女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.84まつエクで休眠美容師が活躍、売上もUP!
女性のキャリアを中断させない環境とは?
まつげエクステ&美容室 綿帽子
愛知県名古屋市
名古屋市でヘアとまつげエクステのサービスを提供する「まつげエクステ&美容室 綿帽子」は、全スタッフが女性でそのうち8割近くがママ。その理由は、出産・育児などのライフステージに合わせて、就労スタイルを選びやすい体制にあります。マナー研修会社を経営する正門律子さんが、3年前に運営会社を設立。まったく専門外だったサロン経営に挑戦し、今まで順調に売上を伸ばしています。女性美容師が幸せに働ける環境づくりの秘訣について取材しました。
1取り組み
パートは週1日、3時間からOK。休日数が選べる正社員や、時短正社員も可能。
どんな取り組み?
サロン立ち上げ時に、営業時間をママにも無理のない9:00〜18:00・日曜日定休とし、シフト制勤務に設定。そのうえで、各スタッフの希望に合わせて、さまざまな働き方に対応している。正社員は月の休日を6日、7日、8日から選べるしくみ。また、フルタイムの4分の3以上勤務する時短正社員契約もあり。パートでは最低で週に1回、1日3時間から働くことが可能。運営会社に顧問の社会保険労務士を置き、スタッフの就労スタイルの変更に対応できる体制を取っている。
なぜそうした?メリットは?
女性には、ライフステージに合わせて働き方を変えたいというニーズがある。「たとえば新米美容師の頃は技術習得が優先。でも結婚・妊娠すれば仕事のペースを落としたい。そして子育て中はパートになっても、一段落したらまた正社員として働きたい。このように、同じ人でも就労スタイルは切り替わります」(正門さん)。その中で長く働き続けられるよう、多様な就労スタイルを受け入れる体制をつくった。専門の社労士が各種保険や給料計算などをきめ細かく行うので、社員からパート、パートから社員への切り替えもスムーズ。スタッフの雇用形態の変更は毎月のようにあるが、ときには会社からその人に最適な働き方を提案することもできる。
また、すべての雇用形態で勤務日数や時間に選択肢があるので、家庭の事情などで離職するケースを減らせる。「社員契約だけど土日に休みたい」「子どもの預け先が見つかるまで週1日だけ」といった希望にも細かく対応できる。
2取り組み
指名制を取らない代わりに、「生産性」「協調性」を評価してモチベーションアップに。
どんな取り組み?
ヘア、まつげエクステとも、お客さまの特別なご希望がない限りは指名を取らず、サロン全体で対応するシステムだ。指名による成績が出ない代わりに、2015年から業務分析のためにPOSシステムを導入した。1時間当たりの売上による「生産性」と、誰かに業務を手伝ってもらったスタッフが日報で申告する「チームワーク」の2本立てで評価。昇級や、成績優秀者の表彰に活かしている。
なぜそうした?メリットは?
ママスタッフが多くを占めるサロンでは、子どもの病気などによる急な欠勤もあるため、指名制は負担が大きい。その日出勤しているスタッフでお客さまに対応するシステムなら、ママスタッフもプレッシャーを感じず安心して働くことができる。
とはいえ指名は、一目で分かる成果としてスタッフの励みになるものだ。そこで、代わりにPOSの日報に記録される業務分析を評価し、昇級や成績優秀者の表彰に反映させている。「当社の評価基準では、入社が早いことや美容師としてのキャリア、年齢などは対象外。生産性や助け合いの回数を見るこの方法であれば、勤務時間が短いパートであっても、表彰される可能性があるわけです」(正門さん)。スタッフ全員のモチベーションアップとともに、チームワークの熟成という二重のメリットをもたらしている。
3取り組み
休日のスタッフにヘルプを求めるときは、ベビーシッターを手配。
どんな取り組み?
サロンの繁忙期やスタッフの欠勤でどうしても人手が足りないときは、その日を休みにしていたスタッフに応援を頼むことがある。その場合に必要なときは、サロンでベビーシッターを手配。ママスタッフには子連れ出勤をしてもらい、働いている間はベビーシッターに子どものお世話をしてもらう。
背景は?
常にシフトは人数に余裕を持って組むようにしているが、インフルエンザの季節などは、複数のスタッフが一斉に休む可能性も。一方で「子どもの預け先さえクリアできれば、この日も働きたい」というスタッフは少なくない。会社では、そうした本人の意向をあらかじめヒアリング。リスク管理の一環として、休みを取っているスタッフへの出勤依頼と、ベビーシッターの手配が迅速にできる体制づくりをしている。
4取り組み
休眠美容師のためにまつげエクステを推進し、大幅に売上UP!
どんな取り組み?
ヘアがメインでサロンを開業して1年余りたったとき、スタッフのほぼ全員を対象にまつげエクステの教育を実施。当時2店舗だった直営店のうち、緑区店の約半分を、まつげエクステのサロンにチェンジした。
なぜそうした?メリットは?
きっかけは、開業してから初年度の売上が伸び悩んだことだ。まつげエクステのサービスは需要が供給を上回っており、成長分野であることを予測して力を入れた。その結果、直営店2店舗とも大幅に売上増。特に緑区店に関しては現在も、まつげエクステがヘアの売上を上回っているという。
まつげエクステの拡充は、女性スタッフにとってもメリットがある。カットでお客さまを担当するには2〜3年かけて技術を磨く必要があるが、まつげエクステは2カ月ほどで技術を習得できるので、すぐに活躍できる。「アシスタントで仕事を辞めた美容師が、またカット練習から始めるのは大変。でも、まつげエクステを覚えれば、バリバリ仕事をしてきたスタイリストと肩を並べて、主体的に活躍できます」(正門さん)。市場のニーズもあり、休眠美容師が活躍できるフィールドが広がったという。
代表取締役インタビュー
- Q. 美容業界の出身ではないのに、美容室の運営会社を立ち上げたのはなぜですか?
-
A. 研修の仕事で現状を知り、女性美容師が働く環境を変えようと思いました。
私が経営する研修会社のクライアントには美容室の経営者もいて「離職率が高くて困るから、改善してほしい」といった依頼があります。でも話を聞くうちに、美容師さんの長時間労働や低賃金など雇用条件の悪さが分かってきた。これはマナー研修などではなく、抜本的に変えなければ解決しない。そこで女性美容師が安心して長く働ける環境をつくりたいと思い、この会社を立ち上げました。
- Q. ミーティングなど、営業以外の業務はどうしているのですか?
-
A. スタッフに負担をかけないよう徹底して合理化しています。
会社の方針説明や表彰をする全体ミーティングは年に2回だけで、お店を早く閉めて業務時間内で行っています。また、都合が付かず出席できないスタッフのために、インターネットに動画をアップしています。普段の連絡事項はすべてSNS。幹部でもプラスの拘束時間はほとんどなく、月に1度の3時間の会議だけです。それでも、サロンの運営には問題ありません。
マネージャーのひとりは、小学生の子どもを持つママ。フルタイムで働いていますが、学校参観や保護者会などのときは数時間だけ「中抜け」しています。業務記録はPOSと連動しているので、細切れの時間でも対応できる。そうした融通がママの働きやすさには大事ですね。
- Q. 今後さらに取り組んでいきたいことは何でしょうか?
-
A. スタッフのモチベーションをさらに上げる評価方法です。
今考えているのは、POSの記録をさらに精査して、指名の代わりに「リピート率」が出せないかということ。「〇さんが担当したお客さまはよく再来店する」と分かれば、また評価の指標が増えるんです。
2017年の3月に、直営3号店がオープンします。このサポート体制で多くの美容師さんが働けるように、より広く展開していきたいと考えています。下積みに耐え、デビューしたらバリバリお客さまを取って、トップを目指す。それだけが美容師の成功ではないと思います。より多くの働き方にスポットが当たる。そんなサロンをつくっていきたいですね。
Salon Data