｜第５章｜時代のニーズに応えながら、さらに一歩先へ

　現在113校を抱えるABC Cooking Studioでは、新しい生徒さんが年間7万人も入会してくれています。1店舗当たり約1万人の方が料理もしくはパン、ケーキ作りを学んでいるという計算です。生徒さん全体の約60％が25～35歳までの女性。時代の動きや流行にも敏感な世代です。「いいものはいい」と積極的に情報発信する、いわゆる“口コミ”のネットワークもひじょうに強い。ABC Cooking Studioがここまでの規模になれたのも、そんな生徒さんたちの「口コミ力」によるところも大きかったことは確かです。入会動機のほとんどが「友人の紹介」なのです。「自分が通いやすい料理教室とは」ということを追求してきたことが、このように口コミとして広がっていったのだと思います。

　ABC Cooking Studioは国内最大級と言われるまでに成長しましたが、私たちはまだこの先、「次の一歩」を見据えて歩み続けています。例えば、「食育」もその一つ。少子化が問題視されている昨今ですが、ABC Cooking Studioも2005年からキッズに向けて本格的な食育に関する取り組みを始めました。その頃から「食育」という言葉は知られ始めていましたが、子供に向けて食の大切さを真剣に教えているところは、あまりありませんでした。ここでも「ほかにないもの」を追求しようと考えたのです。1回だけで終わるイベントのような料理教室とは差別化し、料理を通じて子供たちにきちんと「食とは何か」を伝えられるレッスンを目指しています。この分野では、今後まだまだ成長できると考えています。

　さらに、博多でも新しいスタイルの教室「＋ｍ（プラス エム）」をオープンしました。これはABC Cooking Studio初の、男女ペアで料理を学べる教室です。男性に喜んでもらえる教室を作ろうと、男性スタッフがプロジェクトチームを結成しました。「僕らが行きたい料理教室は？」という視点で誕生した教室です。講師１人に対し、男女ペアで10組程度が一度にレッスンを受けられます。ペアでのコミュニケーションをとりながら、料理を楽しく学んでいます。男性に人気の高いメンチカツや、そば打ち、生地から作るピザなど、メニューがひじょうに好評のようです。ペアを組んだ女性とメールアドレスの交換をして友達になるなど、出会いの場としての盛り上がりもみせていると聞いています。男性が楽しく、積極的に通える料理教室——最近は男性にも料理が好きという方が増えていますから、今後はこのようなスタイルの教室に対する需要も高まるのではないかと思います。

　美容サロンでも多店舗展開を目指す時には、若手スタッフの教育が課題になると思います。ABC Cooking Studioでも、1店舗から5店舗となる頃が大変でした。しかし、仕事に対する価値観や考え方、理念や夢を共有することで、必ず答えてくれる人は出てきます。話し合いを続け、スタッフを巻き込んでいくことも必要です。意思表示があまりない人に話を聞き込んでいったらいいアイデアが出てきて、採用したところ、本人のやる気につながったというケースがたくさんありました。また、決算期には寸志でも、決算賞与を手渡していました。これは分かりやすい評価の方法だと思います。人は成長していきますし、組織力もついてきます。多少の不安があっても、思い切って任せてみることも大切です。失敗やトラブルがあった場合は、会社全体で解決していけばいいのです。

　「日本一になる」と決めた26年前のあの日から、ABC Cooking Studioは成長してきました。代表の座は退きましたが、これからも「発想力」と「イノベーション」を武器に成長していく、ABC Cooking Studioの発展と歩みを見守り続けていきたいと思っています。