女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.93パート・準社員の定着率は100%!
時短ママがイキイキ活躍できる制度とは?
Comingグループ
滋賀県長浜市
琵琶湖を臨む滋賀県長浜市でヘア、ネイルからセレクトショップまで5店舗を展開する「Coming」グループ。地域にさまざまなキレイを提供する同社には、スタッフ50名のうち17名ものママが在籍しています。働きやすさの要は手厚い「準社員」制度。結婚・出産などのライフイベントやキャリアアップを力強くサポートし、女性美容師が長く働き続けられる環境を実現しています。その取り組みについて、代表取締役の中川豊己さんにお話を聞きました。
1取り組み
パートは準社員への昇格を前提に採用し、サロンの戦力として定着させる。
どんな取り組み?
「Coming」の勤務形態は、フルタイム勤務の「正社員」、1日約7時間の時短で働く「準社員」、1日約4〜6時間の「パート」の3種類。正社員は主に新卒採用。準社員とパートは主に中途採用で、本人の希望や家庭の事情によって働き方を選ぶことができる。
パート採用したスタッフは、特に「扶養の範囲で働きたい」といった希望がない限り、数年のうちに準社員へ昇格する道を準備している。最近はパートでアシスタントとして入社して、スタイリストデビューと同時に準社員に昇格するケースが多い。もちろん正社員として働くスタッフも、結婚や出産などの各自の事情に合わせて、準社員やパートの働き方を柔軟に選択することができる。
メリットは?
人手不足の美容業界で良い人材を確保していくには、意欲のあるパートを定着させ、戦力にすることが必要だ。パートは時給だが、準社員になれば時短でも固定給となり、頑張りや能力に応じた昇給も望める。また「Coming」では正社員だけでなく準社員にも退職金を適用しており、定年まで働けば最低100万円を支給。パートにとっては、準社員に昇格できる道筋が長く働くモチベーションになる。正社員にとっても、出産後に準社員としての復帰を選ぶことができれば安心だ。保育園のお迎えなど、育児とサロンワークを両立しながら、安定した収入を得て長く働き続けることができる。
現在、「Coming」全体で子育てをしながら働いているママスタッフは正社員、準社員、パート合わせて17名。準社員8名の中には、勤続21年を頭にキャリア10年以上のママも3名いる。ここ3年のパートと準社員の定着率は100%だ。
2取り組み
頑張り次第で収入UPできる給与体系をつくり、全スタッフに開示。
どんな取り組み?
準社員の給与は正社員と同等に、仕事の質や成果がしっかり評価に反映される仕組みを採用。閑散期などの影響を受けないよう4カ月ごとに評価・査定し、細かな賃金表を元に計算している。売上による等級と、勤務態度や業務内容、各自の目標達成度などを総合して金額を決定。それぞれの頑張り次第で昇給が見込める。
また、ボーナスは雇用形態を問わず1年目から支給。正社員と準社員は同じ評価基準(成果・行動評価)、パートにも成果評価に応じた金額が支払われる。こうした賃金やボーナスの計算表は、すべてスタッフに公開している。
メリットは?
賃金やボーナスに自分の売上が密接に関わるため、パートや準社員も責任感とやりがいを持ってサロンワークに取り組むようになる。また、子育てが一段落したママがキャリアアップを考えるなら、勤務時間を長くするよりも、技術や接客力を磨いて昇給を目指せる方がいい。「準社員は社会保険が適用される最短の時間で働く人が多い。夕方の家事時間はママにとって貴重なので、勤務時間を増やすより、生産性を上げることに注力した方がいいんです」と代表取締役の中川豊己さん。それにより、サロンのサービスの質が向上するというメリットもある。
また、こうした仕組みをすべて公開することで、正社員も含めた全スタッフが不公平感なく、納得して働くことができる。時短で働くスタッフへの理解と助け合いの風土をつくるためにも大切なことだ。
3取り組み
パートを登用し、まつエクサロンを新規オープン。女性美容師の活躍の場を広げる。
どんな取り組み?
この夏に新規事業として、まつげエクステ、ネイル、エステなど、ヘア以外の施術を行う専門サロンを初めてオープンする。立ち上げメンバーは、パートで働くママ美容師を加えた3名のスタッフ。営業が軌道に乗ればさらに人員を募集し、女性美容師の新たなフィールドを開拓していくつもりだ。
きっかけとメリットは?
「まつエクを始めたきっかけが、パートのひとりから“やりたい”という声が上がったこと。その人は、美容師免許を取った後サロンに就職せず美容部員として働いていた。その後、未経験のままアシスタントとして入社した2児のママなんです」(中川さん)。サロンの一角で施術を始めたところ売上がどんどん伸び、ついに6店舗目のサロンとしてオープンすることになった。
まつエクやネイルの技術は、ヘアよりずっと短い練習期間で習得できる。彼女のようにアシスタントで中途入社する人や、休職していたママも早く一線で活躍できるのがメリットだ。「また、手荒れが酷くて美容師を諦めていた人にも道が開けますね」と中川さん。女性のライフステージの変化に対応できる、多様なキャリアプランのひとつとして育てていきたいという。
代表取締役インタビュー
- Q. 準社員やパートへの手厚い待遇。会社として大変ではないですか?
-
A. 美容師の地位向上を目指したい。適正な経営をすれば可能です。
正社員と準社員の退職金の積み立てのほか、万一亡くなったときのための死亡保障も全員に掛けています。保険や年金を整備し、整合性のある賃金体系をつくって運用するのは、世の中的には普通のこと。それをしないと美容師の社会的な地位は向上しません。そのために弊社では、総務、経理、労務、助成金をそれぞれ担当する4人のパート事務員を置いています。細密な給与計算や労働時間調整、手当の支給などは外部の顧問ではとても対応しきれません。専門に管理する彼女らの存在がとても大きいんです。
聞くところによると、美容法人の90%が赤字だそうです。それでは、社員のために何か改善しようと思っても難しいですね。でも適正な経理を行い、身の丈に合った経営をすれば、黒字体質をつくっていくことは可能。決してできないことではないと思います。
- Q. スタッフの定着率を上げる制度以外の要因は何でしょうか?
-
A. トップ自らが融和の心を伝え、余裕のある環境をつくることも大事。
やはり一番大切にしているのは、スタッフがお互いに尊重し合い、良い関係を保つことです。それがあって初めて制度が生きてくる。たとえば誰かが産休に入ったら、経営者レベルから「出産は素晴らしい」「是非いい子を産んでもらおう」というメッセージを発信すること。そうしたことが「いつか自分もそうなるのだから助け合おう」という意識をつくります。逆にママと他のスタッフの関係が良くないケースでは、経営者自身の喜べない気持ちが言動に表れているのではないでしょうか。
ただ、多くのママを受け入れたければ相応の体力が必要。1店舗に10人のスタッフがいて、翌年も新卒が入ってくる規模なら、想定内として対応できるでしょうね。経営者が無理をすると会社は伸びない。理想に見合った職場をつくりあげる責任もあります。
現在は生え抜きの正社員スタイリストが24人。昨年の新卒5名も全員定着しています。パートや準社員だけでなく、正社員も残って頑張ってくれる人が多いのは幸いですね。
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