女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.66子連れ出勤OK、キッズカットボランティア…
さまざまな取り組みで業績UPさせる経営とは?
美容室 スプラッシュ
東京都渋谷区
渋谷区・代々木公園の商店街にある、地域密着型サロン「美容室 スプラッシュ」。子連れでも来店しやすく、キッズカットや着付けも評判のお店です。笑顔がまぶしい6名のスタッフは全員女性で、現店長がママ美容師第1号。なんと彼女は、託児スペースがないにもかかわらず子連れ出勤を実現し、その間はスタッフ全員でサポートをしたそうです。この家族のような一体感の理由は、どこにあるのでしょうか?オーナーの小林誠さんに、女性が輝くサロンづくりの秘訣を聞きました。
1取り組み
スタッフを決して売上で比較せず、それぞれの持つ個性を尊重。
どんな取り組み?
売上の多い、少ないでスタッフを分け隔てすることはしない。その代わり、それぞれのスタッフの得意分野や実現したい夢を見いだし、何年か後にはメインで活躍できるよう良さを伸ばしていくことに重きを置いている。そのためオーナー自身、月に一度スタッフの給与計算をするときを除いて、日々の売上は一切チェックしない。
背景とメリットは?
オープン後数年間はスタッフの入れ替わりが激しく、なかなか人が育たなかった時期があった。美容師がやめていく原因のひとつに、売上で比較されて伸び悩むことがあると考え、数字を細かく見ることをやめた。「美容師はみな美容学校に入った時点で、利他的な精神、人を喜ばせたい気持ちを持っているものです。そこを信じてよいところを引き出せば、人は育つと考えました」と小林さん。
数字のプレッシャーを受けずに力を発揮できる職場なら、将来の結婚・出産を希望する女性スタッフも長く働くことに自信が持てる。今では優秀なベテランスタッフが育ち、数字にあまりこだわらないにもかかわらず、毎年売上が伸びているという。
2取り組み
ライフスタイルの変化に応じて、
働き方はスタッフ本人に決めさせる。
どんな取り組み?
スタッフの産休・育休や時短勤務などには対応するが、細かなルールは決めていない。プライベートな事情で働き方を変える場合は、すべて本人の希望で内容を決めさせたうえ、話し合いを持つようにしている。いわば「制度を設けないことを制度にしています」(小林さん)ということだ。
背景とメリットは?
男性と比べると女性のライフスタイルには多様性があり、変化も大きい。子育てをしながら働く場合でも、本人の夢や将来設計、子どもの性格、家族の協力体制まで人それぞれだ。それらに個別に対応することで初めて女性スタッフが安心して働けると考えているので、決まり事は作らないという。
「美容室 スプラッシュ」で初めてのママスタッフである、店長のtomoneさんに対しても、休む期間や復帰後の勤務時間は本人に決めさせた。「ただ、“生後3カ月から子連れで出勤したい”と言い出したときはさすがに反対しました」(小林さん)。しかし、話し合いの末に「無理があれば中止」「家族全員の理解を得る」などの条件付きで、tomoneさんの意思を尊重した。「託児施設も保育士もなしで、よく実現できました」と小林さんは振り返るが、他のスタッフが一致団結して協力体制を取り、乗り越えられたという。「店長のtomoneは他のスタッフに、女性美容師の働き方の選択肢を見せてくれた。その意味でよかったと思っています」(小林さん)。
3取り組み
完全週休2日を目指して段階的に定休日を増やす。
カット練習も朝へ移行。
どんな取り組み?
「美容室 スプラッシュ」では数年前から定休日を1日ずつ増やし、今は火曜日と第1・第2・第3水曜日がお休み。将来的には完全週休2日を目指しており、スタッフにもそう約束している。また、カット練習は朝にシフトさせ、夜間の練習は禁止とした。
なぜそうした?メリットは?
「特に女性は、OFFの日の充電時間を大切にしたいと思っている人が多いようです」(小林さん)。営業時間を長くするより、休みを増やしたほうがよりお客さまに集中して向かえ、効率も上がると考えた。
また、カット練習は閉店後の疲れた状態でするより、朝のほうがより集中できる。開店前に手を動かせば気持ちのスイッチも入り、お客さまを迎えるコンディションが整うこともメリットだ。「それに仕事だけで1日を終えるのではなく、帰宅して料理をしたり、肌のお手入れをする時間を持ちたいですよね」(小林さん)。閉店後は全員がさっと帰宅して、家でリフレッシュする時間が持てるようになった。
4取り組み
定休日を使い、カット講習とキッズカットボランティアを実施。
どんな取り組み?
定休日を使い、美容専門学校生やアシスタント、ジュニアスタイリストなどがサロンの枠を超えて自由に参加できる無料カットスクールを実施。さらに同じ日の午後からは、スクールの受講生とスタッフが参加して、小さい子どものヘアカットを無料で行っている。8年前にスタートし、今も不定期で続いている。
メリットは?
オーナーの小林さんが、「お世話になってきた美容界への恩返し」として始めた活動。午前中のスクールには仕事をリタイヤしたママ美容師も数多く参加した。「この場を足がかりに現場復帰していった人も多く、そのことが非常にうれしいです」と小林さん。
キッズカットボランティアに参加するスタッフも、カットの技術や接客スキルを学ぶことができる。しかしそれ以上に、お母さんたちに心から感謝されることで「人に喜んでもらることの大切さ」を体験できたことが大きい。技術と共に心を磨くことで、美容師として働き続けるモチベーションが一層高まったという。
オーナーインタビュー
- Q. まるでスタッフが本当の家族のような経営をされていますが、最初からこうしたやり方だったのでしょうか?
-
A. 「ダメオーナー」だった自分を反省して、スタッフへの接し方を変えました。
最初は違いました。自分はスタイリストとしての腕に自信があったので、独立しても力でスタッフを引っ張れると思っていたんです。人を数字で比べて、辞められては「根性がないんだ」と考える、典型的なダメオーナーでした。でも数年前、感謝の心を忘れていた自分を思い知る出来事があって、それまでの価値観が崩れました。そこで全員に「今まで申し訳なかった!」と平謝りし、スタッフとお客さまのために生き方を変える宣言をしたんです。お客さまを第一に考えて「数字にこだわらなくていいよ」とみんなに伝えると、スタッフがイキイキと働くようになり、離職が減りました。すると不思議なもので、サロンの売上も上がるようになったんです。
- Q. tomoneさんの子連れ出勤を許したのは、大変な決断だったのでは?
-
A. 昔の美容室のように、全員で子育てをする協力体制を作りました。
数日間熟考して、tomoneの意思を尊重すると決めてからは、実現方法を考えるのがオーナーである自分の仕事でした。結論は、普通に子どもをおんぶして女性美容師が働いていた、ほんの数十年前の美容室の姿です。その頃のように、私も含めてスタッフでお世話できればいい。言うほど簡単ではありませんが結束力は強く、みんな本当によく手伝いました。tomoneの店長としての求心力も強かったからだと思います。
誰もが彼女と同じようにできるわけではなく、結婚や出産を選択しない自由もあります。でも美容師としての生き方を自分で選択できるのは幸せですし、それが常にできる環境を作って行きたい。
今年入社したアシスタントのご実家が2代続く美容室で、「修業して、祖母が現役のうちに一緒に働くのが夢」だというんです。スタッフに話したら「素敵だね!」とみんなワクワクして、ならすぐにでも実現させようと盛り上がった。今年中には少し休みを取らせて、ご実家のサロンに帰省させるつもりです。自分にとってスタッフは従業員ではなく、見守りたい娘や妹のような存在なんです。
- Q. スタッフの働きやすさのために、今後取り組んでいきたいことは?
-
A. スタッフも地域の人も利用できる「スプラッシュ食堂」を作りたい。
まだ具体的ではありませんが、福利厚生としてスタッフと一般のお客さまの両方が利用できる食堂と、着付け室を備えた施設を作るのが夢です。着付けを頑張ろうというスタッフがいるので、そこで彼女にぜひ活躍してもらいたいですね。2店舗展開も考えることはありましたが、今はスタッフに無理をさせずお客さまに接してもらうことが優先です。また、ここを卒業して他のお店で活躍している美容師もいるので、いつでも同窓会ができるよう、この店を大事にしていく方がいい気がしています。
Salon Data
美容室 スプラッシュ
- アクセス
- 東京メトロ千代田線代々木公園駅から徒歩3分
- 創業年
- 2001年
- 店舗数
- 1店舗
- 設備
- セット面5席
- スタッフ数
- 7名(スタイリスト4名、アシスタント3名)