サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.19
実例編訪問美容の集客は営業だけじゃない!
異業種交流会が成功のカギ?
gosso horie(大阪市西区)
- 全スタッフ6名
- 1店舗
- 代表:
- 野本雄樹さん
- 訪問美容開始:
- 2017年
- 訪問施設数:
- 5施設(1回の訪問で1〜10名)
- 施設訪問頻度:
- 2カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 兼任3名
- 価格:
- カット2,500円〜、パーマ3,000円〜、カラー3,000円〜
-
Q
訪問美容を始めようと考えたきっかけは?
-
A
世界一周の旅での経験と、祖父が介護施設に入所したことです。
旅先で貧困に苦しむ子どもたちと出会い、美容師として人の役に立つことを考えました。
美容師を目指した頃から私には夢が2つありました。ひとつは世界一周旅行をすること。もうひとつは将来自分の店をもつことです。新卒でサロンに就職するときに、オーナーに予めそのことを伝えており、受け入れてくれました。それで、アシスタント時代は休みなく働いて有休とお金を貯めて、スタイリストデビューが決まったときに世界一周の旅に出ました。
旅先で安宿に泊まっていると、世界から集まってくる同じようなバックパッカーたちとたくさん出会います。髪がボサボサの状態の人が多いので、私が公園などでカットしてあげていると、どんどん人が集まってきたりして、美容師として人の役に立つことがうれしかったですね。そして、カンボジアに行ったときに、貧困に苦しむ子どもたちと出会ったことが福祉への興味をもつきっかけとなりました。地雷を踏んで手足のない子どもたちを目の当たりにして、報道では知っていたことを実際に見ることで受けた衝撃も大きかったです。自分は美容師なので、寄付をするだけでなく、技術で人の役に立つことができないかと考え始めたのです。
独立してスタッフが成長してきた頃、祖父が認知症に。
世界一周の旅から帰国して、元のサロンで働きながら、チャリティカットの活動も始めました。休みの日にボランティアで施設をまわっていました。その後、2013年に独立して、ふたつ目の夢もかなえました。開業してからしばらくは、サロンを軌道に乗せることに必死で、福祉美容への気持ちはありながら経営に没頭していました。カラーやスパに特化して、他店に負けない特長を押し出すことで、たくさんのお客さまに来ていただけるようになってきたのです。そして、昨年ごろからようやく、自分が店にいなくてもスタッフに任せられる状態になってきました。そんな頃、祖父が認知症になり介護施設に入所したのです。親族の中でも若い私のことを、一番最初にわからなくなってしまいショックでしたね。「会う機会が減っていたからかもしれない」と思い、それから頻繁に祖父に会いに行き髪を切ってあげていました。それがきっかけで、訪問美容を本格的にやってみようと思い立ったのです。
-
Q
訪問美容を始めるために、何から着手しましたか?
-
A
とりあえず営業しようと電話をかけましたが、いい反応は得られませんでした。
何もわからず営業を始めたので、ターゲットを絞ることを考えました。
訪問美容を思い立ってからネットで調べてみたら、専門の業者が多いこと、けれど祖父の施設のようにまだ業者が入っていない施設もあることなどがわかってきました。そこで、ネットで調べた施設に電話をかけて営業を始めました。1〜2カ月で20〜30件ほどかけましたが、ほとんどいい反応が得られませんでした。当初は介護施設に種類があることもよくわからず、料金も決めずに営業をスタート。やっているうちに、だんだん状況がわかってきました。特別養護老人ホームなど、要介護度が高い施設では安い料金で専門の業者が入っていることが多く、太刀打ちできないと考えました。サービス付き高齢者住宅や、有料老人ホームなど、料金が高くても付加価値の高いサービスを求める方が多い施設にターゲットを絞った方が入り込む余地がありそうでした。
介護関連の方々に自分の夢を語ることで、紹介をいただけるようになりました。
営業方法も電話とは違う方法を考えなければと思いました。自分で売り込むよりも、第三者が「こんなサービスができる美容師がいる」と伝えてくれた方が説得力があるのではないかと。そこで、介護士やケアマネジャーをしているお客さまに訪問美容への夢を語ることで、ご紹介いただけるようになったのです。また、昨年から異業種交流会に参加し始めたことが大きかったです。そこには、ケアマネジャーだけでなく、資格スクールの方、高齢者向けの便利屋さん、消臭抗菌施術業者の方、司法書士の方など、さまざまな業種で介護業界に携わる方々がたくさん集まります。その人たちにも自分の想いを伝えて、彼らがもつ人脈から施設をご紹介いただけるようになりました。現在は、高齢者施設では5施設に2カ月1回ずつほど通っています。
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Q
訪問美容を今後どうしていきたいですか?
-
A
まだ利益を求める段階ではない。将来はサロンと半々にしたい。
訪問美容の専任スタッフを雇えるようになったら、利益を追求していきたい。
現在訪問美容は、私の「やりたい想い」で主に営業外の時間に実施しており、利益を求めてはいません。施術人数が多いときはスタッフも同行してくれていますが、売上としてはごくわずかで、経営はあくまでサロン中心です。訪問美容で利益を上げるとすれば、専任スタッフを雇えるようになった頃だと思います。うちのスタッフはみんなまだ若く独身ですが、女性スタッフたちが将来結婚、出産して育児休業でブランクができた際の復帰のきっかけとなったり、子育てで働く時間が限られた際の新たな雇用手段になると考えています。将来的には、サロンと訪問美容が半々ぐらいになれたらいいと考えています。
高齢者だけでなく、児童養護施設の子どもたちの役に立ちたい。
また、私は現在、大阪にある児童養護施設(※)の半数以上へボランティアでカットに行っています。児童は法律的に訪問美容の対象外ですが、施設にいる子どもたちへのヘアカット費用はほんのわずかしか支給されておらず課題が多くあります。おしゃれをしたくても希望の髪型にするお金がないのです。彼らは施設から卒業する日のためにアルバイトをして、そのためにやりたい部活やおしゃれも我慢しています。それを解決するには美容師がボランティアで行くしかないのですが、ボランティアでは限界があります。こうした活動を支援してくれる出資者を募ってビジネスにすることが私の目標です。児童養護施設の子どもたちにも喜びを届けたい。そして髪を切りながら夢を叶えることの素晴らしさを伝えたいと思っています。美容に対して困っているのは高齢者だけではないのです。さまざまな壁があるかもしれませんが、ライフワークとしていつかかなえたい夢です。
(※児童養護施設とは、経済的な理由や虐待など、さまざまな理由で保護者と生活することが難しい、そして社会のサポートが必要と判断された児童が入所する施設です)
野本さんからひとこと
訪問美容を始めたくても一歩踏み出せないとしたら、踏み出せない原因となっている不安や問題を一つひとつ解決していけばいいと思います。介護のことがわからないなら勉強すればいいですし、初めて施設に行くことに勇気が必要なのであれば、誰かと一緒に行けばいい。もちろんサロンワークとは違うこともあります。知っておくべきは、施術する場所がサロンとは違うことや、スピードを求められることです。スピードに不安があるなら、ウィッグで早切りの練習を積めばいいと思います。認知症の方に施術してもご理解いただけるか不安な人もいるかもしれません。けれど、施術後はみなさん必ず笑ってくれます。想いは必ず通じるので、「やりたい」と思う気持ちがあればまず動いてみることだと思います。
Salon Data
gosso horie【ゴッソ ホリエ】
- アクセス
- 長堀鶴見緑地線 西大橋駅から徒歩1分
- 創業年
- 2013年
- 店舗数
- 1店舗
- 設備
- 6席
- スタッフ数
- 7名