PEOPLE.06 田中修治 株式会社OWNDAYS 代表取締役社長
破天荒なのか、計算なのか。 やる気をつくるリーダー論。
倒産寸前から、国内外12カ国に店舗展開するまでになった道のりとは?そして、その機動力となった社員をやる気にさせるコミュニケーションとは?
Profileプロフィール
たなか・しゅうじ●1977年、埼玉県生まれ。10代の頃より起業家として事業を展開。2008年、30歳で「株式会社オンデーズ」を個人で買収。同社の代表取締役社長に就任し、事業の立て直しに尽力した。現在同社は国内に加えてシンガポール、台湾、香港など海外を含めて270店舗を展開(2019年1月現在)。
https://www.owndays.com/
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全財産を失ったとしても、得られる経験に価値がある。
千葉
(ホットペッパービューティーアカデミー・アカデミー長)
田中さんの実体験をもとにして「OWNDAYS」再生の道のりを小説にした『破天荒フェニックス』。おもしろくて一気に拝読しました。小説にもありましたが、30歳でOWNDAYSの社長に就任される前はデザイン会社を経営されていたとか。田中
デザイン会社は25歳のときから始めたんですが、それ以前も就職したことは一度もないんですよ。20歳のころからずっと個人で事業をやってきました。でも別に「起業したい」って志があったわけでもなくて、食べていくために周りに「金になることない?」って聞いて、できることをやってきたという感じです。
千葉
OWNDAYSはメガネの製造販売業(SPA)。メガネ業界に飛び込んだのは「まだ圧倒的シェアのSPAがないから、1位になれる可能性がある」という理由が小説にありました。現在OWNDAYSは国外でも店舗展開していますが、世界を目指す気持ちは当初から?
田中
「大きな会社をやりたいな」って漠然とした気持ちはありました。20代後半になった頃、時代的にベンチャー企業の若手社長が話題になることが多くて。当時、あるIT企業の副社長に飲みに連れて行ってもらう仲で、その企業の売上が1200億円くらいだったかな。だから「俺もそれくらいの規模の会社をやりたい、何かないかな」って考えていましたね。
千葉
とはいえ当時のOWNDAYSは売上20億円に対して赤字2億円、負債14億円という状態。よく引き受ける勇気があるなぁと感心しました。
田中
その感覚が逆にわからないんですよね。なぜ勇気が必要なのか?だって14億の借金は俺がつくったわけじゃないし、うまくいかなくたって俺は悪くない。だいたい14億もの資産はないんだから、ダメなら自己破産すればいいじゃない。
千葉
どうなるか道筋が見えないところに、足を踏み入れる恐怖は?
田中
それを言っちゃったら、知っていることしかできない。会社に就職する時だって、将来のことなんてわからないでしょ?自信の有無とか、できる・できないよりも、たとえ再建できなかったとしても、経験や人脈は得られるでしょう。当時は失うものもなかったですしね。当時持っていた全財産を失ったとしても、得られる経験の方が価値があると思ったんですよ。リスクを上回る経験ができるなら、やるってだけ。失敗しても死ぬわけじゃない。
俺からしたらむしろ、やらない気持ちがわからないくらい。でもまぁ「よくわからないものごとに対して怖がる人がいるんだな」ってのは最近、理解しました。世の中にはこんなにたくさん、自分で好きなようにできることがあるのに、みんなやらないでしょ。自分から見たら“金”とか“銀”が落っこちてるのに、誰も拾わないでくれるからラッキーって感じですね。
千葉
なるほど、経験することにリスク以上の価値があると考えると、見え方が変わってきますね。
田中
うちの子どもが小学1年生なんですが、彼らが20歳になる頃には、こういう考え方も常識になると思う。今は紙切れのお金だけを重視する傾向がありますよね。でもうちの子からすると、SuicaもT-Pointみたいなのも「お金と同じ」。違いがわからない。だってどちらもモノと交換できる手段ですから、違わないのが正解なんですよね。
そうして、新しい時代の子どもたちは紙幣だけを重視することがなくなる。彼らが大人になった時、負債金額が大きいという点だけを見て避けずに、本質的に判断できるようになっているでしょう。時間や信用に価値があると考える時代が来る。お金だけじゃなく、ピンチを乗り越える知識、経験、仲間、行動力だって大きな資産なんですよ。