サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.43
実例編介護関係者にチラシが広がり、契約増加!
hair salon dot
- 全スタッフ1名
- 1店舗
- オーナー:
- 三重野梓さん
- 訪問美容開始:
- 2016年
- 訪問施設数:
- 3件
- 施設訪問頻度:
- 月に1回
- 訪問個人顧客数:
- 約20件
- 個人顧客訪問頻度:
- 2カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 1名
- 価格:
- カット3,000円〜、パーマ4,500円〜、カラー4,500円〜
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Q
訪問美容に関わったきっかけは?
-
A
父が他界し、地元に帰ってきたことでした。
地元に戻ったときに、訪問美容専門の会社に入ったことが最初の出会いでした。
9年前に父が他界し、同時期に祖父が認知症を患ったことから、それまで働いていた高松から実家のある丸亀に戻る決意をしました。その際、先輩の紹介で最初に入ったのが訪問美容専門の会社だったのです。他のスタッフとチームを組み、移動美容車で施設をまわって施術をしていました。
その会社で訪問美容をして1年ほどたったころ、母から「訪問美容はもう少し年を重ねてからでもできる仕事なんじゃないの?」とアドバイスされ、サロンに転職することにしました。
自分ならではの活動がしたくて、サロンに勤めながら訪問美容を始めました。
再びサロンの美容師として活動しているうちに、「自分の特徴を活かせるのはやっぱり訪問美容かもしれない」という想いが強くなってきたのです。父が亡くなったときに、「父が生きているうちにもっと役に立ちたかった」と感じたことで、福祉に目が向いていたことが大きかったと思います。
また、私自身に持病があり、普段は元気なのですが、体調が原因でチャレンジしたい仕事を諦めたり、お客さまやサロンにご迷惑をかけてしまうことがたびたびあったのです。「そういう自分だからこそ障がいをおもちの方々の役に立ちたい」という想いから、訪問美容への意欲につながっていきました。勤務していたサロンのオーナーさんは理解のある方で、「三重野さんには経験があるんだからぜひやってください」とおっしゃっていただき、サロンに勤めながら個人の活動として訪問美容をやらせていただくことになりました。
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Q
訪問美容の営業はどうされましたか?
-
A
チラシを作って施設や社会福祉協議会、個人宅を回りました。
介護関係者の方々からの紹介が最も多かったです。
訪問美容の営業を始めるために、まずチラシを作って高齢者施設や養護学校などを回りました。香川は美容室の数が多く、差別化のために訪問美容もやっているサロンが増えています。そのため価格競争になっていたり、新設する病院や高齢者施設の場合、院長や施設長と知り合いの方がつながりやすいのかな、と感じていました。そのため、私は居宅の個人の方をメインにし、今も時間があればポスティングしています。
いちばん契約に結びついたのは、祖父を担当するケアマネジャーさんからの紹介でした。また、社会福祉協議会にチラシを置かせてもらっていたら、それを介護関係者の方々が回してくださり、「『みずたま』という名前が可愛かったから電話してみました」などと声がかかることが増えていきました。チラシがひとり歩きしてくれた感じです。また、訪問リハビリをしている理学療法士の友人からも5名ほど紹介してもらい、少しずつ広げていくことができました。
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Q
サロンでの兼務から独立された理由は?
-
A
もともといつかは独立したいと考えていました。
亡き父や夫の想いに後押しされました。
訪問美容自体はサロン勤務中の2016年から始め、2020年の年末に「hair salon dot」を構えて独立しました。昔から「いつかは独立したい」という気持ちはありましたが、持病のこともあり「自分には無理かもしれない」と諦めてかけていました。でも夫が「自宅兼サロンとして独立すれば、お客さまがいないときにすぐに休めるスペースがもてるのでは?」と言ってくれたのです。さらに夫は、私が訪問美容をやっていることをとてもリスペクトしてくれていて「独立しても訪問美容だけはやめないでね」と。
持病がつらくて何度も美容師をやめようと思ったこともありました。でも夫のこの言葉や、亡くなった父が「美容師をしている姿が好き」と言ってくれていたことが、今の自分に勇気をくれていると感じています。父に今の姿を見せてあげられたら、きっと「娘が訪問美容してるんや」と自慢してくれたと思います。
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Q
実際に訪問美容を始めてどうでしたか?
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A
学ばせてもらうことがたくさんあります。
いちばん最初の訪問が最も大変でした。
私の訪問美容は専門会社でスタートし、その初日に担当したのが精神科系の病院でした。患者さんと意思の疎通が全くできなかったり、物理的にも大変なことが多く衝撃を受けました。頭では想像していましたが、実際の現場に行くと予想以上に大変だと感じ、その後の訪問美容への覚悟ができました。
今は寝たきりの高齢者の方など、ひとりで施術するのが体力的に大変そうなときは、介護の仕事をしている母に同行してもらうこともあります。
「あたりまえ」や「自分にできること」を考えさせてもらえます。
訪問美容をやっていてよかったと思うのは、何より学ばせてもらうことがたくさんあることです。高齢者の人生の先輩から学ぶことだけでなく、障がい者施設に行くと「あたりまえってなんだろう?」と人生そのものを考えさせられることが多々あるからです。
隔月で訪問している障がい者施設では、私が来ることをすごく喜んでくれるんです。着いたとたんに「次いつ来るの?」と聞かれたり(笑)、帰るときは私の車が見えなくなるまで手を振って見送ってくれたり。そんな純粋な利用者さまたちと触れあっていると「私にできることって何だろう?彼らのために何かしたい!」といつも思わせてくれるのです。クリスマスにささやかなプレゼントを自分でラッピングしてもっていくなど、彼らに少しでも喜んでもらえることを考えるのが楽しみでもあります。
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Q
今後は訪問美容をどのように展開していきたいですか?
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A
島に行って、おしゃれなおばあちゃんたちをもっとキレイにしたいです!
「みずたまさんが来る日」を島でつくりたい。
瀬戸内海には島がたくさんあります。島の高齢者の方は現役で農業をされていたり、健康でお元気な方が多いので、船に乗って高松までカットしに来られます。島にも美容室はあるのですが、都会で施術したいおしゃれ意識が高い方も多いのです。でも船での往来が大変な方もいらっしゃると思うので、私の方から島に施術に行くのが夢です。「今日はみずたまさんが来る日です!」と島内放送してもらって、集会所に集まっていただき、レジャーシートを敷いておしゃべりしながらカットしていく…と、妄想段階ですが計画中です!
三重野さんからひとこと
訪問美容に一歩踏み出すきっかけは、一般論ではなく自分のおじいちゃん・おばあちゃんのこととして考えてみるといいと思います。他人に目を向けてイメージするのは難しいので、自分の身内が動けなくなったときに、美容師としてどうしてあげたいでしょうか?
訪問美容を「やりたいけどできない」という人は、できない理由を具体的に考えてみてください。例えば「施術方法がわからないからできない」、「忙しいからできない」など、「できない」のか「しない」のかを考えて、自分で解決できることとできないことを分けていくと、やるべきことが見えてくると思います。今の時代、昔の友人知人をあたれば介護関係の人がいることが多いので、現場の様子などはその人たちから聞くこともできますよ!
Salon Data