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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.5

実例編14年前から訪問美容をスタート。
「困難が多くても充実している」というやりがいとは?

オーナーの坂本さんは、訪問美容をやるために14年前に独立開業。個人の想いからスタートし、スタッフが入れ替わりながらも、同じ意志を持つスタッフの井原さんと出会い、精力的に訪問美容を展開中。現状ではお断りしなければならないほど、依頼が来ることもあるそうです。「今後もスタッフを増やしながら広げていきたい」という、訪問美容に対する想いと実情を、坂本さんと井原さんにうかがいました。

Hair Design Slope 稲毛海岸店(千葉市美浜区)

  • 全スタッフ12名
  • 3店舗
オーナー:
坂本直樹さん
訪問美容開始:
2002年
訪問施設数:
約10施設(定期訪問3施設、不定期7〜8施設。1回の訪問で5〜15名)
施設訪問頻度:
1〜2カ月に1回(定期訪問) 
訪問個人顧客数:
約5〜6名
個人顧客訪問頻度:
月に1回程度
訪問スタッフ:
サロン兼任2名
価格:
カット…施設2,000円〜、個人3,000円〜

Q

訪問美容を始めたきっかけはどんなことでしたか?

A

兄がきっかけで、訪問美容をするために独立しました。

訪問美容を広げるためにサロンを作ったんだね

兄が障がいをもっていたため、美容師になったときから訪問美容をやりたかった。

坂本さん:私の兄に障がいがありまして、将来は訪問美容をやりたいと考えていました。14年前に独立し、それまで勤務していたサロンのお客さまからのご紹介で、フリーで訪問美容を始めたのです。そのお客さまは商業建設の会社にお勤めで、千葉市内にグループホームを建設することになり、そこの施設長から「美容ブースを作ってほしい」と依頼を受けたとのこと。それで私にお話をいただき、開所時から担当させていただきました。ボランティアとしてやることも考えたのですが、施設の方から「ボランティアだと『急用で今日は行けない』ということが起こりがちになるので、お金をきちんと取ってビジネスとしてやってほしい」と言われ、その通りだと思いました。
仕事を広げていくにはフリーでやるよりも、サロンを構えていた方が信頼してもらえると思い、独立してから半年後に幕張本郷に「Slope」の1号店を立ち上げました。それ以来、サロンワークと並行して訪問美容を行っています。出産を機にフルタイム勤務がむずかしくなったスタッフや、サロンワークと兼務のスタッフなど、私を含めて常時2〜3名の体制でやってきました。現在は私と、稲毛海岸店の井原晶仁の2名で、サロンワークと兼務で担当しています。

お客さまとともに年を重ねていく、自分の将来を考えて訪問美容を始めた。

井原さん:私は2年前に「Slope」に転職してきました。前のサロンにいた4〜5年前から、サロンの定休日に個人的に訪問美容をやっていました。実は私の弟がヘルパーの資格もとって、先に訪問美容をやっていまして、話は以前から聞いていたのです。自分も将来を考えたときに、管理職や経営者になるよりずっとプレイヤーでいたいと思っていました。けれど「おじさんになって、若いお客さまを新規で担当していくのはむずかしいのでは…」と。その一方で、私より年長のお客さまもたくさんいて、その方々とともに自分が年を重ねていくのであれば、訪問美容は今後やるべきことだと考えたのです。ただ当時は、サロンの営業時間は指名のお客さまがいるので、定休日に副業的にやるしかありませんでした。ご縁があって坂本さんと出会い、当初はサロンの転職としてお話を聞いていたら、トップである坂本さんが訪問美容をされていると知り、合流させていただきました。

  • 大変な現場のお話をする際も、利用者さまへの愛を感じる坂本さんと井原さん(右)。自分たちの苦労は笑いながら語り、温かみとウィットにあふれるおふたりです

Q

紹介からスタートして、その後どのように展開してきたのですか?

A

施設やケアマネジャーさんのご紹介のほか、個人の方はホームページを見て連絡が来ました。

紹介で広がったのにも努力があってこそ!

郵送での営業は効果なし。紹介がつながり広がっていった。

坂本さん:紹介以外でも広げていかなければならないと思い、役所で介護施設の事業所一覧をもらって、そこにお手紙を送って営業していました。1回に80通くらい、何度か送ってみましたが、連絡をもらったことは一度もなかったですね。最初に紹介で入った施設が、その後チェーン展開的に千葉県内に施設を増やしていったので、そのつながりで増えていった感じです。また、その施設に入っていたケアマネジャーさんに新しい施設をご紹介いただいたこともあります。個人の方は、サロンのホームページ(http://slope.jp/contents/houmon.html)をご覧になって、お電話くださったケースが多いです。「千葉市 訪問美容」で検索すると、上位にうちが入っているようで。その他に、デイサービスなどの介護施設の方からのご紹介でお声をかけてくださった方もいます。

「利用者の方」と「施設の職員の方」の両方を満足させる接客と施術が必要。

坂本さん:ここまで展開してこられたのはほとんどが紹介で、ケアマネジャーさんや施設の方々のご協力が大きかったです。そのために、丁寧な接客を心がけてきました。顧客満足度を上げるのはサロンワークと同じですが、訪問美容の場合、顧客は「利用者さま」と「施設の職員の方」の両方になります。施設の方に満足していただくために、例えば領収書にその日の利用者さまの様子などを書いてお渡ししています。サロンのカルテのような感じですね。すると職員の方々ともコミュニケーションがとりやすくなり、リピートにつながっていきました。
施術では、利用者さまと施設の職員の方の思惑が違って、両方の満足を得ることがむずかしいことがあります。利用者さまのご希望より、職員の方が「もっと短くしてほしい」とおっしゃることもよくあります。私たちがカットした後に、普段どなたがシャンプーするかによるのです。だから「デイサービスならご本人やご家族が、特養(特別養護老人ホーム:比較的要介護度が高い高齢者の方が入所)の場合は職員の方がシャンプーする」など、状況を考えて施術するようにしています。

  • 「美容師は営業やマーケティングが苦手ですが、これからはそれも必要」と語る坂本さん

Q

訪問美容で大変なことと、やりがいを感じることは?

A

施設の高齢者はサロンのお客さまとは全く違う。けれどキレイになったときの喜びは一緒。

生半可な覚悟ではできないんだね!

毎回が予想外。場数を踏めば臨機応変に対応できて、利用者さまから笑顔がもらえる。

井原さん:正直、訪問美容は大変なことばかりで、毎回予想外のことが起こります。「施設に入所されている高齢者の方々」は、「健康で家にいた自分たちのおじいちゃん、おばあちゃん」とは違うのです。また、サロンに来店されるお客さまのように、自由に頭や体の向きを変えられるわけではありません。体の固さや自由度、傾き方、寝たきりなのか車いすなのか、話しかけてこちらの言葉がわかるかどうかなど、一人ひとりのケースが全く違います。だから私も最初は衝撃を受けて「やっていけないかも」と思ったこともありました。
けれど、サロンワークも同じで、すべては経験です。行ったらやるしかない。スタイリストになったばかりの新人のときはお客さまのカットにびびっていても、やっていくうちに慣れるように、訪問美容も場数を踏めば「こんな方にはこうすればいい」というのがわかってきます。ご家族やヘルパーの方々も完璧は求めていないので、いい意味で割り切りも必要です。臨機応変な対応をしながら、日々勉強させてもらっています。
そして何より、施術した後に、ニッコリ笑った利用者さまの顔を見たときに、最高のご褒美をもらえた気分になれますね。それもサロンワークと同じで、言葉で「ありがとう」と言われるより、鏡を見たときの表情にはウソがないので、笑顔が見られたときにやりがいを感じます。

  • 「施術中に、ご自身の苦労話などを話されて涙する利用者さまもいます」と井原さん。井原さんとの会話で癒されている利用者さんも多いようだ

万一の事故が起きないよう、安全で素早い施術が求められる。

坂本さん「人の役に立ちたい」という気持ちがなければできない仕事ですが、それだけではできない部分もありますね。認知症が進んだ方に「触るな」と言われてへこんだりすることもあります。そうした、体や認知の能力が低下した方々が対象となるので、細心の注意が必要。万一の事故も許されませんので、例えば最初は先が尖っていないレザーを使って、慣れてきたらシザーにするなど工夫しています。なかには、じっと座っていられない方もいらっしゃるので、安全とスピードも求められます。訪問美容をやっていくと、カットが速くできるようになりますね。
女性の利用者さまの場合、認知症の方でも「キレイ」という言葉に反応される方がけっこういらっしゃいます。キレイにしてさしあげたときに喜んでいただけるのは、どんな状況であっても女性は同じだと感じています。

  • 「Slope」の訪問美容メニューにはカラーやパーマもある

  • 施術後、一番やりがいを感じられるお客さまの笑顔

Q

訪問美容について今後のビジョンは?

A

継続するためにも、ビジネスとして生産性も考えていきたいです。

訪問美容は確実に求められているんだね!

自分たちも、他エリアでも、業界全体で訪問美容が伸びていくといい。

坂本さん:ビジネスとしてサロンワークほど利益は出ていませんが、継続するには赤字ではできません。施設の場合、1回の訪問で最低5名からお受けするようにしています。5名だと午前中いっぱいで終わるイメージで、井原のように慣れて速くなれば9名くらいできるようになります。2名のスタッフで半日で15名くらい施術できれば、2,000円×15名で30,000円の売上になり、水道光熱費や場所代がかからないので、いいビジネスになると思います。個人の場合は1.5倍の3,000円でお引き受けしていますが、移動の時間もかかるので、1日に固められないと売上的にはきびしいですね。現状ではサロンワークをする日の朝か夜に、残業として個人宅にうかがうケースが多いです。
現在は定期・不定期あわせて、約10施設と5〜6名の個人宅をふたりで担当していて、ふたりともサロンと兼務のため正直手一杯な状況です。お声をかけていただいても距離が遠かったり、1カ所で1〜2名の施術の場合はおことわりしなければならないこともあります。
最近は、サロンの募集で面接をするときなど「訪問美容をやりたい」というスタイリストも増えています。特に女性のスタイリストで希望する人が多いので、今後はサロンとしても計画的に事業展開していきたいと思っています。また、お声がかかっても私たちが行けない東京などのエリアで、訪問美容をするサロンが増えるといいですね。

  • 坂本さんは「我々が行けないエリアを対応できるサロンが増えるといい」と業界全体に期待している

坂本さんからひとこと

訪問美容は大変な面もありますし、利用者さまや施設との信頼関係が大事なので、100%商売目線で考えると続かないと思います。自己満足かもしれませんが、社会貢献の気持ちもやはり必要です。訪問美容に行ったときは、いつも「自分もいつかは老いていくんだ」と、自分の将来と重ね合わせて、いい意味で複雑な気持ちになります。利用者さまたちがキレイになって喜んでいただく姿を見て、「自分も元気で楽しく、しっかり生きなければ!」と毎回スイッチを入れてもらえます。これはサロンワークだけでは得られないことではないでしょうか。

次号では、わずか2名の専任スタッフで50以上の施設を手掛けるサロンをご紹介します。

Salon Data

Hair Design Slope 稲毛海岸店【ヘアーデザイン スロープ】

アクセス
JR稲毛海岸駅北口から徒歩1分
創業年
2002年
店舗数
3店舗
設備
9席(稲毛海岸店)
スタッフ数
12名(全店)
URL
http://beauty.hotpepper.jp/slnH000292436/
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