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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.7

実例編移動美容車とスタッフ派遣で急成長中。
訪問美容を「2店舗目」と位置づける考えとは?

神戸の郊外として高齢者人口が増えている兵庫県三田(さんだ)市。そこに位置する「Salon de Luxe」はアンティークのインテリアがおしゃれな人気のサロンですが、訪問美容でも急成長中。スタッフが施設を訪問するパターンに加え、専用の移動美容車での訪問も展開しています。「ビジネスとして訪問美容は利益を上げられる」と語る、オーナーの石井さんに今までの経緯とこれからの展望をうかがいました。

Salon de Luxe(兵庫県三田市)

  • 全スタッフ5名
  • 1店舗
オーナー:
石井宏治さん
訪問美容開始:
2016年
訪問施設数:
移動車3施設、訪問3施設(1回の訪問で5~15名)
施設訪問頻度:
1カ月に1回
訪問スタッフ:
サロン兼任2名、専任1名
価格:
カット2,500円〜、パーマ3,500円〜、カラー3,500円〜

Q

移動美容車を使って訪問美容を始めたきっかけはどんなことでしたか?

A

サロンに来ることが困難な方々のところに、こちらから行ってあげたいと思いました。

事業計画をちゃんと考えたんだね

サロン経営の将来と、個人的な想いとの両面から、訪問美容をやるべきと思いました。

日本が少子高齢化しているのは絶対的な事実で、サロンでもお客さまが高齢化されて来店できなくなる日は来るでしょう。そうなったときに、サロンの空き時間にただ待っているのではなく、こちらから出向く美容は必ず必要になると思いました。また、スタッフを終身雇用できる体系をつくりたかったのです。かねてから業界全体で、子どもができた女性スタッフがスタイリストを辞めるのはもったいないと感じていました。訪問美容は施設側で「午前中だけ」など指定されることが多いため、ママスタイリストが働ける時間と一致します。それなら雇用ニーズに合って、長く働いてもらえると考えたのです。
そもそも訪問美容のことを考え始めたのは、私の祖母と叔母がきっかけでした。祖母はうちのサロンから車で40分の過疎地に住んでいます。サロンなどない町なので、いつも叔母が車で祖母をここまで送り迎えしていました。施術と往復の時間で約5時間、叔母は付き添いの時間を取られるのです。ふたりのためにも「こちらから出向いて施術をしてあげられないか」と、ずっと思っていました。

  • 石井さんご自身もサロンワークと兼任で訪問美容に走り回る。サロンは若手の男性スタイリストを中心にまかせている

「移動美容車」の購入のために「経営革新計画」を申請。

そんなことを考えていた2015年のある日、テレビ番組で「移動店舗」を紹介していたのです。「それなら『移動美容車』もあるのでは?」とネットで検索すると、すぐ見つかりました。滋賀県で移動理美容を行うかたわら、移動美容車の販売もしている会社で、さっそく見に行ったのです。それが6月のこと。調べてみたら、その会社の所在地よりも三田市の方が高齢者人口が多い。「ビジネスになる!」と確信しました。
移動美容車を購入する資金調達の方法を、加入している商工会で相談したところ、県の「経営革新計画」について教えてもらったのです。事業計画書を提出して審査が通れば、無担保・無利子・低金利でお金が借りられると。また、その承認が取れると、さまざまな助成金の申請の際にプラスになるので、事業計画書を必死に作成しました。11月に承認がおりて、銀行からの融資を受けられることになったのです。

  • サロンに飾ってある経営革新計画の承認書。簡単ではなかったが、群馬のサロンが訪問美容で承認されたと聞き、事業計画がきちんとしていれば承認されると確信していたそうだ

Q

なぜ資金がかかる移動美容車を使おうと思ったのですか?

A

「2店舗目のサロン」という位置づけで考えています。

移動美容車って高くないのかな?

移動美容車での施術が、地域の高齢者施設のニーズにあっている。

移動美容車があれば、祖母の家まで行ってあげられると思ったのが発端でしたが、訪問美容を当店の柱のひとつとして考えているので、「2店舗目のサロン」をオープンしたイメージです。車は中古で570万円で購入しましたが、サロンを1店舗オープンする場合は1000万円以上はかかります。初期投資としてはリーズナブル。
売上もサロンと同等にいけると思っています。現在お取引している施設は、介護施設よりも高齢者マンションが中心で、比較的お元気で、経済的にも余裕のある方が多いのです。施術はカットだけでなく、カラーやパーマを同時にされるケースが多いため、客単価で7,000円〜10,000円も珍しくありません。サロンよりは若干低くても、1度の訪問で最低5名の予約をかためていただけるので、利益を見込めます。
それが可能なのは、そういう施設が大都市圏よりも郊外エリアに増えているからでしょうね。また、介護施設と違って居住マンションなので、施術できるスペースがないため移動美容車が重宝されます。移動美容車なら車いすのまま入れるのも、ご支持いただいている理由のようです。

  • これが現在活躍中の移動美容車。電動リフト付きなので、車いすでそのまま乗れる

  • 移動車の中にはシャンプー台もある。歩けるお客さまはサロンと同様の椅子で施術ができる

スタイリストのみを派遣する訪問も並行で行っています。

当社では、移動美容車以外でも、専任スタッフによる訪問も並行して行っています。私以外の訪問美容スタッフ2名はママスタイリストで、子育てに軸足があるのでパート勤務中です。専任スタッフが訪問するのは介護施設中心で、ほぼカットのみです。そのかわり1度の訪問で、午前中だけで10〜15人の施術をするので、売上としても悪くありません。
施設で施術する場合は、相手先のスペースを汚さないように細心の注意をはらっています。そのために、掃除機のほか、床に髪が落ちにくいクロスなど訪問美容専門グッズも取り入れています。

  • 専任スタッフが訪問する際の道具は、カートにまとめて携帯。カット道具、クロス、掃除機などをなるべくコンパクトにまとめている

Q

営業や日頃の施術など、大変なことも多いのではありませんか?

A

すべてが初めてのことなので、「できることは何でもやってみる」気持ちで取り組んでいます。

人とのつながりはやっぱり大事!

メディアへのアプローチと、施設へのFAXで営業をしました。

移動美容車が納車になったのが今年(2016年)の2月で、本格的に営業を始めたのは4月頃からでした。営業は、新聞社などのメディアにプレスリリースと、高齢者施設にチラシをFAXする、2本だてで始めました。メディアは全国紙の大手新聞社、地方新聞社、ネットニュースサイトなどです。4月に神戸新聞やYahoo!ニュースの地域版に取り上げてもらえました。ただ、そこからの反応は個人の方2件ほどで、遠い場所だったため、お引き受けできませんでした。けれど、メディアに取り上げていただけると、その後施設などに行く際の話題になるので、無駄ではなかったと思います。営業に結びついたのは施設へのアプローチですね。200件くらいFAXを送り、その後電話でフォローして、2件の施設からお仕事をいただくことになりました。その後はご紹介や、取引先の関連施設など横のつながりで広がっています。
また、いきつけの居酒屋さんで、同じく常連だったケアマネジャーさんをご紹介いただいたこともあります。商工会に経営革新計画のことを教えてもらったことも同じですが、いろんな人に訪問美容をやっていることを日頃から雑談レベルでも伝えておくことも大切かもしれませんね。

  • 営業用のチラシも工夫しながら作成。当初はFAXで送ったりしていたが、現在は紹介してもらう際に持参している

わからないことだらけなので、その都度改善しながらやっています。

本格的に訪問美容がスタートしてからまだ半年もたっていませんが、出向いて行う施術はサロンワークとは全く異なるので、毎回戸惑うことばかりです。利用者さまのお体の様子も人それぞれですし、施設内で施術する場合の施設の状況や、職員の方との連携の仕方もそれぞれです。例えば、ある施設で施術スペースの横にお風呂があって室温が高く、施術後に汗だくになってしまい、その後にサロンに立てる状況でなくなってしまったり。また、高齢者の方はパーマの際、細いロットのスタイルを好まれるのですが、行ってみたら障がいのある若い方もいて、ゆるふわパーマを希望されてロットが足りなかったりということもありました。
お互いに初めてのことばかりなので、利用者さまや職員の方にその都度「いかがでしたか?」とご意見をいただいてすり合わせすることが大切です。介護保険制度も最初はわからず、スタートしてから勉強しました。状況が毎回違うので、やってみないとわからないことばかりです。最善を尽くしてやってみて、うまくいかなかったことや、利用者さまのご要望にそえなかった場合、「次にどうすればいいのか」改善策を考えればいい。それはサロンワークと同じかもしれませんね。

  • 利用者の方々の状況や要望はさまざまで、この日もカットのみの予定が急きょカラーをご希望された。お体の状態によりシャンプー台に向かうことが難しかったため、次回での改善をお約束した

Q

訪問美容について今後どんなビジョンをお持ちですか?

A

ビジネスとしてひろげながら、ママスタイリストの雇用にもつなげたい。

ベテランスタイリストの新たなやりがいにもなるんだね

個人宅の訪問美容を視野に入れて検討中です。

現状は移動美容車もスタッフの派遣も施設のみですが、個人宅のニーズが増えていくと思うので、それをがんばりたいですね。うちのサロンは車で来店されるお客さまも多く、高齢になるとご自身では運転して来られなくなる方も増えるはずです。そうした方々のニーズにお応えできる体制をつくっておきたい。ただ、個人の場合は1日に固めて予約を入れて、移動を効率的にしなければ採算が合わなくなるため、エリアを絞るなど検討事項は多々あります。我々が利益を出せていないと、訪問美容を続けることができず、今喜んで求めてくれている方々のお気持ちに応えられなくなってしまいます。利益を出せて、お客さまにも納得いただけるメニューがどのくらいなのか、金額も検討しなければならないと思います。

ママスタイリストたちがイキイキと働いている。その活躍の場を広げたい!

前述のように、訪問美容はママスタイリストにとって時間の都合がつきやすい業務です。ママスタイリストたちがお互いに都合のよい曜日でシフトを組むことで、今後もどんどん訪問美容をひろげたいですね。高齢者の方の年齢もお人柄も幅広いので、訪問スタッフもいろいろな年齢層がいるといいと思います。いまは、専任スタッフが50代、兼任スタッフが40代、私が30代といい感じにばらけています。
兼任スタッフの関口は施設のアイドルになっています(笑)。40代でも利用者さまは80〜90代の男性もいて「こんなキレイな人に来てもらってもいいの?」と喜んでくださる。そう言っていただけると本人のモチベーションも上がりますよね。
それだけでなく、訪問美容はサロン以上にお客さまから感謝の言葉をいただけたり、「来てもらっているのにパーマして7,000円でいいの?」と言われることも。人生の経験を積んだ方々との会話だけでも毎回楽しい。大変なこともありつつも、私もスタッフも今までとは違う楽しみを、訪問美容によって得られた気がしています。

  • サロンと兼務で移動美容車の運転もこなす関口敏子さん。子育てで約10年ブランクがあったが、すぐに勘も戻り、もともとの接客力で利用者さまの人気者に

石井さんからひとこと

「何から始めていいかわからない」という方もいるかもしれませんが、難しく考えず、サロンを立ち上げるのと同じと考えればいいと思います。営業も施術も、やってみて違っていたら、改善していけばいいのです。私たちもチラシをいろいろ配りましたが、効率が悪かったのでやり方を変えたり試行錯誤しました。サロンワークをきちんとできている人であれば、訪問美容もできると思います。施術面ではサロンと同じようにはいかず、利用者さまの状態によって難しい局面もありますが、訪問美容グッズも充実してきています。グッズに頼ることで解決できることも多々あります。利用者さまの役に立ちたい気持ちと、地域のニーズがあれば大丈夫です!

次号では、デザイン力を強みに組織的に訪問美容を展開しているサロンをご紹介する予定です。

Salon Data

Salon de Luxe【サロン ド リュクス】

アクセス
JR三田駅より徒歩5分
創業年
2012年
店舗数
1店舗
設備
4席
スタッフ数
サロン4名(うち訪問美容兼任2名)、訪問美容専任1名
URL
http://beauty.hotpepper.jp/slnH000230060/
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