イノベーターが
見ている未来
vol.79
その取り組みと背景、そして未来についての展望をうかがいます。
PiNCH
代表取締役社長 吉田 明弘さん (age.34)
美容業界関連のリリースで、その名をもっとも見かけると言っても過言ではない美容室「PiNCH (ピンチ)」。24時間営業、アウトドアカット、デリバリーカット、ペット同伴、朝食無料・・・などなど、奇抜なアイデアで次々に新しいサービスを生み出している。そのアイデアの源泉、そして根底にある想いとは?
・PiNCH
https://www.pinch.tokyo/
・イートップ クリニック
https://e-top-clinic.net/
第1章24時間営業は、こうして生まれた
「深夜~早朝の価格を3倍にしたら
感謝してくれるお客さまだけが残った」
吉田さんは、すごくアイデアが豊富なので、どのような子ども時代を過ごされたのか気になります。
うちは父親がITメーカー勤務、母親が看護師と2人とも忙しくしていたので、なかなか一緒に過ごす時間がなくて…。だから、ごくたまに一緒に行くレストランで過ごす時間が楽しみでした。そんなある日、出かけたレストランでお客さまが倒れてしまい、両親が心肺蘇生して、一緒に病院まで付き添ったことがあったんです。その姿を目の当たりにして、両親に尊敬の念を抱きました。当時、まだ小学校にあがる前でしたが、自分も医療系の仕事に就こうと。小・中・高と、そのための勉強をしました。
医療系を目指していたところから、なぜ美容師に?
高校生の時に友だちの家に遊びにいったら、その子の両親が美容師で。お母さんはダンス、お父さんはギターが趣味。うちはマジメな両親だったので、衝撃を受けました!そのことが、記憶のどこかに残っていたんでしょうね。
医療系の大学にも受かって、あとは進学するだけというタイミング。縁側に寝そべって雲の流れを見ながら、これからどうなるのか考えたんです。大学で勉強して、資格を取って、地元の病院に勤めて、ある程度のお給料はもらえるだろう…と、すべて想像できてしまった。かたや、友人の両親の仕事である美容師の仕事は、まったくイメージがつかなかったので、ワクワクしたんです。学校の先生には進路変更を止められましたが、怒られることを覚悟で両親に相談したら、「好きなことをやればいいよ」と意外な答えが返ってきて…。
そこで大学進学をやめて、美容専門学校に入学しました。そして卒業後、イギリスのロンドンに1年留学しました。音楽・美術・語学などに触れて知見を広め、それでもなお自分が美容師をしたいと思ったら本物だ、と。結果、気持ちは揺るがなかったので、日本に戻って美容師になりました。2店舗の美容室に勤めて、たくさんの経験をさせてもらい、とても感謝しています。
その後、独立されたのは何歳の時でしたか?
28歳で、赤坂に「24時間・365日営業の完全個室 美容室」をオープンしました。以前働いていた美容室のお客さまは、エグゼクティブの方が多く。社会的に活躍している人というのは、普通の営業時間「外」にやっていることを求めているように感じたんです。そんな時、ふとテレビをつけたら、東北の一軒家のパーマ屋さんで、おばあさんが占いをしながら24時間やっているというのをみて、おもしろい発想だなと。都内の美容室で24時間営業しているところはまだなかったのと、マンツーマンはお客さまからみると特別感があり、私もカウンセリング・施術をベストな状態でできると思いスタートしました。
前に働いていたときのお客さまが8割以上来てくれて、その方から別のお客さまを紹介してくれたり…。みなさん、すごく応援してくれて、ありがたかったです。
それにしても、「24時間・365日営業」というのは大変ですよね?
24時間というと、夜中をイメージする方が多いのですが、実際にやってみると本当の需要は「朝」にありました。夜中は夜中であるんですが、朝がここまで多いのは意外でしたね。
エグゼクティブ層の男性だけではなく、子育てをしながらバリバリ働く女性もいらっしゃいます。朝6時から施術できると、カット・白髪染め・セットまでできて8時始業に間に合う。気持ちよく働けると言ってくださいます。
吉田さんの寝る時間が、なくなってしまうのでは?
「予約は全部受ける」と決めていたので、最初はがむしゃらにやって、近くのサウナなどに泊まることも…。売上もあがって、それはそれでいい経験になりました。ただ3年くらい経った頃、あるお客さまに「自分の体調を考えて、そろそろアップデートしたら?」と言われたんです。
確かに、夜は酔っ払いの方が来たり、事前の予約確認をしてもドタキャンがあったり。「これからもお客さまに全力で接したい」と思ったので、やり方を変えようと。タクシーやリラクゼーションに深夜料金があるように、深夜0時~朝4時は価格を3倍にしたんです。そうしたら、酔っ払いや冷やかしがなくなって、感謝してくれるお客さまだけが残ってくれました。
当初マンツーマン美容室にしたかったとのことですが、その後2店舗目をオープンされたのは?
最初は1人でいいと思っていたのですが、「業界に貢献する、爪痕を残す、というのは1人ではできない」という想いが出てきて。そこで「株式会社PiNCH」をつくり、2店舗目の南青山店ではスタッフを雇って、2019年7月にオープンしました。
南青山店も、全体的な稼働を「朝」に持ってくるようにしています。スタッフは毎日朝6時にサロンに来ないといけない、というわけではなく、お客さまが入ったら…というフレキシブルな対応。でも朝にシフトして夜は早めに終わるようにすれば、健康的な生活が送れますよね。最初はみんな大変そうでしたが、最近は「慣れてきた」と言ってくれます。
スタッフとは、愛を持って接して、コミュニケーションをとるようにしています。あと、ポンと最初に出たアイデアを、細かく話したりすることも。そのなかで、私にはない意見をスタッフからもらえて、自分自身も成長できましたね。
早朝営業、アウトドアカット、美容外科医とコラボ・・・
斬新なアイデアは、どこから生まれる!?