サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.18

実例編妻の地元でゼロからスタート。
夫婦で役割分担し二人三脚で進める訪問美容とは?

渡邊賢一さんは、奥さまの真依さんの地元である三重県松阪市で訪問美容専門の「髪んぐ」を展開中。施術は賢一さん、施術以外のすべてのことは真依さんと、お互いが得意とする分野を担当しています。賢一さんが名古屋のサロン勤務中に、一般企業にお勤めだった真依さんと結婚。夫婦すれ違いの生活だったのが、訪問美容を始めてから家族で過ごす時間が増え、仕事のやりがいとともにワークライフバランスも手に入れたそうです。ご夫妻二人三脚で歩んできた、訪問美容展開のみちのりをうかがいました。

訪問美容 髪んぐ(三重県松阪市)

  • 全スタッフ4名
代表:
渡邊賢一さん
訪問美容開始:
2013年
訪問施設数:
約50施設(1回の訪問で1〜30名)
施設訪問頻度:
半月〜1カ月に1回
訪問個人顧客数:
約70名
個人顧客訪問頻度:
1〜3カ月に1回
訪問スタッフ:
専任1名、パート2名
価格(カット):
2,000円〜、パーマ5,500円〜、カラー5,500円〜

Q

訪問美容を始めようと考えたきっかけは?

A

サロンを退職して、転職活動中に存在を知りました。

自分に向いていたんだね

転職活動中に訪問美容を知って、「ふくりび」さんと出会いました。

賢一さん:名古屋のサロン勤務時代に転職を考え、ネットで転職先を検索しているときに訪問美容の存在を知りました。愛知では訪問美容のさきがけである「ふくりび」(http://www.fukuribi.jp/)が本格的に活動されていましたので、とりあえず話を聞きたいと思って連絡を取りました。当時ふくりびで求人はしていなかったのですが、訪問美容の講習会をやっているとのことで、それに参加させてもらいまいした。
 講習会では、車いすの動かし方や、ベッドでのカットの仕方などを教えていただき、訪問美容にますます興味がわいて「やってみたい」と思ったのです。講習に参加した後、パート勤務としてふくりびが契約している施設に施術に行かせてもらえるようになりました。施設で施術をすると、利用者さまたちが心から喜んでくださるのがうれしくて、訪問美容は自分に向いていると確信していった感じです。

  • 「もともとおばあちゃん子だったので、高齢者の方々と接することが好きでした」と語る賢一さん

夫をサポートするために、ヘルパーの資格を取得し営業に備えました。

真依さん:私は一般の企業でOLをしているときに主人と結婚しました。「会社を辞めたいな」と思っていたときに主人も転職をして、「訪問美容で独立したいので手伝ってほしい」と言われました。独立となると経理などの事務的なことも自分たちでやらなければならないので、「私のOL時代の経験も活かせるかな」と。訪問美容のことは当時は知りませんでしたが「人の役に立てる素敵な仕事」だと思いました。
 そこで、主人がふくりびで施術の勉強をしているときに、私も訪問美容を始めるために必要なことを教えてもらうことにしたのです。代表の赤木勝幸さんや事務局長の岩岡ひとみさんには本当に1からいろいろなことを教えていただき感謝しています。ふくりびでは、美容師である赤木さんが施術を率いて、会社の事務的なことや対外的なことを岩岡さんがされていて、私たちのロールモデルになりました。私は美容師の資格はありませんが、独立すると私も営業をすることになるので、介護のことを知っておこうと考え、ヘルパー2級の資格を取りました。

  • 「結婚当初はまさかこんな生活になるとは思っていなかった」と真依さん

Q

独立にいたった経緯は?

A

ふくりびで1年ほど修業した後に、妻の地元の松阪市で開業しました。

役割分担がぴったり!

最初はパートと「髪んぐ」の活動を並行していました。

賢一さん:1年ほどふくりびで技術の勉強をさせていただいて、自信がついてきた頃、妻の地元である三重県の松阪市で開業することにしました。愛知は訪問美容が浸透しつつあったのですが、三重はまだそれほどでもなく、当時は松阪市には訪問美容専門の業者はいなかったと思います。それで、2013年の2月に松阪に拠点を移し、5月に「訪問美容 髪んぐ」という屋号で訪問美容専門として開業しました。
 開業してもすぐには契約が取れず、その後も1年間くらいは「髪んぐ」の営業活動とふくりびでのパートを並行しながらやっていました。

「自分がやるしかない」という思いで、飛び込み営業を続けました。

真依さん:主人は愛知と三重を往復する生活でしたので、営業は主に私の仕事となりました。営業のために必要なパンフレットや名刺、社印づくりなどスタートキットもふくりびに教えていただいて。自分たちの強みは何か、何を売りにしていくか、どのように展開していくかを考えねばならないこともご指導いただきました。三重県や松阪市の地図を買ってきて、介護施設のリストを地図上にマッピングして、どう営業にまわるかを決めていきました。営業エリアは松阪市を中心に、車で1時間以内のエリアに絞っています。私自身、飛び込み営業の経験はありませんでしたが「やるしかない!」という気持ちでしたね。主人も営業には行っていましたが、断られるとへこんでしまうたちなので(笑)、私のほうが向いていたかもしれません。
 施設の方はお忙しいため、電話でのアポイントはむずかしいことも岩岡さんからうかがっていたので、アポなしで施設やケアマネジャーさんの事務所に飛び込みでうかがいました。施設で最初に契約が取れたのは、営業を始めて5カ月後くらいのときです。もともと入っていた理美容業者が、カットのみだったのが物足りなかったようでした。サービス付き高齢者住宅だったので、経済的にはゆとりがあっておしゃれをしたい方が多く、カラーやパーマもできることを伝えると、その日のうちに契約いただけました。本当にうれしかったですね。
 
 

  • ホットペッパービューティーアカデミーのセミナーでもご活躍の「ふくりび」の赤木さん(右)と岩岡さん(左)。「このおふたりの存在なくしては、今の自分たちはなかった」と渡邊さんご夫妻は語る

  • ふくりび主催のパワーアップ合宿に参加したとき。ここで夫婦ともに多くのことを学んだ

Q

訪問美容をやっていてよかったことは?

A

ご本人だけでなくご家族にも喜んでいただける。そして、自分の時間も増えました。

子どもも喜んでいるね!

ご本人がキレイになって元気になることで、ご家族の心も救える仕事。

賢一さん:実は、「髪んぐ」としての最初のお客さまは障がいをもった若い女性でした。その方のお母さまがホームページで見つけてくださって、そのことだけでもうれしかったのですが、施術に行ったことをとても喜んでくださったのです。それまで、お母さまが美容室にお嬢さまを連れて行くことが大変だったようです。「家に美容師さんが来て、年頃の娘をトレンドのスタイルにしてもらえる」とおっしゃったお母さまの笑顔が忘れられません。
 また、別のお客さまの施術をしたときは、キレイになってうれしそうな姿を見て、その方の息子さんが喜んでおられました。ご病気になって元気がなくなっていくお母さまの姿を見ているのがつらかったそうです。施術をすることで久しぶりにお元気になられたことが息子さんの励みになったようです。訪問美容はご本人だけでなく、ご家族の心も救えるのだと思いました。

家族で過ごす時間が増え、ママスタイリストの活躍の場にもなっています。

真依さん:主人がサロンに勤務していた頃、私は土日が休みの会社勤めで、主人は平日も帰宅が深夜でした。夫婦で会話できるのは、主人が帰宅してから私が眠るまでの30分くらいしかなく、すれ違いの生活でした。それが今は休みも一緒ですし、施設の施術が夜になることはほぼないので、早ければ主人は16:00頃には仕事が終わります。息子の保育園のお迎えに一緒に行ける日もありますし、夕飯は毎日家族揃って食べていて、サロン勤務時代には考えられない生活です。これは予想していませんでしたが、訪問美容の思わぬメリットでした。
 今は訪問する施設が増えて2名のパートの方を雇っているのですが、ふたりともママスタイリストで、時間の融通がきくことで訪問美容を選んでくれた人たちです。訪問美容は子育てとの両立で悩んでいるママスタイリストや、育児が理由で退職された美容師の受け皿になれると思っています。

  • 「髪んぐ」を始めてから生まれた2歳の長男と。子どもの成長を見逃さずに生活できることにも喜びを感じている

  • 求人の際は、ママスタイリストさんにも働きやすい環境であることを伝えているそう

Q

訪問美容をやっていて大変だと思うことは?

A

施術は経験で身につけるしかない。他社との差別化も大事。

努力と経験と工夫!

サロンの施術との違いで当初は戸惑う。経験で覚えるしかない。

賢一さん初めて施設に行ったときは、車いすの方や、首の向きを動かせない方にタオルやクロスをかけることだけでも手間取っていました。また、寝たきりの方の施術の際、ベッドでのカットの仕方は教わるのですが、寝たきりの状態で寝ぐせがついている場合のカットなど、サロン時代には経験していない技術を求められることもありました。こうしたことは、経験で覚えていくしかありません。訪問美容が未経験のパートのスタッフたちには必ず私が一緒に行き、私の施術を見てまねすることから始めてもらっています。

新参入者は、他にはない自分たちの強みを相手に理解してもらわなければならない。

真依さん:営業も、地方都市は縁を大事にする地域性があるので、新参者のわれわれが入っていく難しさを感じたこともあります。もともとのおつきあいのある業者さんから替えていただくためには、私たちの強みを理解していただく必要がありました。ひとつは、忙しい施設の職員の方を手間取らせずに、こちらで段取りを管理してさしあげることです。契約が決まったら、相手のご希望をよくうかがって、それを具体的に「いつ、施設のどの場所で、どのような流れで施術するか」などを決めて、書面にしてお渡ししています。すると「任せて安心」と思っていただけます。
 もうひとつは、主人の訪問美容に対する想いを伝えることです。主人に訪問美容のやりがいを聞いたとき「たとえ相手が認知症などで、施術に対する反応ができなかったとしても、さっぱりしてキレイになったら、気持ちよくてうれしいと思ってくださるはず。そう思っていつもカットしている」と言ったんです。そのとき、「主人ってすごいな。私もこんな人に将来カットしてもらえたらうれしいな」と。そうした、人に寄りそう想いもお伝えしています。

  • 開業当初から1〜2カ月に1度訪問しているお得意さまのご自宅で。「渡邊さんは気をつかわずにお話ができて、とっても楽しい。カットやカラーをしてもらうと気持ちに張り合いが出るから、来てくれるのが待ち遠しいのよ」と、お客さまはうれしそうにお話しされていた

Q

今後のビジョンは?

A

訪問美容があたりまえの世の中にしていきたいです。

素敵な目標だね!

個人宅の訪問を増やして、一般の方にも訪問美容を知ってほしい。

賢一さん:もともと施術者が私ひとりだったので、手一杯になる前から早めにパートさんを雇ってきました。現在は施設訪問のみパートさんに来てもらっていますが、個人のお宅にもパートさんに行ってもらえるように、個人宅訪問も増やしていきたいと思っています。施設のほうが訪問美容を求める方が集まっているので効率はよいのですが、施設だけでは一般の方が訪問美容を知る機会が少ないのです。在宅で介護されているお宅を訪問することで、ご家族だけでなく地域の方々にも「家に美容師が来る」ことを知ってもらえれば、訪問美容がもっと普通のことになると思います。認知度をあげてもっと気軽にご利用いただいて、訪問美容があたりまえの世の中にできたらいいですね。

  • 「お客さまとの会話以外は口べた」と言う賢一さんだが、訪問美容の未来について、熱い想いを語ってくれた

渡邊さんからひとこと

 「一人ひとりのお客さまにいかにご満足いただけるか?」を考えて施術や接客するのは、サロンも訪問美容も同じだと思います。最初は介護の知識がなくても、「キレイにしてさしあげたい」「気持ちよくしてさしあげたい」「ご家族や職員の方にもご満足いただきたい」という、相手の方に対する気づかいができれば、訪問美容は誰にでもできると思っています。

Salon Data

訪問美容 髪んぐ【カミング】

創業年
2013年
スタッフ数
4名
URL
http://visit-kaming.jp/index.html

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