2011.08.29
生徒数25万人を抱える国内最大級の料理教室「ABC Cooking Studio」。その創業者として、二十数年間経営に関わってきた志村なるみさん。弱冠20歳で「日本一になろう」と決めた志村さんには、人が思いつかないようなことを考える「発想力」と、変化を恐れず常に「イノベーション」を起こしていく、ずば抜けた行動力がありました。いち料理教室から企業へ変貌を遂げるたのに、必要なものとは何だったのか、お話いただきました。
PROFILE
志村 なるみ(しむら なるみ)
1964年静岡県生まれ。食生活の大切さを伝えていきたいという思いのもと、料理教室「ABC Cooking Studio」をスタートさせる。創立当初から変わらぬ「カジュアルに食を学ぶ」のコンセプトに特化した事業展開が特徴で、生徒はもちろんスタッフの大多数が女性であるため、女性の管理職登用も積極的に進めてきた。2007年4月に代表取締役社長に就任。2009年3月に任期を終え、現在はグループ全体に関わりながら講演・執筆などを中心に活躍中。
|第3章|「生徒の声」がさらなる進化への原動力に
ABC Cooking Studioには女性幹部が多いのですが、みな、「自分たちのほしいものを作っていけば、必ず女性マーケットは反応するだろう」という強い確証を持っています。そのベースとなるのが「生徒さんたちの声」。以前はアンケートを取っていましたし、今もネットの掲示板で生徒さんたちの生の声を拾い続けています。彼女たちが一体何を話し、何を不満に感じ、そして、何を喜んでくれているのかを、ひたすら追跡しているような時期もありました。
それをベースにして生みだされたサービスもいくつかあります。例えば、ABC Cooking Studioのカードを持っていれば面倒な手続きなしで、全国どこの教室にも自由に通える利便性を確立したのも、生徒さんたちの声がきっかけでした。世界中に教室ができたら、その1枚のカードで世界フリー通学というのも実現できるんじゃないかと、夢は今も大きく広がり続けています。
また、創業当時からずっと継続している「5人までの少人数制度」も、生徒さんからは圧倒的な支持があります。少人数ならば、講師の目も行き届き、きめ細かな指導が受けられるわけです。生徒さんの立場からすれば、安心感がありますよね。だけど、経営者側としては、それだけ講師の数を増やさなければなりません。人件費もかかりますから、決して効率的とは言えません。しかし、あえて少人数制を貫くことで、生徒さんにとって通いやすい教室=顧客満足度のアップにつながるのだと考えています。
さらに、ABC Cooking Studioでは、「指名による講師の自由選択制度」を導入しています。生徒さんは曜日や時間にこだわって授業の予約を入れているのかというと、そうではないことがずいぶん前から分かっていたからです。半分くらいの生徒さんは、「次のレッスンも○○先生で」と、お気に入りの講師のレッスンを予約しています。それならばと、オンラインシステムでのレッスン予約を導入した時に、この指名制度を取り入れました。
さらに、メニュー作りにも生徒さんの声が生かされています。ABC Cooking Studioのレシピはすべてオリジナル。料理に使うのは、一般的なスーパーマーケットに置いてある食材や調味料のみです。生徒さんの間で人気の食材は何か。普段は何を食べているのか。その時代、その瞬間に生徒さんたちが何を感じているのかを踏まえたうえで開発を行います。それでも、途中でこちら側のレベルだけが勝手にどんどん上がっていってしまったりもする。そうすると、生徒さんから「最近メニューが難しい」とか、「調味料の数が増えて経済的ではない」という意見が出たりするのです。そこで、ハッとして初心に戻って開発をやり直すわけですね。
たった1人の欲求を完璧に満たすことはほとんど不可能ですが、何百人もの生徒さんが言っていることは無視できません。経営者側としては大変な努力が必要にはなりますが、結局、大半の顧客ニーズに応えることが、その市場を拡大できるということなのです。効率は悪いです。でも、効率ばかりを求めていては、進化できないし、経営も成り立たないというのが私の出した答え。ですから、いつも生徒さんの声を少しでも生かして前に進もうと必死です。