「バーバー」人気の理由
今「バーバー」が人気の理由
近頃増えている、従来の理容室とは違う新しいタイプの「バーバー」は、なぜ多くの男性ファンを生んでいるのでしょうか?
ターゲティングやコンセプト、強みなどについて探っていきます。
TRAD MARK BARBER(神奈川県横浜市)
1席のみのプレミアムな空間。
顧客満足を追求するバーバーとは?
横浜の新興都市である港北ニュータウンの一角に1席だけのバーバー「TRAD MARK BARBER」はあります。
在籍するのはオーナーの國唯(くにただ)大輔さんひとり。アシスタントも採用せず、最初から最後まで、お客さまと國唯さんのマンツーマンの時間が流れます。
その時間のなかで國唯さんが伝えたいこと、感じてほしいこととは? そして國唯さん自身が目指す目標とは?
職人気質の國唯さんが大切にするこだわりについて伺いました。
物事を追求する”職人気質”は、持って生まれた性格。
子供心に抱いた理容室への不満が、理容師を志すきっかけに。
「子供の頃、父親に連れられていった町の理容室。そこで意にそぐわない髪型にされる度に、理容室が嫌いになっていった」國唯大輔さんは、そう振り返る。当時の理容室は、それこそ角刈りとパンチパーマの時代。子供心にも、魅力的な場所には映らなかった。しかし嫌いだから遠ざけよう、とならないのが、國唯さんだ。「魅力がないなら、自分が変えてやろう」そんな思いから、中学生の頃から理容師を志し始めた。
学生時代に打ち込んだサッカーも、現在へとつながる布石。
理容免許をとった國唯さんが就職したのは、横浜市内の名門理容室。師匠は理容界の重鎮で、常時20名ほどのスタッフが在籍する大所帯だった。しかしそこで13年勤めて独立した國唯さんが開いたのは、たった1席だけのプレミアムなバーバー。若手スタッフを雇用し指導していくことよりも、自分自身の技術を深く追求する職人としての道を選んだのだ。ひとりきりですべてをこなすことに対しても「まったく辛いことはない」という。学生時代に続けていたサッカーでは、マンツーマンでマークにつくボランチ一筋。自分と向き合う時間が、自らを成長させるということを、身をもって知ったのかもしれない。
自身のスキルアップを追求する、シンプルな経営戦略。
価格以上の満足感が、口コミで評判に。
「横浜は日本における西洋理容発祥の地。しかし新しい町である港北ニュータウンにはそれが浸透していませんでした」この地にサロンを開いた理由をそう語る國唯さん。とくに具体的なターゲット層を想定したわけではないが、幅広い年齢層の、おしゃれへの感度が高い男性が訪れる。価格はカット8000円と周辺では高めだが、自身の技術を磨くこと、マンツーマンでさまざまな要望に応えること、贅沢な空間でリラックスさせることなどの追求が顧客満足度につながり、口コミで評判が広まっている。
空間を贅沢に使用するシンプルなインテリア。
意識しているのは「しっかりと時間をかけること」という言葉どおり、シャンプー+カットで60~70分、シェービング込みで90分ほどかけて、じっくりとお客さまと向き合う。言葉の少ない男性であっても、時間をかけるほどに気持ちがほぐれ、希望を話しやすくなるもの。さらに完全予約制でウェイティングも入れず、その時間はお客さまと國唯さんのふたりだけ。店内から余分な装飾を排し、あえてシンプルなつくりにしたのは、そんな時間を気兼ねなく過ごしてもらうための工夫だ。
日々の仕事を通して、磨き続ける技術。
頭の形に合わせやすいハサミでのカットにこだわる
お客さまの要望がない限り、國唯さんが好んで行うのは、クリッパー(バリカン)などは使わないハサミだけのカット。その方が日本人の頭に合うと考えているためだ。「頭の凹凸に沿って調整できるハサミは、伸びたときの形が良くなります」と技術を追求する。ただし、特別にトレーニングをするわけではない。「仕事がトレーニング、トレーニングが仕事。日々鍛錬です」と、真剣勝負で仕事と向き合いながら、技術の底上げを目指すのだ。現在はフェード(刈り上げ)などのバーバースタイルと、軽やかに仕上げる美容室風カットの注文が半々程度。あらゆる要望に応えられるよう、自身もサロンに足を運び情報収集も欠かさない。
時間をかけて丁寧に行うシャンプーやシェービング
「お客さまに刃物を向ける仕事ですから」とシェービングにも、並々ならぬこだわりがある國唯さん。まず蒸しタオルで顔をあたため、厳選したクリームで肌に油分を足し、シェービングブラシで泡立てる、という作業を、じっくりと時間をかけて行う。クリームを塗るタイミング、シェービングで失う成分のリカバリーなども論理的だ。あるいは半個室になった専用ブースで行うシャンプー。39度ほどの湯でこちらもしっかりと時間をかけることで、皮脂、汚れを落とすと同時に気持ちをリラックスさせる。どちらもマンツーマンのサロンだからできる、贅沢な時間の使い方だ。
オーナーインタビュー
Q.マンツーマンの空間で雰囲気づくりの秘訣はありますか?
A.まずは自分の心を開くことがスタートだと思います。
一対一の接客の場合、細やかな動作や表情などから気持ちが伝わりやすいもの。だからまずは心を開いて「僕はあなたのことを知りたい」という思いを伝えていくことが大切だと思います。こちらから振る話題は、お客さまの様子次第。ヘアケアやスタイリングの話は基本ですが、ときには恋愛の話や仕事の悩みなど、深い話まで広げることで、雰囲気が柔らかくなることもあります。
Q.今後の目標を教えてください。
A.変化の多い業界ですが、変わらない勇気も必要です。
以前、小学6年生の頃から担当している子が、成人式の朝にシェービングをしに来たんです。親心で泣きそうになりましたね。そのとき、時代の変化を受け入れることも必要ですが、お店が変わらずにいることも大切なのだと気づきました。だから今の目標は、今のままのスタイルで覚悟を持って、一生続けていくことです。
Salon Data