サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.53
実例編介護エステで独立、2年で6施設と契約!
Ranun
- 全スタッフ4名
- 代表:
- 長尾夏音さん
- 訪問美容開始:
- 2021年
- 訪問施設数:
- 6施設
- 施設訪問頻度:
- 1カ月に2〜4回(1回の訪問で約4〜15名)
- 訪問個人顧客数:
- 20名
- 個人顧客訪問頻度:
- 1カ月に1〜4回
- 訪問スタッフ:
- 4名(兼務)
- 価格:
- 施設・1時間8,800円〜、個人宅・1時間6,600円〜
-
Q
病院から独立して介護美容を始めたきっかけは?
-
A
美容の力で元気になる方々を見てきたことです。
病気でふさぎ込んでいた方が、キレイになることで前向きに!
もともとは作業療法士としてリハビリ専門の病院に勤務していました。そのときに、入院中に身なりに関心がなくなる患者さんをたくさん見てきました。病気やケガが原因で体の動きが不自由になることが原因なのですが、ひとたびそうなると、お見舞いの人にも会いたがらなくなります。快復して退院した後でもメイクをしなくなってしまい、家にこもりがちになるのです。
訪問リハビリの部門に異動し、高齢の女性患者さまを担当したときのことです。病気をされてからふさぎこみがちになり、最初は我々の訪問も嫌がっていらっしゃいました。でも訪問時にご家族から「もともとはおしゃれで社交的だった」と伺い、ご本人のマニキュアボトルが置いてあるのを見かけました。そこで「リハビリはしなくてもいいのでこれ塗ってみましょうか?」とネイルをしてさしあげたのです。この出来事をきっかけに、徐々にお元気になって、ご自身でメイクもするようになり、リハビリを受けてくださるようになったのです。ほかにも同様の方が少なくなく、「美容の力が人を前向きにするんだ!」と感じました。
「作業療法士×介護美容」で、かかわるすべての人の役に立ちたい。
美容の力に可能性を見出していましたが、病院の中ではさまざまな業務におわれ、化粧水を付けるなどスキンケアのお手伝いまで手が回りません。自分自身の将来的なキャリアについても「作業療法士×○○(もう一つの強み)」が欲しいと考えていました。その「○○」が「介護美容」だと思ったのです。私自身の祖母が亡くなったこともきっかけになりました。祖母はコロナ禍の時期に介護施設に入所したため面会ができず、対面できたのは亡くなった後でした。そのとき、祖母のお肌や爪がカサカサだったのです。美容はキレイになるためだけでなく、人間の尊厳として当たり前のケアなはずです。しかし、介護施設の現場ではほかにも必要なケアが多いため、なかなか一人ひとりのお肌や爪の手入れに時間をかけられないのが現状です。介護の知識がある美容専門のスタッフがいれば、利用者さま、職員やご家族の方々などみんなに喜ばれるのではないかと思ったのです。これらのことから、独立して介護美容の専門家になることを決意しました。
-
Q
介護美容の専門家を目指して、何から始めましたか?
-
A
認定資格を取り、ビジネスについて学び始めました。
プレゼン資料を作成し、施設に営業に。
まず、日本介護美容セラピスト協会の講座を受講して基本的な知識と技術を学び、介護美容の認定資格を取りました。受講と並行して独立準備も進行。介護施設に営業に行くためのプレゼン資料を作成し、電話でアポイントが取れた施設に伺いました。基本は施設長にアポイントを取り、直接お目にかかれたときはタブレットでプレゼンしました。施設長に会えなかったり、施設長の上に決裁権者の理事長がいるときは、パンフレットや提案書を渡しています。ヘアカットをする訪問美容は皆さんご存知でも、スキンケアやメイクをする介護美容はまだあまり知られていません。施設長さまによって響くポイントが異なるので、介護美容の多角的なメリットをお伝えするようにしています。例えば「キレイになることで利用者さまがお元気になる」ということや、「介護美容を受けられる施設として差別化できる」などです。
SNSは効果的!ターゲットに情報が届くように日々勉強。
また、ホームページを作成するとともに、InstagramやFacebookなど、SNSでの発信を積極的に行っています。SNSを見たというご家族や施設の職員の方からお声がかかるケースがとても多いです。SNSではたくさんの人に効率的に見つけてもらえるよう努力しています。SNSは全国の方々から見てもらえますが、私が訪問できるのは大分に限られるため、大分で介護美容を必要としている方に見つけてもらえる工夫が必要です。例えば、検索で上位に上がるようにアルゴリズムを意識したり、ハッシュタグのつけ方を工夫したりしています。開業して2年弱ですが、現在は6施設と契約し、個人のお客さまも約20名になっています。ひとりでは回りきれなくなってきたため、3名のパートスタッフに依頼することもあります。スタッフはそれぞれ看護師や介護福祉士などの本業をもち、Wワークで「Ranun」の仕事を受けてくれています。
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Q
実際に介護美容をやってみていかがですか?
-
A
ご本人だけでなくご家族にも喜んでいただけることが嬉しいです。
徐々にご自身でも美容をする気持ちに戻っていく。
ご家族からの依頼で訪問した当初は、「もう死にたい」など、ネガティブなお気持ちになっている高齢者の方々がとても多いです。けれど、スキンケアをして病気をする前のようにお肌が整っていくご自身を見ることで、少しずつ元気になっていきます。直接施術させていただくことだけでなく、ご自身でスキンケアやメイクができるよう、健康維持と自立支援のサポートとして美容のレクチャーもしています。ご家族が「デイサービスにメイクをして行くようになりました!」など、利用者さまの変化を喜んでくださることがとても嬉しいですね。大切なご家族が元気になることは周りの人も幸せにします。
難病の方も笑顔を見せてくださるように。
お客さまのなかには、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病の方もいらっしゃいます。フェイシャルエステやハンドマッサージは肌に触れるだけで「気持ちいい」と感じていただけ、癒やしの時間になるようです。また、ALSの方は目の動きだけでコミュニケーションをとるため、お顔の筋肉が凝り固まっていらっしゃることがあります。それをほぐしてさしあげることで、わずかでも表情がつくれるようになり、笑顔を見せてくださるのです。そうしたお力になれることもこの仕事の喜びですね。
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Q
今後の展開はどのようにお考えですか?
-
A
全国各地に質の高いサービスを提供できるメンバーを増やし、介護美容の価値を広めていきたいです。
介護美容の必要性やメリットを伝えていきたい。
ここ1〜2年で介護美容に関心をもつ方が急増していて、ボランティアで始める人も少なくありません。それも良いのですがボランティアで継続していくことは困難です。持続可能なビジネスとして、介護美容の必要性やメリットを施設の方々にも理解していただけるよう働きかけることもしていきたいです。例えば、施設向けに健康美容体操も行っています。私が大勢の利用者さまを対象に体操やお肌の手入れについてレクチャーしている時間に、職員の方はご自身の業務を進めることができます。また、利用者さまたちに楽しんでいただけることで施設の空気がなごむ効果もあります。スキンケアなど日常のお手入れも、職員の方の負担にならない程度にできることを教えてさしあげることもできます。
同じ志の仲間と一緒に介護美容を広げたい。
SNSで発信してきたことで、全国の医療系の企業などからお声をかけていただけるようになってきました。規模が広がると個人での活動には限界を感じ、法人化して同じ志をもった同士で事業を進めていくことにしました。また、大分だけでなく全国の同志とも一緒に介護美容の質を高めていくために、「医療従事者であり美容に関心がある人」を集めたオンラインサロンをやっています。ネットは簡単に全国の仲間とつながれるのがいいですね。私の活動は現在は大分限定ですが、同じ思いをもった仲間が全国にいれば、質の高いビジネスとしての介護美容を広めていけると考えています。ニーズは確実に増えているので、たくさんの仲間と一緒に介護美容を社会に認知させていきたいと思います。
長尾さんからひとこと
介護美容に興味があれば、とりあえずやってみてください。やってみてたとえ失敗しても、やらない後悔よりもましだと私は思っています。失敗してもそこから改善してまたやり直せばいいのです。今の時代、始めるために必要なこと、すでに始めている人の体験など、情報はネットでなんでも調べられます。やりたいと思ったらとにかく一歩踏み出してみてください!
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