ヘアサロン領域
2011.12.12
「女性スタッフだけのサロン」「若手スタイリストのサロン」「東京に大人のワンダーランドを」……。大阪府八尾の地下1階12坪から始まったブランドもいまや11店舗。それぞれ全くコンセプトが違うサロンを国内外で展開し、そのつど業界にインパクトを与えているLIM hair。シャープでありながらも、同時に人のぬくもりを感じる集団として、日本じゅうのオーナーが注目するサロンです。創業時のブランドDNAがしっかりと受け継がれている組織づくりについて、センター長・野嶋が伺いました。
PROFILE
西村 徹也
1954年大阪市出身。大学卒業後、会社勤務を経て、25歳で美容師をめざし美容学校に入学。東京のサロンに5年勤務した後、1984年大阪府八尾市の駅前にヘアサロンをオープン。1991年に有限会社レスイズモア設立。その後、1店舗ごとに異なるコンセプトの「LIM hair」ブランドサロンを展開。現在は大阪に8店舗、東京に2店舗、シンガポールに1店舗、計11店舗を構える。
|第1章|「個」が育つサロン経営
野嶋 LIMさんというと非常にコンセプチュアルなサロン展開をされているわけですが、そのお店づくりというのはどんなところからスタートするのですか?
西村 最初の頃は自分を中心としたリーダーが考えて引っ張っていったんです。でも、loji(ジュニアスタイリストのサロン)の頃からかなあ。僕が「こんなサロンあったら面白いんちゃう?」と口に出すとスタッフも口々に自分のアイデアを出してくれるようになったんですよね。いまでは、スタッフの方から「次はこうしたい」「こんなお店はどうやろう?」というようになってきましたね。スタッフそれぞれ生まれ育った環境も読んできた本も違う。その体験値の中から生まれるサロンなので、必然的にいろんな性格を持ったサロンになっていきますね。
野嶋 先日、LIM CODEに伺って、スタッフのみなさんとお話させていただいたんですよ。新しいお店を出すので、ものすごく張り切っていらっしゃいました。
西村 「僕らは世の中を面白くする側になりたいね」ということを、ずっとスタッフに言い続けていたんです。目的がしっかりあると、いまやっていることを俯瞰してブレないでいけると思って。
実は4年前くらいに企業理念を変えたんです。それが「人を美しくできる人をつくり、世界を変える」という理念です。この言葉は本当に頭から汗出してしぼってしぼって山ほどスケッチブックを使って決めた言葉なんですよね。
レスイズモアは「人を美しくできる人をつくる」ことを目的に存在する組織。これはわかりやすいですよね。その方法論で社会に貢献し、そこに集うスタッフも幸せになっていく。でもそれだけではワクワクしないし物足りないじゃないですか。だから「世界を変える」という大きな言葉を加えました。人を美しくできるということは、人をハッピーにさせ感動させることができるということ。そして人が喜ぶことを自分の喜びと感じられる人になるということ。それは、もっと社会に喜びを生み出したいという気持ちにつながっていくということ。その結果、世界が変わる、と。
野嶋 そうでしたか。スタッフのみなさんの口から「ワクワクさせたいです」とか「世の中を面白くしていきたいんです」という言葉がいっぱい出てきていたんですよ。
西村 それは嬉しいですね。理念って文章で書かれているだけじゃダメですよね。「”人を美しくできる人”ってどんな人なんや?」というところが、スタッフ同士で日々話し合われないと意味がない。「世界を変える」というのも、「どう変えるんだ?」まで詰めていかないと。ただのお飾りの理念じゃなくて、そういうことがスタッフ間で日々話し合われるための材料になっていけば、本物の理念になっていくんやろうなと思うんです。
野嶋 そういう雰囲気をつくるのはなかなかできることじゃないなあと思うのですが、スタッフが自主的に動ける組織づくりという部分で何か工夫されていることはありますか?
西村 まずできない人をできる人にするっていうのが、最初にありますね。次に、できる人になったら今度は、ゆだねられる人に育むというプロセスがあるように思うんです。
最初は僕自身がずっとリーダーをやっていました。LIMは八尾という田舎の、地下1階の小さな12坪のお店から始まったんですね。次にやっぱり大阪の中心にいきたいという思いで心斎橋に出店して、南船場に出店して、じゃあ次は東京かとなってきたわけです。それまでは自分でコンセプトも全て決めてきたけれど、でもそこまできたら、自分だけがリーダーだとまわらなくなってくるんですよね。自分が東京に行くわけでもないし。だから、東京に行きたいというスタッフに僕が問いかけをすることにしたんです。レポート用紙で20枚〜30枚くらいの質問状。これを完成させないと、僕はYESと言わない。感覚的ではなく数値もちゃんと出して、と。それで東京メンバーのプロジェクトチームがスタートしたんです。
野嶋 それはどんな質問だったんですか?
西村 まずは個人的な質問ですね。「あなたの売りは何ですか?」から始まって、いままでの人生で一番嬉しかったこと、悔しかったこと……。一番柱になるのは、東京でお店を出すにあたっての核となる売りは何か。現状の自分の売り、これから売りたいこと。現状のファンとこれからのファンを掘り下げること。誰に来てほしいのか、リアルなターゲットは? そんな質問です。その質問をもとに、メンバーたちは日夜話をして、1年経ったところで僕にアウトプットをしてきたわけです。でもそのときは、これじゃまだよくわからない、というダメ出しをして、また1年かけて話し合いをして……というプロセスを経たんです。
例えば「ゼロからどうやってお客さまを増やしていくのか?」という問いには、初回無料で、そのスタイルが気に入ったら2度目から払ってもらう。つまりデザインに対して後払いの考えを導入したいというような考え方も出てきました。「スタッフはどこに住むんだ?」に対しては、一軒家を借りて合宿をしますとかね。リアルなターゲットとしては、ドリカムの吉田美和さんが来てくれるようなサロンを目指すとか。そういうことが全部レポートに書かれていて。
野嶋 ああ、それはすごい……。それは、自分たちがやるんだという強い気持ちがなければできないことですよね。
西村 そうなんです。脳みそから汗を流して考えることが大事なんですよね。物語りをつくっていくという作業。彼らはそれをずっとやってきた。だから最終的には、そのレポートの仕上がりではなくて、そのプロセスを見て心から信頼できると思えたので、吹っ切れて、これはもう全てゆだねると決めたんです。