それだけではありません。その一番大事なことって、吉田が話したような「明るさ」なんですよ。
僕ももともとは陰陽でいったら「陰」のほうなんですね。陰のタイプってマメだし真面目、PDCAも管理できるっていい面もありますよ。でも店に立つとき、スタッフの前に出るときは意識して明るくしています。それに、ほかの代表のサポートもある。だから1人オーナーってすごく尊敬しますし、大変だなと思います。もし1人オーナーで陰のタイプならば、自身が努力して明るさを体現することに加えて、「陽」の特性をもつサポート役をつくるといいんじゃないでしょうか。反対に、楽天的な陽のタイプの1人オーナーは、細かいことに気が付く陰タイプのパートナーが必要でしょう。

  • 取材におじゃましたのは銀座7丁目の「Lond fille(フィーユ)」。なんと同じビルの同階には「Lond rouge(ルージュ)」がある。型破りな出店方法だが、混み具合に応じてアシスタントを移動させたりお客さまを隣店へご案内できるメリットも

  • 陽気にポンポン言葉が飛び出す吉田さんと、落ち着いた口調の石田さん。タイプは違っても、事業やスタッフに対する熱い想いは共通している

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