女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.89スタッフの約半分が子育て中のママ。
パート定着率100%の理由とは?
ベルファミリーグループ
埼玉県狭山市
埼玉に9店舗を展開し、ヘア、ネイル、まつげエクステなどを提供する「ベルファミリーグループ」。各店とも駅に近い好立地で、大人の女性を中心に人気の高いサロンです。全スタッフの5割をパートや準社員が占め、そのほとんどがママ。彼女たちは、その結束力と人生経験を活かして正社員をリードする存在でもあります。年齢も雇用形態も違うスタッフが、調和し融合するサロンづくりの秘訣を、社長の上田秀文さんにうかがいました。
1取り組み
5段階のキャリアパスを設定。ライフステージに合わせて働き方を変えられる。
どんな取り組み?
「ベルファミリー」でのパート勤務は週1日からでもOK。また、フルタイムの正社員との間に段階的に3つの準社員を設定している。準社員Aは「正社員と同等のフルタイム勤務で後輩の教育やミーティングは免除」、準社員Bは「長めの時短勤務で日祝出勤もあり」、準社員Cは「週5日、5〜6時間の時短勤務」という具合だ。正社員が出産して職場復帰するときは、本人の希望を踏まえてこれらの中から働き方を決める。パート採用したスタッフも「もっと稼ぎたい」「会社の運営に加わりたい」といった希望があれば、雇用形態を見直している。
なぜそうした?メリットは?
以前は正社員・時短社員・パートの3段階。しかし、育休から復帰した社員にとっては、勤務時間を少し短くしただけの時短社員では負担が大きかった。そこで「もっと慣らし期間が欲しい」というスタッフの声を受け、段階的にステップアップできるしくみを模索。「それぞれのケースにあった雇用形態をあてがっているうち、5年ほど前に今の形ができました」(代表取締役社長・上田秀文さん)。
これにより、各スタッフのライフステージに合った働き方が選択できるようになった。出産しても仕事を続けられ、パートになっても再度正社員を目指す道もあり、その結果、長く美容師として活躍できる。今までに、パート入社の2名が準社員を経て正社員に昇格。若手にとっての良き前例となっている。
2取り組み
幹部・若手・パートへの“三者三様”の働きかけで、それぞれが助け合う風土をつくる。
どんな取り組み?
会社では折に触れて、パートを大切にする企業理念の浸透に力を入れている。たとえば新人研修では「一人前の美容師になるには、パートにかわいがられるようになりなさい」と指導。また、店長やチーフリーダーの社員には「完全週休2日で売上も上がり、順調にサロン運営できるのもパートが頑張ってくれるお陰」と教育。またパートにも「元気に活躍できるのは、日祝や夜間に働く正社員がいるから。リーダーの言うことをよく聞いてください」と、三者三様の働きかけをしている。
なぜそうした?メリットは?
「パートが活躍するには、制度を整えることも大事。でもそれ以前に最も不可欠なのは、社員とパートが互いに理解し、認め合い助け合える意識だと考えています」(上田さん)。社員とパートが1:1のサロンでは、特にお互いのチームワークは重要だ。そのベースさえしっかりできれば、経験のあるパートが若手を引っ張り、現場はうまく回っていくという。もしパートが子どもの熱などで急に欠勤したときも、他のスタッフが快くフォローできる。そうした風土づくりによって、ここ3年のパートの定着率は100%。常連のお客さまにとっても、安心して通えるサロンとして成長できている。
3取り組み
年に1回、全スタッフと1時間の個人面談を実施。会社との間の信頼感を強める。
どんな取り組み?
毎年1月〜3月にかけて、社長と会長のトップ2名がスタッフ全員と面談。働き方や評価、給与はもちろんのこと、家庭や子どもの成長など何でも話せる機会をつくっている。面談はパート、若手スタッフ、幹部スタッフの順に実施。幹部には、他のスタッフとの面談の内容を伝えて、共有の機会としている。
メリットは?
一人ひとりの希望や将来のキャリアプランを確認すれば、スタッフが働きやすい環境をつくることに役立つ。特にパートの家庭の状況は人それぞれ違うので、サロン運営のために把握しておくことはとても大事だ。「また、現場のガス抜きの意味もあります」と上田さん。大人の女性は、悩みや不満を聞いてもらえるだけで気持ちを整理し、前向きになれることが多いという。
「話した・聞いたという事実だけで、お互いの信頼関係がより深まります。コミュニケーションさえ上手く取れていれば、パートスタッフは本当に大きな主戦力です」(上田さん)。
4取り組み
正社員の公休日である毎週火曜日は、パートだけで16:00まで営業。
どんな取り組み?
サロンは年中無休だが、毎週火曜日は正社員の公休日であり、その日はパートだけで営業をしている。ほとんどが子育て中のママのため、営業時間は9:30〜16:00まで。夕方には閉店してしまうが、いつもより落ち着いた雰囲気が特に大人女性のお客さまに好評だという。
メリットは?
週に1日、正社員が休む日に自分たちだけでサロンを営業し、売上に貢献していることは、パートの大きなやりがいになっている。朝のミーティングからレジ締めまでチームとして責任を持って行うことで、パート同士の結束もより強くなる。また、正社員もパートがサロンを開けてくれるからこそ、安心して週に2日休めるという感謝の気持ちを持ち続けられる。
代表取締役社長インタビュー
- Q. パートを大切にする取り組みをしてきた理由は何ですか?
-
A. ママ美容師は、サロンの成長に欠かせない主戦力だからです。
私たちが自前で人材育成を始めてからまだ12年ほど。創業からスタッフの半数はパートでしたし、パートの方が多い時期もありました。やはりママ美容師は仕事や人生において経験豊か。プロ意識も高く、後輩を諭すときも説得力があります。若いアシスタントにとっては、「結婚して子どもができても活躍できる」というロールモデルにもなります。
今は各店に数人ずつママがいて、ママ同士が急な事態をカバーし合う「助け合いシフト」というものがあります。これは完全に自然発生的で、会社は一切関与なし。こうした行動力も凄いですね。またパートからの求人紹介も多く、良い人材が集まるのも助かっています。
これからは、ママ美容師を大切にしながら業界を盛り上げていく時代。高齢化社会なのですから、お客さま層ともマッチするんです。妊娠した女性スタッフに「いつ辞めるの?」などと聞くサロンは、今後はおそらく淘汰されてしまうでしょうね。
- Q. 目指すサロンの未来像とはどんなものですか?
-
A. 育成したスタッフが、楽しい美容人生を送ることを応援したい。
最近はスタイリストの早期育成をうたうサロンが増えています。「1年でデビューさせる」「うちは半年」と、まるで競うかのよう。でも私たちにとっては早くデビューをさせるよりも、その後いかに長くいきいきと美容の仕事を続けられるかが最大のテーマです。目指すのは、一から育てたスタッフが店長になり、素敵な家庭を持ち、50歳、60歳になっても豊かな美容ライフを送ること。そんな人を応援することこそが、サロンを経営する意義だと思っています。みんな苦労してせっかく難しい国家資格を取ったのに、現状は10年経つとふたりにひとりしか仕事を続けていない。そんな業界は、本来あってはならないんです。
まだ具体的なプランではありませんが、近い将来にはスタッフの子どもを無料で預かれる託児室をつくりたい。出産したママがより戻ってきやすくなる環境をつくってあげたいですね。
Salon Data