サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.16
実例編仲間とユニットを組んで訪問美容活動。
形態にとらわれず時代の変化に合わせる参入方法とは?
「Charme」佐藤寛さん
- 訪問美容開始:
- 2015年
- 訪問施設数:
- 15施設(1回の訪問で5〜25名)
- 施設訪問頻度:
- 2週間〜3カ月に1回
- 訪問個人顧客数:
- 約10名
- 個人顧客訪問頻度:
- 1カ月に1回
- 価格:
- 【施設】カット2,500円〜、パーマ8,600円〜、カラー7,560円〜【個人宅】カット6,480円、パーマ12,960円〜、カラー12,960円〜
立川、池袋のサロン勤務を経て、2014年にフリーとして独立。業務委託としてスタイリストを続けながら訪問美容を志す。2015年、原宿の「atreve」で業務委託として勤務し始めるかたわら、美容福祉の資格を取得して「Charme」というブランドで訪問美容をスタート。
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Q
訪問美容を始めようと考えたきっかけは?
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A
独立を考えたときに、新しい美容の形として興味をもちました。
訪問美容を知った頃に、祖父が要介護状態になりました。
サロン勤務時代に、いつかは独立したいと考えて、業界セミナーに参加したり、関連雑誌などで勉強していました。そのときに、訪問美容の存在を知りました。ちょうどその頃、祖父がパーキンソン病を患い要介護状態になっていたのです。在宅で祖母や母が介護して、デイサービスに通っていました。元気だった頃は祖父の髪は私が切ってあげていたのですが、仕事が多忙であまり実家に帰れなかった間に祖父の状態がどんどん悪くなっていて。数カ月に1度帰るごとに、祖父の体調が急変していくことがショックでした。そういう状態の人の施術を自分もできるようになりたいと思いました。
こうした経験から、独立するなら訪問美容もやりたいと考えるようになったのです。正社員勤務のままでは訪問美容の勉強をする時間がとれないため、勤務していたサロンは退職して、面貸ししている原宿の「atreve」でフリーとして働くことにしました。
美容福祉の資格を取り、個人宅の営業からスタート。
業務委託として勤務し始めて間もなく、山野学苑の「美容福祉技術講習」を受講しました。そこで美容福祉の基本的な技術や法律について学び美容福祉資格を取得し、「Charme」というブランドを立ち上げて訪問美容を始めることにしたのです。
ひとりでスタートしたので、最初は在宅の個人の方をターゲットに営業することにしました。地元が東京の多摩地区のため、その地域のケアマネジャーの事務所に飛び込みで営業をかけました。100軒近く資料を送って、最初の仕事が来たのは2カ月後ぐらいだったと思います。それからぽつぽつと、ケアマネジャーさんや、施術希望のご本人さまからご連絡をいただくようになりました。
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Q
個人活動から、現在のユニット活動に移行した経緯は?
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A
施設の仕事が入り始めて、仲間の美容師に声をかけました。
サロンで活躍している仲間たちに、時間があるときに参加してもらっています。
在宅の個人のお客さまから仕事をいただくようになって、施設への営業も始めることにしました。業務委託で勤務してるサロンが原宿にあるため、渋谷近辺から多摩地区にかけての介護施設に電話でアポイントをとって営業に行きました。電話は200〜300軒はかけたと思います。
施設の契約が取れ始めると、ひとりでは対応しきれないため、自分と同様に業務委託で勤務しているフリーのスタイリスト仲間に声をかけて参加してもらいました。現在は15施設に契約をいただいていて、フリーのスタッフ3名と、他のサロンに正社員として勤務しているスタッフ3名の、計6名体制でユニットとして活動しています。私自身は、サロンに週3〜4日出勤し、訪問美容は週2〜3日のペースで受けています。
サロンワークは予約制ですし、訪問美容も施設から年間で予約を入れてもらっているので、スケジュールはコントロールしやすいです。訪問美容のスケジュール管理は私が行っています。責任者は私なので施設には必ず私がお伺いし、施術人数によって、他のスタッフにも来てもらう体制です。訪問美容は利用者さまの状態によって対応の仕方が全く異なるため、経験がものをいいます。場数を一番踏んでいる私が一緒に行って、対象の方の状況ごとに対応の仕方をアドバイスしながら、スタッフにも経験を積んでもらっています。
最先端サロンに勤務する美容師が訪問するから喜んでもらえる。
訪問美容をさらに広げるには今後も営業は必要です。ただ、サロンと訪問美容を兼務しながら、他のスタッフのスケジュール管理までするのは意外と大変。美容以外のことに費やす時間をあまり増やしたくないので、現在は営業代行を利用しています。また、最近はホームページを見て、ご連絡をくださる方も増えてきました。要介護の方だけでなく、育児中の方からもご連絡をいただき、ご利用いただいています。
料金設定は、在宅は「atreve」のメニューに準じています。施設はもともと他の理美容業者が入っていたケースが多いので、その料金と大きく変わらないようにしつつ、我々のサービスにご満足いただければ高めの料金でご理解いただける場合もあります。自分も含め、スタッフ全員、都心の最先端のサロンに勤務しているので、そのクオリティを訪問美容でも提供できることも強みになっていると思います。施設の職員の方から「以前の理美容業者よりカッコよくしてくれる」と喜んでいただけることも多いです。
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Q
訪問美容をやっていて大変だと思ったことと、よかったことは?
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A
覚悟はできていたので、よかったことしかないですね。
大変なことはすべて想定内。やりたかったことで喜んでいただけることがうれしいです。
訪問美容はサロンワークに比べて肉体的に厳しいことはあります。サロンのように施術専用のイスなどはないので、カットする体勢が苦しいときもありますし、数分間座っていることもできない利用者さまの対応も珍しくないです。でも、私は祖父の経験でそれらのことは覚悟できていたので、大変だと感じたことはありません。また、訪問美容は営業を始めてすぐ結果は出ず、営業に行ってから2〜3カ月後や、長ければ1年後にご連絡をいただくこともあります。根気強く、長期スパンで地道にやっていくことが大事だと思います。私はその間も業務委託での仕事がありましたから、焦ることはありませんでした。
利用者さまや職員の方に喜んでいただいたときの充実感は、サロンワーク以上のものがあります。そもそも訪問美容はやりたくて始めたことです。お客さまの方から選んでサロンに来てくださるのとは違って、「自分から出向いていった仕事で喜んでもらえる」ことが、私にとってやりがいを感じることなのかもしれません。
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Q
今後は、サロンワークと訪問美容をどんな比率でやっていくのが理想ですか?
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A
体制は決めずに、臨機応変にそのときのニーズに合わせてやっていきたいです。
「訪問すること」はこれからさらに求め続けられると思います。
自分としては、現在のサロンワークと訪問美容のバランスはちょうどいいと思っています。ただ、今後高齢者の方が増えれば訪問美容のニーズも高まると思うので、時代の変化に合わせてそのときのニーズで変わっていくかもしれません。また、仲間が増えてきたこともおもしろくなってきました。彼らが今後どうしていきたいかも自分の活動に関わってくるので、時代の変化や仲間の気持ちに合わせて臨機応変に対応していきたいと思います。
施設を訪問してみて、看護や理学療法など介護に関わることはもちろん、物販などさまざまな訪問業者が訪れています。外に出かけられない高齢者が増える中で、あらゆる事業で「訪問」することが求められる時代になっていくと感じています。その中で、美容に携わる自分に何ができるかさらに考えていきたいと思っています。
佐藤さんからひとこと
勤務しているサロンが訪問美容を志向していない場合、私は退職してフリーになりましたが、「そこまではできない」という人も多いと思います。その場合は、まずは休みの日を自分への投資に使えばいいと思います。ボランティアで施設に行ってみたり、講習に通うなど、手段はいろいろあります。私は、今でも時間があるときは児童養護施設へボランティアでヘアカットに行ったりしています。訪問美容に興味があったらチャレンジしてみてください。
Salon Data