女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.9580店舗の約8割が夕方閉店、日祝定休。
230名超のママが活躍できる方法とは?
CEPホールディングス
千葉県浦安市
東日本を中心に10ブランド、約80店舗の理美容サロンを展開する「CEPホールディングス」。そのうちの多くを「ミセス向け店舗」と位置づける同社では、スタイリストの約8割をママスタッフが占めています。ママが子育てとサロンワークを両立できる理由は、働く従業員ありきの店舗づくり。そして利用するお客さまに理解を求めるという、信念に根ざした経営にあります。そうした取り組みについて、人事担当の石川裕紀子さんにうかがいました。
1取り組み
全店舗数の8割を占める3ブランドを「ミセス向け店舗」とし、17:00閉店・日祝休みで営業する。
どんな取り組み?
「CEPホールディングス」では、新卒採用などの正社員を多く配置する「育成型店舗」と、全員がパートスタッフからなる「ミセス向け店舗」とで営業システムを分けている。ミセス向け店舗である「ジャストカット」「ママーズ」「みゅうみゅう」の3ブランドでは、閉店時間を他ブランドより早い17:00とし、日曜日と祝日を定休日に設定(一部16:30や、17:30閉店の店舗あり)。パートはスタイリスト経験者を採用条件とし、週に2日、1日4時間から勤務することができる。
背景とメリットは?
労働時間の長さや日祝の休みづらさが、ママ美容師が働くための高いハードルとなっている。たとえ時短勤務が可能でも、常にクローズ業務を他のスタッフに任せて途中で帰ることは負い目になりやすい。そこでミセス向け店舗では、閉店自体を子どものお迎えに間に合う夕方に、保育園や学校が休みの日祝を定休日に設定した。また、客層をスタッフと同じ主婦に設定することで、「平日昼間」という双方のニーズに合った営業形態を実現することができた。
そのためパートスタッフは、家族との時間を大切にしながら無理なく働くことができる。残業はなく、営業時間外の勉強会もなく、アシスタントがいないため教育を任されることもない。また、ほぼ全員がママ美容師として同じ立場で働いているので、お互い自然に助け合う気持ちが生まれ、特定の人の負担が大きくなることもない。
2取り組み
ミセス向け店舗の多くが非予約制。急な人員不足の時は本部がヘルプスタッフを派遣。
どんな取り組み?
最も店舗数の多い「ジャストカット」全店と「みゅうみゅう」の一部店舗では、予約や指名を受け付けず、お客さまの来店順に接客をするシステムを取っている。また、子どもの病気や学校行事などでママスタッフが急に休んだ時のために、本部のコントロールによって近隣の地域からヘルプスタッフを派遣できる体制を整えている。
なぜそうした?
子育て中は子どもの病気や、学校行事などで急に休まなければならないことも多い。そのためお客さまの都合を最優先にしてしまうと、ママスタッフは必要な時に休むことができず、働き続けるのが難しくなる。「お客さまにはスタッフのできる範囲で対応させていただく代わりに、ベテランスタイリストの技術をリーズナブルな価格で提供できることを、ご理解いただくように努めています」(石川さん)。
また同じ地域のママ美容師が集まる店舗では、学校行事や病気の流行などで数人の休みが重なることも。そこで、ママスタッフのシフト調整から、緊急時のヘルプスタッフの派遣までを本部がコントロール。複数の店舗で融通し合うことで、現場の負担を軽くすることができている。
3取り組み
パートから正社員への登用や、復職支援でキャリアを柔軟にサポート。
どんな取り組み?
子育てが一段落するなどして「もっとバリバリ働きたい」と希望するパートスタッフは、積極的に正社員へ登用している。その一環として、月18日以上の勤務でパートのまま社会保険に加入して働ける「パートナー社員制度」を設定。正社員へキャリアアップする前のステップとして選択できる。
また、産休・育休、時短勤務のほか、再雇用制度などの復職支援にも取り組んでいる。再雇用制度とは、人事評価が一定以上あることを条件に、退職したスタッフを再び雇い入れる制度。結婚や出産、育児、介護、配偶者の転勤などの理由で仕事を離れても、条件が揃えば復職できる道がある。
メリットは?
女性はライフステージによって、働きやすさや仕事へのニーズも変化する。育児や介護で仕事のペースを落としたり職場を離れることになっても、将来再びキャリアアップできる道が開かれていれば、スタッフは意欲を持ち続けることができる。
法定の産休育休を取得した後に「あと数年、育児に専念したい」というケースでも、再雇用制度を利用すれば復帰が可能だ。また、パートスタッフから正社員に登用され、地域のミセス向け店舗を統括するエリアマネージャーになった人もいる。「そうしたポストは男性が就くよりも、元々パートだった人の方が現場を理解でき、より適任なんです」(石川さん)。さまざまな働き方を応援することで多くのスタッフが力を発揮し、会社の活性化にも繋がっていく。
4取り組み
新人の早期育成やママのスキルアップに役立つ「研修センター」をオープン。
どんな取り組み?
この春、浦安市の本社近くに本格的な専用の「研修センター」をオープンし、運用を開始した。新入社員は週に3日間ここで研修を受け、土日にサロンで実習。業務時間を使って6カ月間集中的に学ぶことで、入社7カ月目のデビューを目指している。もちろんこの施設は、パートを含めた全スタッフが利用可。講習会や自主練習にも利用できる。
メリットは?
従来スタイリストデビューまでは2〜3年。それを大幅に短縮すれば、若い美容師の選択肢が広がる。「社内恋愛などで若くして結婚する例もありましたが、アシスタントの時に妊娠すると、出産後も修業が続くので大変です。でもデビュー後なら、スタイリストとして現場に戻れる。この差は大きいですね」と石川さん。仕事に復帰できる目処がつけば、出産を理由とした離職も避けられるケースが増える。
また、研修センターは業務時間内に利用できるので、夜の勉強会に出られないパートスタッフを対象とした講習会が開けるようになった。個人でも利用できるので、パートスタッフが空き時間を使ってスキルアップすることも可能だ。
人事担当インタビュー
- Q. パートが活躍できる素晴らしい環境ですが、正社員で出産復帰した例はありますか?
-
A. まだまだ少ないですが、前例ができれば増えていくと期待しています。
全社では今も5名が育休中ですが、すべてパートさん。約60名の正社員の中で出産後復帰したのはまだひとりです。でも、これから産休に入る正社員が2名待機しているので、良き前例となって欲しいと期待しています。
美容業界では会社が「産休・育休あり」とうたっていても、申請手続きが煩雑なため、実際は運用していないことも多いと聞きます。若い美容師の間には、給付金があることもあまり浸透していないんですね。社内で若くして子どもができ、旦那様もまだ収入が少ないため、揃って美容師を諦めかけていたケースがありました。育児休業給付金や、正社員のまま1日6時間勤務ができる時短制度のことを説明したら、やっと前向きに考えられるようになったようです。本来は目の前にお手本があれば、制度の理解もスムーズですよね。実績をつくるとともに、専門学校生へ向けてのオープンカンパニーでも、社会保険のメリットについてしっかり伝えていきたいと考えています。
- Q. 女性美容師を応援するために、独自のやり方を実現した原動力とは何ですか?
-
A. 「技術を諦めるなんてもったいない」という代表の強い思いがあります。
代表取締役の猪爪一徳は、同世代の腕のいい女性美容師が出産で仕事を諦める例をたくさん見てきました。当時は復帰したくても戻れる環境がほとんどない状況です。「磨いた技術を諦めるなんて本当にもったいない」という強い思いから、休眠美容師が力を発揮できる場をつくろうと考えたのがきっかけでした。たとえば「ジャストカット」では基本的なカット、パーマ、カラーは提供しますが、最先端の技術は扱いませんしスタッフにも求めません。でもみなさん他店で経験を積んできたスタイリストなので、腕は確かです。10年、20年のブランクがあっても、戻れる環境があれば美容師はまた働けます。70歳の現役で、お客さまから「先生」と呼ばれているパートさんもいるんですよ。
今年開設した研修センターは、また新たなチャレンジですね。生産性のないスペースですが、ここで学んだ子が早く一人前になれば、サロンに帰ってくるものは大きい。高い技術を身につけて長く美容の仕事を続けられることが、会社の財産になるんです。
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