ヘアサロン領域
2014.10.08
20代で独立し、現在神戸と大阪に6店舗を構えるTICK TOCKの代表、SAYURIさん。
近年では、オリジナルのステップボーンカットが、特許を取得。
短い時間で施術でき、カット料金のアップにも寄与するこの技術が、全国の美容師から注目を集めています。
アーティスティックな作品も次々と発表しながらも、経営者としても敏腕をふるう、SAYURIさんの脳内に迫りました。
PROFILE
牛尾 早百合(うしお さゆり)
世界を旅する直感型クリエイター/空想的夢想家/未来志向デザイン実践家/Hair dresser/Hair Make-Up Artist/Photographer/特許技術ステップボーンカット考案者/LFCA日本小顔補正立体カット協会理事
世界中の街角でモデルを発掘し、衣装調達ヘアメイクから撮影まで全てを自ら行う独自のスタイルで作品を創作。ART PHOTO BOOK 「For Japanese Hairdressers〜日本の美容師たちへ」は世界6カ国13都市で発売。経営もクリエイションととらえ、未来に立って思考しデザインし続ける姿は、美容師のみならず、様々な分野の経営者や多くの働く女性達に勇気と希望を与え続けている。
TICK TOCK webサイト → http://www.tick-tock.co.jp
|第5章|スタッフが一生働きたいサロンをつくるために
野嶋 今後、サロンはどのように展開していくんでしょうか。
SAYURI うちはもう、独立させない方向でいきます。
野嶋 なるほど。そういう組織をつくっていくということですね。
最初におっしゃっていたように、40代、50代になっても、常に働き場があるような。
SAYURI そうです。そういう10年計画を立てました。今までは、だいたい30歳くらいをめどに卒業、というようなイメージがあったんです。女性はいいとしても、男性で30歳を越えて越えて独立したいというのをとめるということは、一生責任持たないと具合悪いじゃないですか。それができる仕組みが、うちにはなかった。だから、今までは「どうぞ独立してください」と言うしかなかったんです。
野嶋 そのとおりですね。
SAYURI でも、そうやって次々独立をさせていくことによって本体は弱る。だから独立させないという方向にシフトしなくてはと思ったんです。もちろん、独立するなと言う限りは、独立するよりも絶対に幸せだよという組織を作っていかなくてはならない。
野嶋 覚悟が必要ですよね。いろんな役割を組織の中に作るということでしょうか。
SAYURI いろんな役割といっても、向き不向きはあるので、やはり美容だけでも食べていける状態にはしておかないとダメだと思うし、そう考えると生産性のいいサロン作り、利益率のいい会社作りが必要になってきます。
野嶋 でも実際には、だんだん売り上げが落ちてくるということもあると思うのですが。
SAYURI 普通にしていればそうなります。しかしそれを落とさない仕組みをつくる必要があります。 シンプルなキャリアプランで分けて、キャリアに沿った教育、給与、就業システムや、サロンをつくる。
野嶋 第一線でやりたい方と、生活と仕事のワークバランスをとりたい人で、働く店を変えるということですね。
SAYURI そうですね。だいたいどちらを目指すかは、30歳くらいで分かれてくるんではないでしょうか?
ライフワークバランスを重視したスタイリストでも、ベテランになればなるほど、技術レベルも接客レベルも高く、高単価のお客さまをとれる教育をし続ける事。そして後輩への教育の時間を減らせば、余裕もできて自由時間も増え、売り上げも上がります。
通常、ベテランになれば、スタッフ教育に追われてアウトプットだけでインプットをしなくなる。時間もなくなり外部セミナーにもいかない。これだから、売り上げが落ちるのです。
組織的に片手間でない効率的なキャリア別教育クラスを作り、短時間でおこなう必要性があります。社内にセミナー講師はたくさんいますので、合理的な教育ができます。美容室は教育産業ですから。
うちの場合はアカデミー事業と、商品があるので。だからサロンだけではなく、その3本柱でやっていこうと思っています。
野嶋 ここまでお話を伺ってきて、カットで生産性をあげる、時間を短縮し料金も上げる、海外にもいける、アカデミーや商品でも収入を得られる。美容の未来を豊かにしていくヒントがいっぱいですね。
SAYURI 実は30歳の時にNYでのサロンワーク体験を元に、経営システムをマネして、完全コミッション制のサロンを5年した事があります。利益はでましたが、自身が成長しない事に、スタイリストがジレンマを感じることが多く、思い切って再び通常の育成サロンに切り替えました。
ところが、私を含めスタッフもみんな以前より仕事が大変なのに、利益がでないという不思議な矛盾に気がつきました。
これが、日本独特の育成サロンの落とし穴だったのです。
そして、30代前半で将来が不安で独立するしかない給与体系となる。美容学校2年、アシスタント3年~5年、スタイリスト3年~5年、店長3年~5年、独立10年~30年という昔ながらのシステムだと、美容師1本で仕事できるのは、美容師人生のうちたったの数年でしかないという不可解な事実。大変危険なビジネスモデルで、誰も幸せにならない。
野嶋 マネジメントをする人と、クリエイターをしっかり分けるべきだというお考えなんですね。
SAYURI そのとおりです。逆に、経営者は美容師が安心して働く環境を整えるべきで、マネジメントは、プロがしないとスタッフは不幸になる。ベテランスタイリストになっても、法律を無視して、社会保険や有給制度等も整えられないなんて、何かがおかしいと感じます。
経営を勉強しないで、経営者になった経営者に、美容師が雇用される悪循環。
だから、将来が見えず美容師は独立するしかないとなってしまうんですよね。
野嶋 TICK TOCKさんでは、そのような業界のシステムを変えるチャレンジをされていくわけですね。
SAYURI 50歳、60歳と歳を重ねれば重ねるほど、よりエキスパートで熟練した美容師を作ることが私のビジョンです。美容師を目指したのだから、一生美容師として技術とデザインを磨くことはプロとして当然。それができるサロンを作っていきたいと思っています。
その厳しいプロセスの中にも、「ここにいてよかった」という実感を持ってほしいから、スタッフはリフレッシュ休暇をとり、ほとんど毎年、海外に行っています。社員旅行もあるんですよ。サロン別で自分達で自由に予算を組むのですが、海外にでかけることが多いですね。
野嶋 それはすごいですね。
SAYURI また、スタッフにはDJが7人もいるんです。スタッフが、「TICK-TOCK GO GO NIGHT」というクラブイベントをはじめて既に10年目。500名が集まる規模になって、チケットが取れないほどの人気イベントなんですよ。歌って踊れる、パフォーマンスもこなす美容師集団(笑)
野嶋 素晴らしいクリエーター集団ですね!
SAYURI 読者モデルのスタッフも沢山いて、会社側もプロモーションをします。個性を活かせる自由な社風です。
野嶋 TICK-TOCKの合理的に技術を習得する教育システムと、個性的で熱い組織風土。その両面があっての成長なのですね。きょうはほんとうに刺激的なお話をありがとうございました。
(撮影・中野愛子・文/佐藤友美)