サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.26
実例編1年目契約ゼロ。その後16年続く秘訣は?
KEIJI CLASS
- 全スタッフ15
- 2店舗
- 代表取締役:
- 中村啓二さん
- 訪問美容開始:
- 2003年
- 訪問施設数:
- 約20施設(1回の訪問で2〜35名)
- 施設訪問頻度:
- 1〜2カ月に1回
- 訪問個人顧客数:
- 今までに1,000名以上
- 個人顧客訪問頻度:
- 1カ月に1回〜不定期
- 訪問スタッフ:
- 3名
- 価格:
- カット2,900円〜、パーマ5,000円〜、カラー4,400円〜
-
Q
訪問美容を始めようと考えたきっかけは?
-
A
お客さまがサロンに来られなくなったことでした。
腰を痛めたお客さまのご自宅に伺い始めたのがきっかけです。
31年前に「KEIJI CLASS」をオープンさせ、それ以来ずっと通ってくださっていた常連のお客さまが17年前ごろに腰を悪くされました。ある日、そのお客さまが「今日がサロンに来られる最後だわ」とおっしゃったので、「それなら私がご自宅に伺ってカットします」と。実際にご自宅にお邪魔して施術させていただくようになりました。
しかし、ご自宅だとお客さまも見られたくないものもあるのではないかと感じたんです。当時から訪問美容車で実践されている方がいたことは知っていましたが、2,000万円と非常に高額で。1年後、800万円くらいで買える訪問美容車の資料を見て「これならできる!」と銀行で融資を受けて始めることにしました。
-
Q
営業はスムーズに進みましたか?
-
A
最初の1年は全く受注が取れませんでした。
病院中心の営業で、決裁権のある先生になかなか会えませんでした。
2003年に訪問美容車を購入し、サロンとは別に「SAKURA訪問美容サービス」を立ち上げました。訪問美容専任のスタッフも2名採用しました。
それから病院や施設への営業をスタート。当時はまだ介護施設が今ほど多くなく、施設には理容師さんがすでに入っているところがほとんどだったため、営業先の中心は病院でした。片っ端から飛び込みや電話でアポを取って行きましたが、病院の先生は多忙で、アポを取っていても何時間も待たされたり、直接会えることがなくかなり苦戦しました。30件回って直接先生に会えたのは2件くらい。あとは看護師さんたちに伝言してもらうといった状況でした。
さまざまな理由で断られつづけた1年間。
1年間営業を続けても全く受注が取れませんでした。断られた理由は、すでに理容師さんが入っていることと、消毒体制の整備を突かれたことでした。病院なので「細菌を一切持ち込まないでほしい」と高い要望をいただくことが多かったです。
もしかしたら、価格もネックだったのかもしれません。理容師さんたちは、カットを1,000円〜1,500円で受けていました。我々はサロンでの当時のカット料金4,500円に近い金額を提示していたからです。
ただ、「いつかは必ず芽が出る」という自信はありました。理容師さんの施術を受けている方々は、みんな同じ髪型でした。「満足できていない女性のお客さまも多いのではないか」、「『美容』として入り込める余地は必ずあるはず」と思っていました。
あきらめかけた矢先にケアマネジャーさんから連絡が。
受注が取れない期間でも、採用したスタッフにはお給料を支給しなければなりませんから、1年たったときに「そろそろあきらめどきか…」と考え始めていました。そのときに突然、ケアマネジャーの方から電話をいただき、ある施設をご紹介くださったのです。サロンの前にいつも訪問美容車を停めていたことが宣伝効果になったのかもしれません。
その後、そのケアマネジャーさんや契約いただいた施設からのご紹介で少しずつ取引先が増えていき、現在に至っています。
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Q
訪問美容をやってみてよかったことは?
-
A
スタッフたちが楽しんで働いてくれることです。
お客さまからいただく言葉や笑顔がスタッフの励みになっている。
現在は3名の専任スタッフががんばってくれていて、ヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)と、ヘアメイクセラピスト(一般社団法人日本訪問理美容推進協会[以下JVPA]が認定している民間資格)の資格をもっています。
彼女たちは業務委託契約なので、訪問美容の予約がない日は、自分のサロンに立っていたり、ブライダルなどの仕事を兼務しています。「利用者さまやご家族、職員の方々に喜んでいただけることが、明日の糧になる」と言っており、スタッフが楽しんで働いてくれていることが私にとっては一番のやりがいになっています。
自分の資格や技術をいかして、人の役に立てる仕事です。
(スタッフの方々の感想)
大島祐子さん:「私は自分でサロンを経営しており、サロンの定休日に訪問美容に携わっています。母が寝たきりになったときに、ヘルパー2級の資格を取りました。SAKURA訪問美容サービスの求人を見たときに、美容師とヘルパーの資格をもつ自分が役に立てると思い参加しました。
訪問美容はお客さまの状況を把握することが大事で、そのためにチームワークが欠かせません。ベテランの高橋さんを中心に、私が出勤できないときでもSNSで情報共有してくれたり、移動中の車の中でも常に会話してスタッフ間でコミュニケーションをとっています」
高橋竹美さん:「結婚を機に美容師を辞め、16年間ブランクがあったのですが、東日本大震災をきっかけに人の役に立つことがしたいと考えるようになりました。その頃に訪問美容のことを知り、自分の技術をいかして人の役に立てるのではと思い、この世界に入りました。自分の強みでお客さまを笑顔にできる、やりがいのある仕事です」
小松育子さん:「もともとブライダルのヘアメイクの仕事をしており、土日がメインのため、平日だけ働ける仕事を探していました。KEIJI CLASSに顧客として通っているときに募集のことを知り、採用してもらいました。お客さまが施術だけでなく、訪問美容の仕組みそのものに感謝してくれて、『もっと広まればいいのにね』とおっしゃってくださり、自分の仕事に誇りがもてます」
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Q
今後、訪問美容はどうなっていくと展望していますか?
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A
求められる質がますます高まっていくと考えています。
協会に加盟することで、信用度が上がりました。
この春、JVPAに加盟し、当サロンが栃木支部になりました。協会ではヘアメイクセラピストの資格取得のための講習をするなど、訪問美容に携わる人の技術アップの活動をしています。社団法人に加盟したことでマスコミなどから取材を受けるなど、外部からの信用度が上がったように思います。また、遠方から依頼を受けたときに、加盟店のサロンに声がけするなど、助け合うこともできるようになりました。
サロンクオリティの訪問美容に、サロンと同等の報酬を目指したい。
訪問美容では、コミュニケーションの相手が施術対象者だけでなく、ご家族や職員の方もいます。また、お体や認知の状態が健康な人とは違うため、接し方には非常に気を使います。
当社の訪問スタッフたちは非常に高い接客スキルを身につけていますが、今後ますますその力が求められていくでしょう。なぜなら、バブル世代でおしゃれにこだわりがあり、質の高いサービスを経験した方々が高齢者になっていくからです。
一方で、訪問美容はサロンよりも労力がかかるのに、サロンよりも低価格を求めらるのが現状です。サロンクオリティを提供する正当な報酬として料金も同等で認められるよう、業界自体が変化する必要があると感じています。そのためにも、我々も勉強をつづけることが欠かせないと思っています。
お客さまの事情の変化に合わせていくのが経営の自然な流れ。
私たち美容師もお客さまも、年齢とともに生活や状況が変わっていきます。そうした事情に合わせて、サロン経営も変化していくべきだと私は考えています。
例えば、子育てによってサロンに来るのが大変になったお客さまのためにキッズスペースを設けました。訪問美容も同様な考え方で自然に始めようと思いました。また、スタッフたちも結婚や出産で働く時間が制限されても、訪問美容なら可能な曜日や時間帯で活躍してもらうことができます。
今後もお客さまやスタッフに新たな変化がおきて、別のことが求められてくるかもしれません。そうなったときもサロンワーク、訪問美容ともに進化させていきたいと考えています。
中村さんからひとこと
訪問美容に一歩踏み出すには、サロンに来られなくなったお客さまがいらっしゃったときに、まずはその方のところへおうかがいするところから始めてみるといいと思います。訪問してみると必ず何かを感じたり、発見があるはずです。お客さまのお体の状態はどうか、何に困っているか、サロンワークと何が違うかを身をもって感じることができます。そこからご自身の訪問美容の道を見つければいいと思います。
ただし、もうけようとして訪問美容を始めると必ず失敗します。「お客さまを何とかしてさしあげたい」という純粋な気持ちから始めないと、相手が求めているものが見えてこないからです。ビジネスの観点は後からついてきます。今後ますます超高齢化社会になり、訪問美容は美容のメインストリームになることは間違いありません。お客さまの要望にこたえられるよう、みなさんの想いと強みをいかしてみませんか?
Salon Data
KEIJI CLASS【ケージクラス】
- アクセス
- 宇都宮駅から車で10分
- 創業年
- 1989年
- 店舗数
- 2店舗
- 設備
- セット面16席
- スタッフ数
- 15名(KEIJI CLASS)