｜第４章｜モチベーションの向上につながる現場管理術

　先ほど「講師の指名制度」についてお話しました。生徒さん側から見れば魅力的ですが、実際に指名を受ける講師にとっては、ひじょうにシビアなシステムでもあります。ABC Cooking Studioには約3500人の講師がいます。指名の数によって、誰のレッスンが人気なのか、成績表が出てしまうわけです。公開はしていませんが、講師は全員、自分が何番なのかを知っています。

　導入当初は「納得がいかない」と言って辞めていく講師もいましたし、逆に「この制度なら不満なく働ける」と言ってがんばっている講師もいます。上司が評価を下すのではなく、生徒さん＝顧客から直接人事評価される——普通の企業にはないシステムです。実は、これが講師育成法としては大成功でした。がんばれば、がんばっただけ評価が上がる。これ以上にやりがいのあることはありません。上司に媚を売る必要もありません。ある講師は、オリジナルのイラスト入りレシピを作って生徒さんに配り、大人気に。講師のがんばりが、結果的に生徒さんにとっての満足度にもつながるわけです。今では、キャンセル待ち100人以上というカリスマ講師が何人も生まれるまでになりました。

　この制度を導入するに至った理由の一つに、「スピードを上げてスタッフ教育をしたかった」ということがあります。ABC Cooking Studioの講師は、副業OKの契約制です。カリスマ講師は朝から晩までレッスンに立ち、社員より稼いでいたりもしますが、昼間は別の仕事をして、夕方からABC Cooking Studioでレッスンをするという形で働いている講師も大勢います。平日はOLとして働きながら週末だけ講師をするとか、主婦業の傍ら週3日だけ講師をしたい、など、さまざまなスタイルで働ける環境になっています。

　講師の採用をしていくうち、もともと調理師や栄養士、管理栄養士の免許を持っていても就職先がなく、資格を生かせる場所がないという女性が全国にたくさんいることを知りました。ならば、そのマンパワーを最大限生かせる職場を作ろうではないかと思ったわけです。でも、じっくり教育していく時間がない。即戦力になってもらうには、講師が自分でがんばっていくしかないのです。そういった意味でも、「講師の指名制度」はひじょうに有効でした。

　では、ABC Cooking Studio内部の社員教育についてはどうかというお話をしましょう。大抵の場合、社員・スタッフ教育というと、上の立場の人間が一方的に話をしたり、お説教をしたりということになるのでしょうが、私はそういう教育では人は育たないと考えています。現場が抱えるサービスの問題やマネジメントについての悩み、成功体験、失敗体験を、ある時からスタッフの前で発表してもらうようにしてみたのです。隣で起こっていることは明日、あるいは5年後に自分の身にも起こるかもしれない。同じ立場の人の話なら、みんな真剣に聞き入ります。そして、ものすごい量の質問が出て、活発なディスカッションとなります。やはり、これが効果的なのだと確信しました。マニュアルをぶつけたり、教育理論を何時間も語るより、同じレベルで同じ立場の人同士が悩みや解決策を共有することが一番なのだということを、私も経験の中で学んだのです。