｜第２章｜料理教室の既成概念を変える“発想力”

　友達と遊びに行くような感覚で、気軽に料理を楽しんでもらおうというのが、ABC Cooking Studioの考え方です。それを実現するために、さまざまな工夫と取り組みを行ってきました。「自分たちが通いやすい料理教室は？」と考えてみると、まず入学しやすい、継続しやすいということが大事。そこから模索していった結果、「料理も趣味で習いましょう」という新しい文化が生まれたのです。定期的に友達に会えて、その友達と情報交換ができ、一緒に食事もして、作ったパンやケーキは持ち帰ることもできる。そういう一石何鳥もの楽しい場を料理教室が提供する、という新しいスタイルが人気のベースになったのではないかと考えています。それまでの「料理を習うのも花嫁修業」という概念を、ABC Cooking Studioがガラリと変えてしまいました。

　予約システムも大きな特徴の一つです。習い事と言えば、同じ曜日、同じ時間、同じ場所、同じ先生に教わるのが一般的ですが、ABC Cooking Studioは違います。毎回好きな日、好きな時間、好きな場所で、好きな先生に教わることができるのです。会員である生徒さんなら、いつどこの教室でも受講できます。教室では、常に何種類ものレッスンが行われていますから、気分に合わせて好きなメニューを選択することが可能なのです。曜日や時間、場所に縛られず、自由に予約ができる料理教室。ほかの料理教室にはないスタイルで、「通いやすい」と口コミでの人気もどんどん高まりました。

　さらに、ABC Cooking Studioがこだわったのは、「レッスンの様子が外から見える教室作り」。私自身、生徒さんたちが料理を楽しむ姿を見るのが大好きだからです。“教室”と言っても難しい勉強を教わりに行くのではなく、楽しく通える場所であってほしいという思いもありました。しかし、料理教室をビルの目立つ場所に置く、という発想が最初からスムーズに周囲に受け入れられたわけではありません。においが出るなどを理由に、なかなか良い場所を借りることができませんでした。しかし、1995年に新宿野村ビルの地下2階に教室をオープンさせてからは、風向きが一気に変わりました。

　地下2階とはいえ、そこは飲食店も数多く軒を連ねるフロア。明るいキッチンで若い女性たちが楽しそうに料理をしている姿がガラス越しに外から見えるのだから、道行く人たちが、興味をひかれて立ち止まります。そうなると、評判が評判を呼んで、生徒数もうなぎ上がりに。翌年からは街中の一等地に次々と教室をオープンさせることができました。

　これは私を含め、スタッフが手分けして、都心の主要なビルを回り、ABC Cooking Studioの可能性を毎日毎日、説明し続けた成果です。いずれもカギとなったのは、“発想の転換”。「料理教室」という既成概念を打ち崩し、イノベーションを繰り返していく。創業当時から変わることなく、今も毎日がその積み重ねです。