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イノベーターが
見ている未来

vol.11

確固たる世界観を持ち、新しい取り組みをしている「次世代リーダー」へのインタビュー。
その取り組みと背景、そして未来についての展望をうかがいます。

ASSORT GROUP

小林Kenさん (age.32)

「カット料金2万円」への、意志と覚悟。
常識にとらわれることなく新たな挑戦へ。

東京・青山に1号店を開業してからわずか5年、現在はニューヨークと香港へも進出を果たしたヘアサロン・ASSORT GROUP (アソート グループ)。代表の小林さんはアメリカ出身、「日本のヘアサロンの常識にとらわれない」新たな試みを多く実行しています。2016年の春から「カット2万円」へと料金改定したことも話題に。美容師という職業への想い、そしてこれからの展望をうかがいました。

1984年、アメリカ出身。テキサス州で生まれ育ち、19歳の時に日本の美容学校で学ぶために来日。免許取得後は美容室勤務を経て22歳でフリーランスの美容師に。途中、他業種も経験したが再び美容業界へ戻り、2011年に27歳で東京・青山に「ASSORT(アソート) TOKYO」を立ち上げる。2013年に海外1号店の「ASSORT NEW YORK」(アメリカ・ニューヨーク)をオープン。2014年に大人をターゲットにした「CLASS(クラス) AOYAMA」(東京・青山)、2015年の3月に海外2号店となる「ASSORT HONG KONG」(中国・香港)、12月には最新トレンドを提案する「CORRER(コレール)」(東京・原宿)と立て続けに出店。さらに2016年4月、ニューヨーク2店舗目としてヘアサロン・ギャラリー・コーヒースタンドなどが融合したスペース「VACANCY PROJECT(ベーカンシー プロジェクト) NY」をオープンさせた。
http://www.assort-hair.com/

第1章「カット2万円」、それは新たな美容師人生の始まり

「美容師の成長とともに、料金は上がって当然。
なのに、“なんで誰も値上げしないの?”って。」

この5月から、小林さんのカット料金が2万円になるとのこと。なぜ、その金額設定にしたのでしょうか?

僕は講演会やセミナーのゲストとして全国へ出かけることがあるんですが、会場での時間の他に移動も必要だし「時間的に割に合わないなぁ・・・」と感じていました。もちろん、「新しい出会いや発見」などメリットもたくさんありますよ。でも参加者の立場から考えたら、いくらか支払ってセミナーに参加しても、僕は大勢のうちの一人にすぎない。僕が「相手に与えられる影響」って、それほどないと思うんです。

美容業界から視野を広げてみると、たとえばアメリカの弁護士は1時間のコンサルタントへの対価として300ドル~400ドルという料金は普通です。「じゃあ、自分も同じ感覚でいいんじゃないか?」と思ったんです。同時に5~6人のカットをして1日何十人も受け持って採算をとるんじゃなくて、「1時間2万円」という料金設定にして、カットはもちろん、話をしに来るのでもいい、アドバイスを求めるコンサルタント的な使い方をしてもらうのでもいい。その時間を好きに使ってもらう。その方が、お客さまとマンツーマンで向き合えて、相手にとっても刺激になってモチベーションが上がると考えたんです。

ASSORT GROUPで値上げをしたのは、小林さんだけですか?

いえ、カットやカラーを含めて全店の料金を見直しました。スタッフやサロンの成長とともに、値上げをするのは当然です。ニューヨークではカット1万円の美容師は珍しくないし、その他にチップもある。でも日本では僕が美容師になった10年前から変わらないまま、誰も値上げをしない。リーズナブルな価格帯のサロンは出てきているのに、その逆はほとんどない。「なぜかな?」って、ずっと思っていました。

確かに低価格帯のサロンは増えていますが、その逆はあまり見かけないですね。

低価格帯もあっていいと思うし、それぞれの料金に見合ったサービスを提供すればいいんです。そうして、いろんなタイプのサロンからお客さまが選べる状況にあることが大事。今回うちが始めたような料金設定は、5年後には珍しくなくなっていると思います。でも誰かがアクションを起こさないと、いつまでも変わらない。「じゃあ、自分から始めよう」って。

それにいつまでも同じ料金だと、スタッフもその金額をいただくことが当たり前に感じて、気が緩んでくるでしょう。値上げをすることでプレッシャーがかかり、「料金に見合うように成長しよう」と考えるモチベーションにもなります。そのために「自分が率先して値上げした」というのもあります。

それともうひとつ。うちは最近、常連さんの割合が高くなってるんです。「新規のお客さまにもっと来ていただきたい」、それも今のタイミングで値上げした理由です。

新規のお客さまを呼び込む手法として、一般的には「値下げ」が思い浮かびますが?

お客さまを増やすために値下げするのは、「負のスパイラル」に陥る危険性があります。ホットペッパービューティーに頼って新規客を呼び込むのもアリですが、それはきっかけに過ぎない。その人がリピートしてくれるかどうかは、結局「スタッフ次第」です。だからこそ「スタッフの意識を変える必要」があり、その手段のひとつが「値上げ」なんです。

料金改定の根底には、「スタッフが成長できる環境をつくる」という想いがあるんですね。

そうですね。ゆくゆくは、個々の技術者が自分で料金を設定するのが理想です。美容師は自分自身が商品ですから、価値も自分で決めるべきだと思っています。

今回の料金改定をはじめ、小林さんは新しい試みに意欲的です。そこに不安はないですか?

失敗を恐れていたら何もできません。「自信がついてから」なんて言う人もいるけど、やってみなきゃ自信はつかないし、たとえ失敗しても成長につながります。美容師は常に成長しなきゃいけないから、ある種いつまでも自信はないものだし、ハングリーな状態でいるもの。そう考えると、迷っている時間がもったいない。

新しいことを始めるのは、誰でもできます。大切なのは「新しいことに慣れるまで続けること」。最初のうちは、変化に戸惑うのは当たり前。慣れて初めて「変化する以前と、どっちがいいか」を冷静に判断できます。3カ月くらい経った時に、変化した結果を検証して「正解だったかどうか」を判断するようにしています。

「スタッフの反発を恐れて、新しいことの導入に踏み切れない」というオーナーもいらっしゃいますよね?

反発されるのは、プレゼンがヘタなんです。「この変化はワクワクすることなんだ」って、思ってもらわなきゃ。僕は毎回きちんと企画書を作って、「こんな楽しいことが待っているよ!」と伝えています。そうするとスタッフも「いいことばかりですね!」ってのってくれます。別にウソをつくんじゃないですよ(笑)。「本当にお客さまのためになる」「みんなのモチベーションになる」と思っているから、新しいことを始めるわけです。ただし変化の結果が失敗続きでは、そのうち信頼されなくなりますけどね。

  • 2015年12月に原宿に誕生した「CORRER」の店名は、スペイン語で「走る」を意味する。日本のファッションカルチャーをけん引する街で「トレンドを生み出し、走り続ける」という想いを込めた

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