｜第１章｜OLから転身。シドニーでセラピストに。

野嶋　KEIKOさんは横浜のご出身ですよね。

KEIKO　そうです。欧米系の方もいらっしゃるし、中華街もある。今でこそダイバーシティという言葉がキーワードになっていますが、横浜のような多様性のある街で育ったことは、私の人生に大きな影響を与えていると思います。

野嶋　海外に飛び出すことには全く抵抗がなかった？

KEIKO　なかったですね。子どものころから、いつか海外に行く。それも旅行ではなく、長期滞在するんだという確信がありました。

野嶋　商社を辞めてイタリアに行かれたと聞きました。

KEIKO　商社時代はめいっぱい働いていたので疲れちゃったんですよね（笑）。やれることはやりきったという自負もありました。ですので少し休息しようと思って、29歳の誕生日を前にして退職し、フィレンツエに向かったんです。

野嶋　そのときはどこかで働かれたんですか？

KEIKO　いいえ。もう、食い倒れの旅です（笑）。アルバイトもせずに、遊べるだけ遊ぼうという充電期間でした。フィレンツエに知り合いもいないし、イタリア語もほとんど話せない状態で飛び込んだのですが、とても素敵な人たちと出会うことができました。

野嶋　モラトリアム期間だったわけですね。そのイタリア滞在中に、何か今の仕事につながるような体験をされたのでしょうか？

KEIKO　そうですね。イタリア滞在中に、「海のそばに住みたい」「人間として豊かな生活をしたい」と強く思うようになりました。イタリアの海って、本当に生命力に満ちあふれているんですよね。そこで長く過ごすうちに、物欲もほとんどなくなってきました。

　東京のOLさんは、高額なものを身につけているけれど、海の家、山の家があるわけでもない。友人がしょっちゅう家に訪ねてくるということもないですよね。イタリアは友人や家族とのつながりが深い。日本に戻っても、そんな人間として豊かな生活をしたいなと思うようになりました。

野嶋　1年ほどで帰国されたそうですが、東京に戻ってからはどうでしたか？

KEIKO　ひとまず、帰国してからは派遣で働きながら、模索の日々でした。湘南の海が見える場所に住みながら生活もできるようになるためにはどうすればいいんだろう、東京に行かずにマネーを獲得するにはどういう方法があるかな、と。でもただ毎日派遣で仕事をしているだけでは八方ふさがりだなと考えて、もう一度海外で勉強しようと思ったんです。今度は遊びに行くんじゃなくて、将来の自分の働き方につながる滞在にしたいと思いました。帰国後に海の近くで生活できるスキルを身につけたいという目標があったので、ビーチカルチャーのある場所をキーワードに滞在先を選びました。ビーチの周りに住んでいる人たちを観察していれば、自分が日本に帰ってからの働き方のヒントがあるんじゃないかなと思いまして。

野嶋　それで、オーストラリアだったわけですね。

KEIKO　はい。そこでちゃんと手に職をつけて帰ってこようと考えたんです。シドニーには、あちこちビーチがあって、そのビーチごとに来ている人が違うんですよね。カフェは朝７時前に開いていて、おじいちゃんやおばあちゃんも泳いでいる。そんな街です。私、ロハスという言葉は流行語のようになってしまったのであまり使いたくないのですが、バランスよく自然の中で生きているなと感じました。ロハスというよりdown to earthと言ったほうがしっくりくるかな。地に足がついている感じです。

野嶋　シドニーは、イタリアの明るさというか、おおらかさに通じる部分のある街ですよね。

KEIKO　そうなんです。ここで手に職をつけて帰れば日本でもビーチの近くで楽しく暮らしていけるのではないかと思って、エージェントを訪ねました。そこで、オーストラリアで進んでいるのは社会福祉と自然療法だと言われたんです。そう言われて初めて私も自然療法について調べ始めたんですが、その考え方や価値観がとてもフィットしたんですよね。

　それから2年ほどセラピストの学校に通いました。オーストラリアでは、自然療法も健康保険の適用範囲なんです。保険のプロバイダーの資格をとると、セラピストの施術も治療行為として認められるんですね。ですから、生活の中に自然療法が根付いているんです。

野嶋　社会的にセラピストの地位が確立されているんですね。

KEIKO　そうなんです。特に、富裕層ほど健康志向で、自然療法に対して敏感です。私も学校に通いながら、シドニーのホテルの中にあるスパでセラピストとして働くようになりました。34歳だったので遅いキャリアスタートでしたが、やっと自分にフィットするものに出会えたという感じでしたね。