イノベーターが
見ている未来
vol.20
その取り組みと背景、そして未来についての展望をうかがいます。
uka/株式会社ウカ
代表取締役副社長
渡邉弘幸さん (age.50)
東京・六本木や青山の一等地にサロンを構えるトータルビューティサロン「エクセル」が、「uka(ウカ)」というブランド名に生まれ変わったのは2009年のこと。以来、オリジナルネイルオイルや人気クリエイターとのコラボ商品の開発、パリを代表するセレクトショップ「コレット」をはじめアメリカやイギリス、ドイツといった海外での商品販売、カフェの経営…とさまざまな話題を振りまいています。こうした新展開を支えているキーパーソンが、2009年に同社の副社長に就任した渡邉弘幸さん。大手広告代理店出身の手腕を活かした、ブランド価値の高め方についてお話をうかがいます。
(uka)
http://www.uka.co.jp/
(UKADEMY LIVE!)
http://ukademy.jp/
第1章広告業から美容業へ。だからこそ見えたもの
「まず、ブランドビジョンをしっかりと定めること。
そうすればおのずと、商品開発の方向性が見えてきます。」
渡邉さんは2009年に広告代理店から転身されました。20年勤めた仕事から転職を決めた理由は?
ウカの前身である美容室「エクセル」は、妻である季穂の祖父が創業した理容室がはじまり。それを季穂の父親、向原一義が受け継ぎ、神奈川県厚木の理容室から東京・六本木にも展開するトータルビューティサロンへと成長しました。
そしてまた事業を次世代に引き継ぐタイミングが訪れていたのですが、ネイリストという技術者である季穂は、経営に関して不安に感じている面もあって。幸い自分は企業のブランディングやマーケティングをずっと実践してきたので、手助けすることができる。そして「エクセル」には磨けばもっと光る原石としての価値があると確信していたので、転身を決めました。
入社後に社名を変更した株式会社ウカは、弘幸さんが副社長で、奥さまの季穂さんが社長なんですね。
技術がコアバリューの会社なので、彼らを率いる社長はやはり技術者である季穂のほうがふさわしいですからね。自分は裏方として、経営面やマーケティングを担当しています。
異業種からの転身ですが、経営やマーケティングを手がけるうえで苦労されたことは?
まずは現状を把握するため、数カ月間はスタッフから徹底的にヒアリングを行いました。同時にヘアショーやセミナー、コンテストにも足を運んで美容業界のことを勉強しました。
あるコンテストを見学して驚いたのは、ショーのテーマが設定されているのに、そのテーマが作品に表現されているかどうかを審査基準にしていなかったこと。審査員のセンス任せなんですよね。そういうセンス、空気感を重視する傾向が、この業界全体にあると感じました。
昔の職人さんの「見て学べ」というような、言語化がなされていない面はあるかもしれません。
事業継承がうまくいかないサロンが多いのも、「理念などを明確にしてブランディングを行っていない」ことが理由のひとつでしょう。ウカは、次の次の世代まで長く継続できるような組織構造をつくることを目指しています。
ヒアリングや視察を通じて、美容業界に対して感じた違和感を改善されているのですね。
美容師はトップクラスになると月400万円の売上を出している人もいる。これは相対的にいうと、大企業の役員クラスの価値があることだと思います。しかし、その割に美容師に対する評価は低いのが現状です。それはきちんと世の中に伝えられていないから。なので「きちんと価値を世間に届けられるようなプレゼンテーションをしていきたい」と思っています。
最初に実行されたのが「エクセル」から「ウカ」へのブランド名変更。まずここから手を付けたのは?
単純に「エクセル」って同名他社が多いからですね。ネットで「エクセル」と検索するとズラッとヒットして、美容室に絞ってもうちの店は3~4ページも後ろにしか出てきません。これまで広告の仕事をしながらクライアントに「検索してトップに出てくるウェブサイトを作るのが大事です」なんてことをずっと言ってきたのに、こんな状態ではまずいでしょう(笑)。また当時、季穂はオリジナルのネイルオイル商品を作る計画をしていたのですが、これだけ同名他社があっては商標もとれません。
ブランドを再構築するにあたり、ほかに行ったことは?
まずブランドとしての「ビジョン、理念、ターゲット」を明確に定義し直しました。先代の向原一義が理念としてきた「本物の技術、本物の感性、本物の気配り」をベースにしながら、肉付けをしていった感じです。そしてここが明確になれば、それを実現させる教育体制やターゲットのニーズにかなう商品開発の方向性も自然と定めることができます。
ブランドビジョンを定めるにあたっては時間をかけて季穂の想いを聞き取って、キャッチコピーを何案も出しました。そして選んだのが「うれしいことが世界でいちばん多いお店」。「世界で一番」なんて広告ではNGな表現なのですが、ビジョンはたやすく到達できないくらいのものを掲げた方がいい。それで、これに決めました。
出発は街角の理容室。ブランディングの力で
uka流トータルビューティを地球上に広げたい。