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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.4

実例編2年間の営業が実らず一度は挫折。
思わぬ雑談から再スタートしたきっかけとは?

男女問わずハイセンスなスタイリングを求めるお客さまが集まる、代官山のヘアサロン「AW」。オーナー小林さんの祖母への想いから訪問美容が始まり、現在は9名のスタッフがいる中で、兼任スタッフと2名で1つの施設を定期的に訪問しています。しかし、そこに至るまではかなり苦労を重ねたそう。一度は挫折しかけた訪問美容への道のりについてお話をうかがいました。

AW(東京都渋谷区)

  • 全スタッフ9名
  • 1店舗
オーナー:
小林尚希さん
訪問美容開始:
2012年
訪問施設数:
1施設(10〜15名)
施設訪問頻度:
2カ月に1回
訪問スタッフ:
サロン兼任2名
価格:
カット2,000円〜

Q

訪問美容を始めたきっかけはどんなことでしたか?

A

祖母が施設に入った経験から、「訪問美容を美容業界の新しい可能性にしたい」と考えました。

お祖母さま孝行から始まったんだね

介護施設にいる祖母のカットをして「ありがとう」と言われ、原点回帰しました。

札幌に住む祖母が認知症を患い、8年前に介護施設に入所しました。私は祖父母に育てられ、美容学校の費用も出してもらったりとずっと世話になっていたので、時間を見つけてお見舞いには行っていました。祖母が入所している施設には月に1度、理容師さんが来ていると聞いていたので、「祖母もそのとき髪を切ってもらっているんだろうな」ぐらいに思っていたのです。するとある日、札幌にいる叔父たちから「おばあちゃんが、理容師さんに切られるのをいやがるんだよ。お前に切ってほしいと言ってるよ」と連絡がありました。私が会うときはそんな話は祖母はしなかったのですが、心の中で思っていたのだと。それ以来、3カ月に1度くらい札幌に帰って、祖母のカットをするようになりました。自分にできる孝行はこれくらいですし、祖母が「ありがとう」と喜んでくれることが単純にうれしかったですね。祖母の髪を切っていると、隣の部屋のおばあちゃんも「私も切って欲しいわ」と言ってこられたりして。そのときに、美容師の原点に返った気がしました。「美容師はお客さまをキレイにして『ありがとう』と感謝していただける尊い仕事だったんだな」と。訪問美容について考え始めたのはこのことがきっかけでした。

1サロンの取り組みではなく、業界のムーブメントにしたかった。

祖母の施設に通っているうちに、「これは美容師の新しい可能性をひろげられるチャンスなのでは」と考え始めました。当時はまだ「訪問美容」という言葉はほとんど聞いたことがない時期。ボランティアで施設に行っているサロンの話はちらほら耳にしていましたが、「今後の美容業界のひとつのビジネスとして、形にできたら夢がある」と思ったのです。
そこで考えたのが、「理容師さんたちとは違う美容師ならではのスタンスで」「1サロンの新事業ではなく、業界のムーブメントにできないか」ということです。高齢者の方々に対してただ「髪を切る」のではなく、普段は業界でカリスマ的に活躍している人たちが、「高齢者の方をキレイにする」ことを売りにしようと考えました。うちのサロンのスタッフとは別に、業界で活躍している仲間たちに声をかけ、チームを組んでサロンとは別のブランドとして展開することにしました。それが2010年のことです。

  • 「AW」は代官山にあるハイセンスなサロン。一見すると訪問美容とは対局なイメージだ

Q

訪問美容をビジネスとして始めるにあたり、訪問先をどうやって開拓しましたか?

A

リストアップからアポ取り、イベントまで、地道に営業しました。でも、結果はなかなか出ませんでした。

一度心が折れてしまったんだね…

1000軒の施設をリストアップ。イベントで訪れることはできても営業に結びつかず。

チームをつくってから、営業のための企画書やパンフレット作成に取りかかりました。それと並行して、営業先となる施設探しをしました。うちのサロンもチームのメンバーも東京なので、物理的に行ける範囲として一都三県(神奈川、千葉、埼玉)の施設をリストアップ。当時で約1000軒くらいありました。ターゲットとしてはお金に余裕がありそうな高級老人ホームから当たり、電話でアポ取りをしました。でもほとんど断られるので、「無料でイベントをさせてもらえないか」と方法を変えたりして。イベントは、共有スペースに入所者さまに集まっていただき、ヘアショーのように入所者の代表の方の施術をするというものです。10軒くらいイベントをさせてもらえましたが、定期的な訪問にはつながりませんでした。

  • 営業のために作成した企画書とパンフレット。訪問美容は「AW」とは別に「髪糸桜(かしら)」というプロジェクト名を付けた

介護施設の実情を目の当たりにして、心が折れ始めました。

施設に行ってみて初めてわかったのは、介護施設のスタッフの方は本当に日々忙殺されていることです。高級老人ホームといわれるところでも、ドラマで見るような穏やかでのんびりした空気などなく、スタッフの方は笑顔になる余裕もない。だから新しいことはなかなか受け入れていただけないのです。また、大手の施設にはすでに訪問理容専門業者が入っているケースも多かったです。理容室が重宝されるのは、高齢者の場合、女性でも顔そりを希望される方が多いからなんですね。
また、当時は我々も相場がわからず、カットを4,000円に設定していました。「お試しで1回だけならOK」という施設に行った際、「高い」と言われて2,000円にしました。けれどそれでも高いと言われて2回目はなく、料金は断る理由だったのかもしれません。
一方で、お金に余裕がある方々は、お抱えの美容師がマンツーマンで訪問していたり、家族が車で行きつけのサロンに送り迎えしているケースもありました。
そんな活動を2年間くらい続けていくなかで1軒も契約がとれず、だんだん心が折れかけていきました。

挫折しかかった矢先に、思わぬ紹介が。

「もうダメなのかな…」と思い始めた2012年、取引している信用金庫の支店長と会ったときに、「訪問美容で介護施設に行って相手にされなかった」と雑談で話しました。すると「お客さまの不動産会社さんが、今度新しく介護施設をつくるので紹介するよ」と言ってくださったのです。その会社の専務さんにお目にかかると、我々の活動をおもしろがってくださいました。
初回はやはりお試しということでしたが、施設を訪れると職員の方々も友好的で、壁になぜか「カリスマ美容師来店!」とイラストが描かれたポスターが貼ってあったりして(笑)。そのときに15人ほど施術させていただきました。翌日専務さんから「また来てください」とご連絡をいただき、それ以来2カ月に1回定期的に訪問させていただくことになりました。
2年間営業して1施設のみの契約なので、もともと考えていたチームでの活動には至っていません。現在は私とサロンのメンバーの2名で、定休日の火曜日に通っています。

  • 小林さんとともに訪問美容を兼任している渡辺拓人さん(左)。「訪問美容は初心に返れる素敵な活動だと思います」

Q

今後、訪問美容についてどのようなビジョンをお持ちですか?

A

社会貢献意欲が強く、ITに親和性の高い若い世代が、訪問美容を広げてくれたらいい。

これからの若い人に期待しているよ!

高齢者の方も「みんなと同じ髪型はいや」と思っています。

訪問美容は材料費、水道光熱費がかからず、アシスタントの人件費もないので、収益性としても悪くないビジネスです。例えば、1回の訪問の約3時間で、15名を各2,000円で施術すると30,000円の売上になります。個人の在宅についてはまとまった人数を効率的にまわる必要があるため、現在は参入する予定はありません。また、私が訪問美容をやってみたいと思ってから6年以上たつため、サロンやスタッフの状況も変わってきて、これから当社として訪問美容をひろげていくかは検討中です。しかし、ここ1・2年で訪問美容が一気に注目され始め、訪問美容に対する見方も変わってきたなと感じます。
現在訪問している施設でも、一度お客さまが一気に減った時期がありました。通常1回の訪問で10〜15名の施術をしていたのですが、それが5〜6名になったのです。施設の方に聞くと「理容室が営業に来て、そちらに流れている」と。そのとき、「やっぱり顔そりができた方が喜ばれるんだな」と思いました。しかしその後、行くたびにお客さまが少しずつ戻ってきたのです。みなさん顔なじみなので理由を尋ねたら「みんな同じ髪型になっちゃうんだよ。やっぱり美容師さんがいいわ」とおっしゃってくださいました。施設に行くと、基本はみなさん、刈り上げを希望されます。シャンプーがしやすかったり、寝ていることが多いのであせもができたりするためのようです。最初は「だから理容師さんがいいのか」と思いましたが、おしゃれしたい高齢者の方は増えているのかもしれませんね。

  • 「同じショートや刈り上げでも、美容師ならではのおしゃれ感や提案をしたい」と小林さん

若い世代のアイデアで、業界全体を切り拓いていってほしい。

最近、うちのサロン以外の20代の美容師たちから訪問美容について聞かれることが増えました。彼らはカリスマ美容師時代を知らない世代で、ある意味私たちの世代よりも真摯に美容師の仕事を捉えています。私と一緒に訪問美容を担当している渡辺(スタイリスト歴3年)も、定休日を使った訪問にもかかわらず「訪問美容をやると初心に返れる。先端のかっこよさを求められるサロンワークの合間に訪問美容に行くことがリフレッシュになる」と言って喜んで行ってくれます。
また、若い世代はSNSなどのツールをうまく使いこなせるので、これから訪問美容を展開していくアイデアを持っていると思います。私たちはお金をかけてパンフレットを作ったり、手間のかかる昔ながらの営業をしてきましたが、彼らは別の視点で切り込むこともできるかもしれない。SNSなら横のつながりも簡単に作れますし、発信力がアナログとは全然違います。
訪問美容はこれからまちがいなく必要とされてくること。美容師が自分たちらしく生きながら、幅広い世代に貢献できるビジネスモデルとして若い人たちが切り拓いていくことを期待したいですね。

  • 「女はいくつになっても女でいたいからね」とお客さまに言われると、「やってよかった」と実感すると、渡辺さん

小林さんからひとこと

今思えば、自分たちがやろうとしたときは時期尚早だった気がします。けれどほんの数年の間に訪問美容は一気に注目され始めました。環境は大きく変わっていると思います。また、サロンは基本的にお客さまが店に来てくださる「待ち」の仕事ですが、訪問美容は待っていても誰も来てくれません。美容師は「自分から営業に行く」ということに慣れていないため、最初の一歩の踏み出しが難しく感じるかもしれません。ただ私自身も営業が実を結んだわけではなく、雑談からスタートしたので、「訪問美容をやりたい。その準備はできている」という意志を、いろんな人に伝えておくことも必要だと思います。訪問美容を志す人も、介護施設もこれから確実に増えるので、どんな発信をどのようにするかも大切になってくるのではないでしょうか。

次号では、美容師になったきっかけが訪問美容だったオーナーの取り組みをご紹介する予定です。

Salon Data

AW【エーダブリュー】

アクセス
渋谷駅から徒歩10分、東横線代官山駅から徒歩10分 
創業年
1996年
店舗数
1店舗
設備
7席
スタッフ数
9名
URL
http://beauty.hotpepper.jp/slnH000185169/
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