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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.8

実例編デザイン、スピード、気づかいで差別化。
お客さまにとっての「一生専属美容師」を目指す展開とは?

銀座・青山を中心に、ヘア、ネイル、ブライダルと幅広く展開する「VISAGE」。訪問美容をスタートしたのは10年も前から。試行錯誤しながら、現在はサロン兼任の7名のスタッフが、10施設をほぼ毎月訪問しています。「サロンと同じクオリティをお届けする」と語るのは、「VISAGE maison」店長の池田さん。訪問美容チームの責任者も務める池田さんにお話をうかがいました。

VISAGE maison(千葉県船橋市)

  • 全スタッフ約320名
  • 27店舗
店長:
池田わたるさん
訪問美容開始:
2006年
訪問施設数:
10施設(1回の訪問で5〜30名)
施設訪問頻度:
1〜2カ月に1回
訪問個人顧客数:
定期4〜5名
個人顧客訪問頻度:
1〜2カ月に1回
訪問スタッフ:
サロン兼任7名
価格:
カット…施設2,500円〜、個人4,000円〜(パーマは施設5,500円〜、個人5,000円〜)

Q

「VISAGE」が訪問美容を始めたきっかけはどんなことでしたか?

A

「お客さまがいくつになってもキレイにしたい」想いでスタート。

10年も前からやっていたんだ!

転職してきたタイミングでサロンが訪問美容をスタート。個人的にも介護は身近なテーマでした。

10年前、私が「VISAGE」に転職してきたとき、ちょうど会社として訪問美容を始めようとしていました。社長が「お客さまがおいくつになってもキレイにしてさしあげたい」という想いをもち、「お客さまが将来、サロンに来られなくなったらどうするか」を考え始めていたのです。現在は独立されている、当時会社のNo.2だった先輩が社長とともに事業として立ち上げました。個人的にも、以前実家で祖母を在宅介護していたので、介護は身近なテーマでした。また、おしゃれだった祖父が入院したときに、病院での施術で刈り上げになってしまい残念そうにしていて、祖父を喜ばせてあげられるような美容師になりたいと思っていたのです。だから「VISAGE」で訪問美容をやると聞いたときにすぐに立候補し、立ち上げた先輩と私の2名でスタートしました。

移動美容車での個人宅訪問から始まりました。

営業は、経営業務が中心だった先輩が専任で行っていました。ケアマネジャーさんの事務所をまわってご紹介いただいた、在宅介護の個人のお客さまからスタート。当時は会社で専用の移動美容車を所有していて、その車で施術していました。1年ぐらいして施設の訪問も考え始めた頃、本部の近くに介護施設ができ、施設訪問はそこから始まりました。
ビジネスとして軌道に乗るまでには5〜6年かかりましたね。試行錯誤しながら、現在は移動美容車での施術はやめました。このエリアは道幅が狭い場所が多いため、駐車スペースを確保するのが難しいのです。移動美容車がなくても施術できる施設をメインにして、個人宅の比率を減らしています。

  • 現在使用している営業ツール。メニューだけでなく、「あなたの専属美容師宣言!」というポリシーも明確に表現している

Q

軌道に乗るまでの営業や、訪問美容のスキルアップはどうされたのですか?

A

「強み」をきわ立たせて売り込み、自分たちで技術開発していきました。

他社との差別化がポイントだね

1回断られても、あきらめずに何度も訪ねる。

先輩が独立のため退職されてからは、私が訪問美容の責任者となりました。ビジネスとして訪問美容を成り立たせるために、施設の営業を強化し、ネットや役所で調べた施設に飛び込みで営業しました。飛び込みで行っても1回で契約が取れることはほとんどありません。1度断られても、何度も訪問しました。最終的には施設のトップの方に会わないと契約には結びつきません。しかし、最初に会った人がある程度判断できる立場の方で、訪問美容以外の話題ができたり、先方から質問をいただくなど好感触のところは再度うかがうようにしていました。施設にはすでに訪問理美容者が入っていることがほとんどなので、代えようとしているタイミングのときに再訪しなければなりませんが、それはこちらにはわかりません。だからあきらめないことが大事なのです。「ひとりだけでもいいので、試しに施術させてください」と申し出て、きっかけをつくったこともあります。

サロンと同じクオリティを訪問美容でも提供して差別化。

訪問美容でも自社の強みをつくることが大事です。当社はあえて訪問美容専任のスタッフはおかず、私を含め全員サロンと兼任です。それは、うちの強みとして「デザイン、気づかい、スピード」で差別化しているからです。逆にいえば、それらが他社に対して利用者さまや施設の方が不満に感じていることなんですね。「専属美容師宣言」をして、「サロンで人気のスタイリストが、サロンと同等の技術とサービスを提供する」とお伝えし、そのことに評価をいただいています。
おしゃれをしたい気持ちは、施設にいる利用者さまもサロンのお客さまも同じです。こちらからトレンドのデザインの提案をすることもあります。また、利用者さまに対する気づかいはもちろん、職員の方々のお仕事の妨げにならないよう配慮しています。基本的に我々は邪魔な存在だということを心にとめて、「職場の端をお借りして施術させていただいている」という気持ちを忘れずにいることが大切ですね。

  • 「サロン同等の施術」を行うため、カラーやパーマでおしゃれなスタイルを希望される利用者さまも多い

自分たちで試行錯誤しながら技術開発し、勉強会を行っています。

施設での施術は時間との闘いです。カットだけなら1時間で最低でも4名は施術しなければなりません。スピードを上げてもクオリティを落とさないために、季節に1回、訪問美容スタッフを集めて勉強会を行っています。施設の利用者さまはサロンのお客さまとはお体の状態も違いますし、寝たきりの方もいるため、サロンとは全く異なる技術を必要とされます。最初の頃はどうしていいかわからず、先輩とふたりで練習していました。例えば、テーブルに寝て、寝たきりの状態を再現してカットし合ってみたり、ペットボトルに穴を開けてシャンプーしてみたり。また、サロンでは前かがみのシャンプーはないので、理髪店を訪れて体験してみたり教えていただいたこともあります。そうやって自分たちで技術開発していきました。
自分自身の技術の向上も実感できます。「手が見えないくらい速い」と言われることもあります(笑)。カットだけでなく、当社はパーマが速くてクオリティが高いこともご好評いただき、パーマのリピートの利用者さまが非常に多いです。それくらい、スタッフたちは日々練習をしているのです。

  • 「VISAGE」の強みのひとつでもあるパーマ。練習でロットを手早くセットし、30分で仕上げるそう

  • 施設ではサロンとは異なる前屈みのシャンプーが多い。訪問美容専用のクロスや移動シャンプー台など、専用グッズも取り入れながら施術を工夫している

Q

訪問美容をやっていて大変なことや、やりがいはどんなことですか?

A

サロンと違うことが起きることが大変でもあり、違う喜びを得られます。

介護する方の立場で考えているね

寝たきりなど、練習していても想定外の事態が必ずあります。

大変なことは、やはり対象が介護・介助が必要な方々ということです。座った姿勢を5分も保てない方もいらっしゃるので、施設の職員やご家族の方々のご協力なしでは成立しません。私が訪問美容で最初に担当させていただいたのが、私と同い年でケガによって寝たきりになった女性でした。寝たきりの施術の練習をしていましたが、正直「無理かもしれない」と思いました。ベッドが壁に着いていたため、頭側にまわって施術ができず、後ろをどうやってカットしていいかわからなかったのです。ご家族さまに体を斜めにしていただくことで解決できましたが、現場ではこうした想定外のことが必ず起きます。毎回、利用者さま、職員の方、ご家族さまの感想をうかがって、次への改善につなげる努力をしています。

  • 初めての訪問美容のお客さまと対面したとき、自分と同い年だったこともあり、「精神的にも辛かった」と池田さん

介護をする方々とのコミュニケーションも大事。

訪問美容を続けるにあたって、職員の方やご家族さまとのコミュニケーションは非常に大事です。感想をうかがうと言っても、日頃のコミュニケーションが取れていないと、本音をおっしゃってくださらないと思います。我々も以前、施設のお風呂の時間に気づかずに、利用者さまのご希望でパーマをしてしまったことがありました。あとで気づいたら、お風呂の時間以降の施設の予定がすべて遅れてしまっていて、お詫びしました。職員の方も、「美容師さんたちも一生懸命やっているから」と何もおっしゃらなかったのですが、そのように職員の方にお気づかいをさせてしまうこと自体が失敗だったと思います。また、ご本人はあまり切りたくなくても、日頃シャンプーをするご家族や職員の方は、短いスタイルを希望されることもあります。利用者さまご本人の希望が第一ですが、お互いのコミュニケーションをとりながら、両者がご納得いくような気づかいも必要です。

サロンワークとは喜びの到達点が違います。

サロンワークでも訪問美容でも、お客さまに喜んでいただくことがスタイリストの喜びだと思います。けれどその「喜びの到達点」が異なっているように感じます。サロンではカウンセリングからスタートして、施術しながらお客さまと共有している時間を楽しむことができますが、訪問美容の場合、時間がないなかで喜びを得られるのです。ひとつは利用者さまの喜び方がとてもピュアで「本当にやってよかった」と思えること。もうひとつは短時間でご満足いただけるデザインをつくれた技術者としての喜びです。サロンワークと兼務していることで、スタイリストとしてさまざまな喜びを得られるようになりました。

  • 新規の契約時は、まず池田さんが担当し、利用者さまの状況を把握してから、担当店舗のスタッフに引き継ぐ

Q

訪問美容は今後どのように展開していきたいですか?

A

訪問美容を希望するスタッフを増やして、幅も質も広げたいです。

若手スタッフにも期待しているよ!

訪問美容を広げながら、異業種との連携もはかりたいです。

今後は、基本はいまの形を広げていきたいです。当社では、全スタッフにサロンワーク以外にブライダルや医療用ウィッグ、ファッションウィッグなど、何らかのチーム活動をさせていて、訪問美容もチーム活動の一環です。7名の訪問スタッフはそれぞれ別々の店舗に勤務しており、自分の店舗の近くにある施設を担当しています。「VISAGE」は27店舗あるので、それぞれの店舗に訪問美容スタッフがいれば、もっと施設を網羅できると思います。
また、訪問入浴などさまざまな介護を取り巻く業種とタッグを組み、さらにご利用者さまにご満足いただけるような体制がつくれるよう、現在積極的に動いているところです。例えば、カットやパーマの前後に、お風呂に入ってすっきりしたいというご希望もあります。お風呂付きの施設以外でそうした希望が出た場合、訪問入浴の方々と連携して行えればみんなにとって良い結果になります。求めている方に、求められるサービスをすべてお応えできるようになることが理想ですね。

お客さまにとっての「一生専属美容師」を全員がめざしています。

実は当社では毎年1回ずつ、全スタッフが訪問美容を経験する場を与えています。「VISAGE教育」の一環で、施設で求められる最低限の技術を練習させてから順番に施設に派遣して、「訪問美容とは何か」を体験してもらっています。現在兼任の7名はその上で希望した精鋭たちです。「VISAGE」の考えは、当社のスタッフそれぞれがお客さまにとって「一生専属美容師」になることです。現在サロンにいらしているお客さまも「自分が年を取ってサロンに来られなくなったら来てね」とおっしゃってくださっています。だから、いま訪問美容をしていない若いスタッフたちにも、将来訪問美容に興味を持ってもらえたらと期待しています。
訪問美容はサロンワークよりも大変なことが多いため、スタッフの給与についてはサロンでの指名よりも訪問の歩合を高く設定しています。お客さまの単価は訪問美容の方が安いですが、光熱費や家賃などのコストがかからないので、人件費を高く設定することができるのです。スタッフにとってのメリットをもたせて、訪問美容にさらに光を当てていきたいと考えています。

  • ファッションウィッグスタイリストとしても活躍中の池田さん。いくつもの兼務をこなし「忙しすぎてむしろ楽しいくらい」と語る

池田さんからひとこと

私たちも10年前に始めたときは手探り状態でした。それでも「訪問美容をやるんだ」という意志を持って続けてきました。営業が実らず行き詰まったり、サロンの指名と訪問美容の急な予約で振り回されていた時期もありました。けれどあきらめずに地道な積み重ねで、ここ3〜4年で施設が増えて、売上も安定してきました。施設との信頼関係ができたため、訪問美容の翌年の予約は前年末に年間で決めさせていただくなど、こちら主導で進められるようになっています。サロンワークや店長業務、その他いくつもの業務との並行は激務ですが、兼務で訪問美容をお考えの場合は、一度それくらい、とことんまでやってみることだと思います。ビジネスとして成り立つ訪問美容を、業界で広げていきましょう!

次号では、サロンオーナーが個人の取り組みとして訪問美容を始めているケースをご紹介する予定です。

Salon Data

VISAGE maison【ヴィサージュメゾン】

アクセス
JR下総中山駅から徒歩1分
創業年
1990年
店舗数
27店舗
設備
17席(VISAGE maison)
スタッフ数
約320名(VISAGEグループ全店)
URL
http://beauty.hotpepper.jp/slnH000219700/
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