「バーバー」人気の理由
今「バーバー」が人気の理由
近頃増えている、従来の理容室とは違う新しいタイプの「バーバー」は、なぜ多くの男性ファンを生んでいるのでしょうか?
ターゲティングやコンセプト、強みなどについて探っていきます。
MERICAN BARBERSHOP FUK(福岡県福岡市)
神戸の超人気バーバーが福岡に上陸。
奥のドアに隠された、秘密のバーとは?
2015年、神戸・旧居留地にオープンした「メリケンバーバーショップ」。代表・結野多久也さんが「僕らのやっていることが好きなヤツだけ来れば良い」と語る尖った個性と、そのスタンスを支える確かな技術から、たちまち話題を集める存在となりました。そんなサロンが2018年、福岡に新店をオープン。“カルチャーの発信地”という従来のコンセプトはそのままに、さらなる仕掛けとこだわりが詰まった空間が誕生しました。唯一無二の存在感を放つ新たなバーバー、その全貌をお届けします。
秘密めいた階段を下ると、無機質な空間が広がる。
無駄を削ぎ落としたシンプルスタイル。
重い扉を開き地下への階段を下りると、いきなり目の前にはバーバーチェア。ガランとした空間にはスタッフの姿もない。そればかりか受付もタオル入れもタイマーも、従来の理容室にあったさまざまなものがない。「省けるものを省いたらこうなりました。使い勝手よりもデザインを最優先にした結果です」こともなげにそう語るのは、スタッフの網谷巧海さん。当然、初めて訪れるお客さまは戸惑うこともある。しかし「僕たちはコレなんで」という揺るぎない姿勢を、お客さまも徐々に受け入れていくのだという。
あえて“外す”独自のかっこよさを追求。
無駄を省き、研ぎ澄まされた空間。そのインテリアの根底には“ネオクラシック”というテーマが一貫している。その定義は「日常にある馴染み深いものを、僕らの“今”の感性で再定義する」こと。「時流に合わせた“おしゃれ”から、あえて外す。そこから立ち上がる独特のかっこよさ、個性が、メリケンらしさなんです」と網谷さん。そんな信念はインテリアだけではなく、ヘアスタイルからスタッフのファッション、サービスにまで徹底されている。
バーバーショップ奥の扉の先に広がる喫茶&バーラウンジこそが、「メリケンスタイル」の本質。
覗き窓のあるドアの向こうには広々とした喫茶&バーラウンジ。
3席のバーバーチェアがある飾り気のないバーバー、実はこれは半分の姿だ。奥に覗き窓のついたスチールのドアがある。そのドアを開くと、バーバーエリアの4倍ほどの広さがある喫茶&バーラウンジが広がるのだ。「禁酒法時代のアメリカで、バーバーの奥に作られたもぐり酒場を表す“スピーク・イージー”。それを僕たちなりの解釈で再現しました」。ヘアカットに訪れたお客さまも、まずはこちらの席についてドリンクを飲む。そこで会話をしながらヘアカットに入るという流れとなる。これも従来の理容室のレギュレーションをがらりと変えた独自のスタイルだ。
ただの待合いスペースではない古き良き喫茶店。
奥の喫茶店&バーラウンジはただの待合いスペースではなく、独立した飲食店でもある。フリンジの付いたソファ、天井にはミラーボール、なぜか中央に卓球台。ここにも王道を外す“ネオクラシック”の精神が宿っている。もちろん食事も可能で、飲食のみの利用も歓迎。昼ならトーストやナポリタン、オムライスなど昔ながらの喫茶メニュー、夜にはアルコールも楽しめる。バーバーの奥にある隠れ家という非日常感が、独特の魅力となっている。
技術はあって当たり前。プラスαの付加価値がお客さまの心に響く。
ラフでありながらも基本は守るサービス技術。
網谷さんも、同じくスタッフの沼田有斗さんも、”箱”の魅力は饒舌に語るがヘアカット技術や接客については多くを語ろうとしない。もちろん、技術をないがしろにしているわけではない。むしろ技術に絶対の自信と誇りがあるからこそ、そこにあえて触れようとしないのだ。しかし訪れてみれば、ヘアカット技術はもちろん、鏡に映る所作のひとつひとつ、声のトーンや話し方まで徹底していることがわかる。「技術は当たり前」というが、その当たり前のレベルが高いのもまた、こちらの魅力なのだ。
バーラウンジでの会話がお客さまとスタッフの距離を縮める。
ヘアカットが終わったお客さまは、またバーカウンターに座って話をする。スタッフとお客さまは対等。お客さま同士もまたフラットな関係。一見ラフなスタイルだが、これにより新たな交友関係が生まれたり、ビジネスが始まったりということもある。「男同士だからこそ生まれる関係がありますよね。僕らはそのハブになっていきたい」。カルチャーの発信地である「メリケンバーバーショップ」は、福岡の地でも確かな存在感を発揮している。
スタッフインタビュー
Q.独特な備品やインテリアを選ぶ基準を教えてください。
A.たとえ見えない部分であっても、そこに「物語」があること。
バーバーチェアひとつ、クリッパーひとつ、なんだったら喫茶店のスプーンひとつとっても「これを選んだ理由」が説明できます。それは、ストーリー。使用する場面を想定して、そこに何らかの意味を見出すことができるかどうかが大切です。逆にどれだけ見た目がかっこいい物でも、ストーリーがなければ選ばないですね(沼田さん)。
Q.「やりたいことをやる」という現在のスタイルに難しさはありますか?
A.自由には責任が伴うもの。「やりたいこと」と同時に「やるべきこと」も考え続けています。
当店には店長がいません。それは自由であると同時にスタッフが皆、責任者でもあるということ。だからそれぞれが考え、実践し続けることが日常になっています。絶えずアイデアを出し、形とする毎日。難しさはないですが、その責任は常に感じています(網谷さん)。
Salon Data