PEOPLE.02 髙田 明 ジャパネットたかた 創業者
A and Live 代表取締役
髙田 明の言葉は、 なぜ伝わるのか?
2004年に発覚した「ジャパネットたかた」の顧客情報流出事件。謝罪会見での真摯な姿勢が視聴者の心をとらえ、いまなお多くの企業から「危機管理のお手本」としても髙田氏の「伝え方」は評価されている。
なぜ髙田氏の言葉は伝わるのか?今回はその伝え方に込められた想いや、美容業界での活かし方についてうかがった。
Profileプロフィール
たかた・あきら●1948年、長崎県生まれ。「株式会社A and Live(エーアンドライブ)」代表取締役。大学卒業後、英語力を買われて工業機器メーカーに入社しヨーロッパ駐在員として活躍。その後、父親が営む町の写真店に転職し、1986年に分離独立して37歳で「株式会社たかた」を設立、1999年「株式会社ジャパネットたかた」に社名変更。カメラや家電製品の店頭販売から始め、ラジオ通販からテレビ通販、折込チラシなど販路を拡大して国内屈指の通信販売会社を一代で築きあげた。2015年の代表取締役退任後は、サッカーJ2クラブチーム「V・ファーレン長崎」の運営会社社長として経営手腕を振るっている。
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お客さまが“誰”なのか?それによって提案も変わるはず。
千葉
(ホットペッパービューティーアカデミー アカデミー長)
今回は髙田さんの「伝える力」について美容業界の人たちに紹介したいというのはもちろんですが、僕個人としても髙田さんにお会いしたかったので、機会をいただきとても嬉しいです。
2017年1月に、ご自身初の著書である『伝えることから始めよう』を出版されましたね。執筆されるに至った経緯は?髙田
僕は本を出してみなさんにどうこう言えるような人間じゃないので、最初は乗り気ではなかったんですよ。でも出版社の方からのすすめがありまして。結果的には自分の想いを書いて、みなさんに読んでもらえたのはよかったかなと思っています。
千葉
このインタビューを通じて美容業界の人たちにも、自分たちとは違う異業種で活躍されてきた髙田さんのお考えにふれてもらいたいと思っています。
髙田
僕が思うに、カリスマ美容師といわれる人は限られたパターンを100人のお客さまに当てはめるのではなく、100人それぞれの個性に合わせて、一番魅力を引き出す髪型を提供できているから支持されるのでしょう。
これは僕らの商売も同じで、「お客さまが誰なのか」によって提案は変わってきます。シニア向けなのか、若者か、男女でも売り方は変わってくる。
相手のことを考えて提案するというのは商売の本質であり、業界が違っても共通するものだと思いますよ。
千葉
おっしゃる通り、相手に合わせた提案というのは美容業でも重要です。髙田さんの場合、ご自身とはパーソナリティがまったく違う、若者とか女性の気持ちを想像するのがとてもお上手だと感じます。どのようにして身につけられたのでしょう。
髙田
僕は20年間、テレビを通じてお客さまの前に立ち続けてきましたから。ただし、20年ただ続けたわけではなく、「いかに精度を高めていくか」という意識をもってやってきたから、できたのかもしれません。
千葉
通信販売の場合は、お客さまが目の前にいませんよね。それでも続けるうちに気持ちが見えてくるものでしょうか?
髙田
いまのは質問自体が間違っています。お客さまは「いる」んですよ。ラジオでもテレビ、チラシ、インターネットでも、その制作に臨むとき、商品を使って喜んでいるお客さまが見えています。伝わる広告というのは、そういうものです。見えないけど、見えているんです(笑)。
たとえばシニア層にウォーキングシューズを売るとしましょう。そのとき売り手はどんな想像をしたらいいか。「歩きやすい靴」というのでは足りません。「その先」を想像しなくては。歩くということは健康寿命を伸ばすために大切ですよね。だから僕がラジオでウォーキングシューズを紹介したときは、「この靴を履いて歩きませんか。そうすれば、いつまでも健康に歳を重ねていけますよ」と語りかけていました。そのとき僕には、「商品の靴を履いて元気に歩くシニアのみなさんの姿」がハッキリと見えていましたよ。
千葉
お客さまが目の前にいると感じるには、細部までイメージすることが大事なんですね。
髙田
そうです。どんな業種でも、ビジネスの世界には必ずお客さまがいますよね。そのお客さまが何を求めているのかを常に考えていけば、語る内容や表現などの伝え方も、変わっていくはずです。
千葉
お客さまの姿が見えたら、次は伝え方がポイントになります。髙田さんが伝えるとき、意識していることは?
髙田
ラジオを聴く、テレビを見る、カタログを読む、どれにも共通して言えるのは、「受け手は、複雑なことだとスッと頭に入らない」ということ。だからなるべく入口は簡単にする。最初の言葉とかキャッチコピーはものすごく大事で、僕はカタログを作るときは「5秒で伝わる言葉を考えなさい」と言っています。最初にグッと興味を引き込めてこそ、その次の細かい説明まで見てもらえるものです。
能を大成した世阿弥(ぜあみ)が提唱した「序破急(じょはきゅう)」という構成形式があります。“序”が導入で、“破”で展開・転換して、“急”で締める。この“序”がとても大切なんです。シンプルにわかりやすくなければいけないけれど、ジャパネットの若手たちもいつも苦労しています。考えるあまりに複雑にしてしまうんですね。でも導入から複雑では伝わらないから、僕が指導するときは「とにかく簡潔に」と言ってきました。
千葉
簡潔にしようとするほど、一番大事な「伝えたいこと」がそこに凝縮されるとも言えますね。
髙田
その通りです。だから、そのモノを知らないと語れない。本当に伝えたいなら、商品の生産地から機能、なぜこのデザインにしたのかといった背景まで勉強する必要があります。そして本気で伝える。ところが、表面的な20%くらいの知識で100を語ろうとする人が非常に多いですよね。それではベストなものは伝えられません。
千葉
では「対お客さま」ではなく、社内のコミュニケーションについてもお聞かせください。髙田さんはお話していても偉ぶるところがまったくなく、社員さんとの関係もとてもいい雰囲気なのが伝わってきます。
髙田
社員からは好かれていると思いますよ、なんてね(笑)。でも僕は、社員をほとんどほめない。9叱って、1ほめるくらい。ほめたらそこで終わりだもの。いまは「ほめる教育」が支持されているけど、なんでもかんでもほめるのは違うと思うんですよ。
人にとって、成果を出すという自己実現が、一番のモチベーションになるはず。それをただほめて、実際は成長できていなかったら、その子は辞めていくでしょう。100分の50の段階でほめていたら、100にはなれません。僕は100を目指してもらうために叱ります。「あなたはもっとできるはずだよ」って。人生を振り返ったとき、「自分はもっとできたんじゃないか」と後悔してもらいたくないんです。そうやって、人間はエンドレスで成長していくべきだと思います。
千葉
髙田さんは「叱る」けれど「怒る」わけじゃない、と感じました。ただ、この「叱る」と「怒る」の区別が難しい。叱りつつも、いい関係性を育むにはどうしたらいいでしょう。
髙田
僕の場合は叱っても、それを後に引かない。以前、社員から「社長に叱られても怖くはない」と言われたことがあります。なぜかと尋ねたら、「叱っても最後には笑いで落としてくれるから」なんて言っていました。そんなふうに常にコミュニケーション、声かけを大事にしています。いつも社員を見ているから、髪型を変えた、2キロ痩せたとかすぐ気づくので、そんな話題で話しかけたりね。愛情の反対は、無関心です。誰でも、「関心をもたれている」と実感できたら嬉しいでしょう?それが信頼につながるんだと思います。
千葉
仕事の面と、その人の人間性は切り離して考えるという感じでしょうか。仕事ができないと、その他の面もつい気に食わないと感じる指導者もいると思います。
髙田
これは僕の利点なのか欠点なのか、30年目の社員でも新入社員でも、伝えたい大事なことは同じなので、何度でも同じことを言い続けてきました。この人はこういう人だから…というような区別をしない。本当はもっと個々別々に考えたほうがいいんでしょうが…、まあそんな感じで僕はダメだからジャパネットの経営から退いたんですよ(笑)。
それに、あの人はできているのにこちらの人はできない、という考え方はあまり意味がありません。人の成長というのは他者との比較ではなく、自分との戦いなんです。自分を高めていけば、いつの間にか人と並んで、追い越していける人間になれるんですよ。