2011.06.27
伊藤忠ファッションシステム株式会社でマーケティングマネージャーを務める一方、その視点を生かしアパレル関係のみならず家電、自動車、インテリアなど他業種のブランド・デザイン開発にも携わる川島蓉子氏。多くの企業トップと触れ合う中で、川島氏が考えるブランドとしてのニッポン再生のために企業に求められる姿とは何か。他店にはない魅力をどう打ち出すのか、ブランドの強みを探り出すヒントはどこにあるのか、美容サロンの経営に役に立つヒントをご講演いただきました。
PROFILE
川島 蓉子(かわしま ようこ)
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。1984年、伊藤忠ファッションシステム入社。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析し、アパレル、化粧品、流通、家電、自動車、インテリアなどの国内外の企業と、ブランド開発・デザイン開発などのプロジェクトを行う。Gマーク審査委員。読売新聞、日経MJ、繊研新聞、ブレーンなどに定期的に寄稿。
|第1章|伝えるべき視点はモノではなくヒト
私が講演の時に最初にお話しさせていただくのは、広義におけるファッションの位置づけです。私はファッションが好きで伊藤忠ファッションシステムに入社し、27年近くこの仕事をしているわけですが、ファッションの定義を「街と店と人のトレンドが最も早い段階で現象化するもの」と考えています。要は一般の消費者を取り巻くモノ、つまり、衣、食、住、遊、知のすべてが、もっと噛み砕けば、ライフスタイルそのものがファッションというわけです。
このライフスタイルの変化をどう拾っていくのかという質問をよく受けます。その答えの一つは、使い手の視点を持つということです。「そんなの当たり前じゃないか」と思われるかもしれません。例を一つお話ししましょう。
私は月に一本、読売新聞にモノを紹介するコラムを執筆しています。ある時、このコラムで、名刺入れを取り上げました。ワールドが運営するセレクトショップ「OPAQUE(オペーク)」にあったものです。最初は、遠くのガラスケースの中に気になるものがあるなぁと思いながら近づいていきました。そばまでくると名刺入れの形が分かって、ガラスケースの上からのぞき込んだところで、店員さんが声をかけてくれました。名刺入れをガラスケースから出してもらい、手に取りながら店員さんの話を聞きます。すると、「この商品は革を型押ししたもので、大変優れた日本の職人さんが作ったものです」「こんな綺麗な縫製は、日本でなければできません」などと語ってくれます。
しかし、一方で私は、名刺入れを手にした時の収まり具合や、この名刺入れを初対面の方の前で出した時に自分のイメージと合っているか、さらには、名刺を交換する時のしぐさの美しさなどを考えていたのです。そして、最後に見せてもらった値札の金額は1万円。これは納得できると思い買いました。お店の人は、モノの良さだけを教えてくれたわけですが、使い手はそれだけではなく、どんなシーンでどのように使うのか、ということも気にしているものです。
使い手の視点といえば、私は「グッドデザイン賞」の審査員を7年ほど務めています。毎年違った分野の審査を担当するのですが、3年目には女性初の車班に抜擢されました。当時はレクサスが鳴物入りで登場した年で、男性審査員はみな、車体の曲線やその技術を褒めていました。ただ、免許を持っていなかった私には、そうしたことよりも、そこに座った時に私に似合っているか、どんな気分になるのかといったことに関心がありました。
またある時、日産に呼ばれて、マーチの新色を紹介されたことがありました。その新色というのがいわゆるブルーグレイで、実は私の嫌いな色なのです。「ダサいな」と思っていたのですが、デザイナーに「ブルーグレイはマーチでもタブー色でした。それを今回使ったのは、この色が女性の肌を最も美しく見せる色だからです」と説明され、日産はさまざまな調査をしているんだなと、尊敬の念を抱きました。真偽は別として、こんなことを言われたら、コロっといく女性もいるのではないかと思いましたね。
このように、お客さまというものは、多様な視点を持っているのだと考えればいいと思います。そのためにも私たちは、常に広い視野を養わなければいけないわけですね。