サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.37
実例編居宅介護の方へ美容を届けたい!
D-COLOR
- 全スタッフ6名
- 1店舗
- ディレクター:
- 林やすみさん
- 訪問美容開始:
- 2005年ごろ
- 訪問施設数:
- 3施設(1回の訪問で2-3名)
- 施設訪問頻度:
- 2-3カ月に1回
- 訪問個人顧客数:
- 5件
- 個人顧客訪問頻度:
- 3カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 1名
- 価格:
- カット5,000円〜、パーマ1万2,000円〜、カラー1万2,000円〜(出張費別)
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Q
訪問美容に興味をもったきっかけは?
-
A
おしゃれなヘアスタイルの高齢者の方が少ないことに疑問をもちました。
高齢でも病気でも、女性はキレイになりたいはず。
昔から、普通に町を歩いているときや、病院に行ったときなどに高齢者の方を見かけると、おしゃれとは言えないヘアスタイルをされていることが気になっていたんです。サロンの若いお客さまでも、もともとはいつもキレイにされていた方が、心の病気をされたことをきっかけにおしゃれから遠のいてしまったことがあり、残念に感じていました。
その一方で、自分の祖母が病気になったとき、もう先は長くないという状態だったのに、キレイにしてもらうと元気になっていたのです。やっぱり女性はいくつになっても、どんな状況でもキレイになって人から褒められたいんだなと。祖母が元気になると、我々家族や周りの人も嬉しくなりました。
だから、年齢やご病気などの事情でサロンに来られない方がいるのであれば、こちらから行ってあげたいという想いは、20年以上前からもっていました。
サロンのお客さまに「訪問美容をやりたい」と伝え続けていた。
「やりたい」という想いはもっていたものの、当時はまだ訪問美容という言葉すら聞いたことがなく、何をどうすればいいかわかりませんでした。とりあえずヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)の資格をとったり、福祉美容の講習に行ったりして、介護関係の知識を身につけていました。
「D-COLOR」は麻布十番で23年間続いており、親子2代で来てくださるお客さまも多い地元密着型のサロンです。昔からのお客さまが年齢を経てサロンに来られなくなったり、お客さまの親御さんが要介護になったりということが少なくありません。私が訪問美容をやりたいことをお客さまたちに日頃からお伝えしていたなかで、お客さま側に必要性が出てきたことで自然とスタートできた感じです。
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Q
サロンワークと訪問美容はどうスケジューリングしているのですか?
-
A
サロンの予約と同様に、訪問美容の予約を受けています。
オーナーもスタッフも理解してくれているので、サロンの営業日にも訪問しています。
サロンのスタッフで訪問美容をしているのは私ひとりですが、オーナーはじめみんなが私の活動に理解を示してくれています。そのため、「D-COLOR」のメニューの一環として訪問美容を位置づけさせてもらい、サロンのホームページでも告知しています。
いまのところメインはサロンワークなのですが、予約が入れば、営業日でも私が訪問美容に行くことがあります。ただし、訪問美容は移動に時間がかかります。効率よくできるよう、1日にかためて予約を入れたり、午前中の早い時間に訪問美容に行って、オープンの11:00にはサロンに立てるようにするなど工夫はしています。
サロンに来られる方は、車イスでの来店もOK。
私は施設に訪問してはいますが、施設と契約しているわけではありません。あくまでも個人のお客さまから呼ばれて伺っているので、その方が施設に入所していれば施設に、居宅介護の場合は個人のお宅に訪問しています。施設に行く場合はもちろん施設側の許可を取っています。施設で施術をしていると、それを見た他の利用者の方が「私もやってほしい!」とおっしゃって広がっていくこともあります。
ケアマネジャーさんの事務所からお客さまをご紹介いただくこともあります。そうした方々のなかには、状態によっては介助があればサロンに来られる方もいらっしゃいます。「D-COLOR」は店内が広々としているので、車イスでもまったく問題ありません。安全面を考慮し介助者が同行している場合に限りますが、車イスでのご来店も受け付けています。すると「車イスで他のサロンに行ったら断られた」とおっしゃる方もいらっしゃいます。断ったサロンもお客さまの安全を考えてのことだとは思いますが、そんな話を聞くと悲しくなりますね。うちはベビーカーのお客さまもOKですし、どなたでも分け隔てなく来られるサロンでありたいと思っています。
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Q
訪問美容を始めてみた感想は?
-
A
都心での施設営業は大変ですが、誇りをもてる仕事だとあらためて感じています。
訪問美容は都心では特殊なマーケットかもしれません。
私が個人のお客さま中心で訪問美容を考えているのは、都心という地域性が大きな理由です。地価が高い都心は施設数が多くはなく、あっても大手の訪問美容業者がすでに入っていることがほとんどです。そのため、施設への営業は早いうちにほぼあきらめました。その代わり、都心には高級マンションが建ち並び、そこで居宅介護を受けている高齢者の方が相当数いるはずで、その数は今後増える一方ではないかと思います。実際にサロンの長年のお客さまたちがそうです。
「D-COLOR」がある麻布十番エリアに住む高齢者の方々は、生活に余裕がありおしゃれに対する意識も高めなことが多いです。サロンと同様かそれ以上のサービスが求められる一方で、高めの料金設定にも対応していただけます。麻布十番で長年サロンをやってきたブランド力もありますし、私個人もベテランとして培ってきた技術と接客力にも自信があります。都心という特殊なマーケットのなかで、大手とは別の方法で広げていく道筋もあるのかなと思っています。
訪問美容はお客さまから感謝をいただける、素晴らしい仕事。
コロナ禍で施設への出入りが難しくなったときでも、信頼関係の深い個人宅のお客さまのところへは変わらず通わせていただいています。コロナは高齢の方にも影響を与えていて、外に出られなかったり、人と会う機会が激減したことで認知症などが悪化されている方も少なくないようです。
私のお客さまのなかにも、お母さまが寝たきりになってしまった方がいました。おうちに伺ってお母さまのカットをベッドでさせていただいたのですが、最初お声をかけても反応がなかったのです。「もうお話することもできないのかな?」と思いながら、施術後に鏡を見せたら、笑顔で「ありがとう!」と言ってくださったのです。驚きとうれしさで涙が出そうになりました。お金をいただくのに、さらにお客さまから「ありがとう」と言ってもらえる訪問美容師という職業に、あらためて誇りを感じた瞬間でした。
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Q
今後の展望はどのように考えていますか?
-
A
離職したママ美容師たちと一緒に訪問美容をやりたいです。
サロンに来られないすべての人をキレイにしたいです。
いまはまだサロンワーク中心で訪問件数も少ないですが、件数が増えたらいずれは、出産や子育てによって離職した美容師の活躍の場にできたらと考えています。「D-COLOR」はオーナーをはじめ女性スタッフ中心ということもあってか働きやすく、私自身はふたりの子どもを出産し育児と両立して来られました。そういう環境ではなかった女性スタイリストたちと一緒に、訪問美容をやっていけたらと思います。
また、高齢者の方だけでなく、お体の不自由な方や家族の介護をしている方など、サロンに来られないすべての方のお役に立てるようになりたいと願っています。
イベントなどに参加して仲間を見つけるのも手。
私は10年以上前から訪問美容を行っていましたが、他の人がどうしているのか知りたくてホットペッパービューティーアカデミーの訪問美容ワークショップに参加してみたことがあります。参加してみてよかったのは、参加者同士が話す時間があって、優しい心をもって、訪問美容に興味を示している仲間が大勢いるとわかったこと。車イスの方を断るサロンがあると聞いていた一方で、志を同じにする美容師もいっぱいいるんだと。ひとりで訪問美容を始めようと考えている人がいたら、こうした機会を利用してみるとよいと思います。
林さんからひとこと
新しいことを始めるとき、なかなか最初の一歩は踏み出しにくいかもしれません。それは「困っている人を助けてあげたいけれど、声をかけるのは恥ずかしい」という気持ちと似ているような気がします。キレイになりたくてもサロンに行けない、困っている人はたくさんいるのです。だから恥ずかしがらずに声をかけてほしいと思います。
例えば、町で知人を見かけたときに、つい面倒で気づかないふりをしてしまうことってありますよね。そういうときにも面倒がらずに声をかけるだけでも、一歩踏み出す練習になると思います。もしかしたらそのときに声をかけたことで、その友人と新しいつながりが始まる可能性もあるのです。訪問美容を始めたい気持ちがあるなら、そんな小さな勇気だけで意外と始められるものではないでしょうか。
Salon Data
D-COLOR【ディーカラー】
- アクセス
- 麻布十番駅A4出口から徒歩1分
- 創業年
- 1997年
- 店舗数
- 1店舗
- 設備
- セット面10席
- スタッフ数
- 10名