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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.28

実例編訪問美容でスタッフの多様な働き方が拓けた

大阪・梅田茶屋町を始め、行き届いたサービスの人気店「el zafiro」を経営する竹中寛さん。若手スタッフの悩みをきっかけに訪問美容の事業化を決意。サロンとは別ブランド「elmo」をスタートさせています。自身も訪問美容を実践するなかで、美容師としてのあり方を再確認できたと語ります。竹中さんの訪問美容に対する想いと道のりについてお話をうかがいました。

el zafiro

  • 全スタッフ21名
  • 3店舗
オーナー:
竹中寛さん
訪問美容開始:
2019年
訪問施設数:
1施設(1回の訪問で5〜6名)
施設訪問頻度:
1カ月に1回
訪問個人顧客数:
1名
個人顧客訪問頻度:
3カ月に1回
訪問スタッフ:
兼任4名
価格:
カット2,500円〜、パーマ6,800円〜、カラー6,800円〜

Q

訪問美容を始めようとしたきっかけは?

A

お客さまとスタッフの想いという、ふたつのきっかけがありました。

長年のお客さまが病気になり、在宅で施術を始めました。

そもそも訪問美容を始めようと思ったのは、20年来の常連のお客さまが、高齢と病気のためにサロンに通えなくなったことでした。そのお客さまは独立する前から担当させていただいていた、とてもおしゃれなお客さま。美容師としての私を育ててくれた⽅でもありました。親⼦2代で通ってくださっていましたが、3年ほど前にお嬢さまから「⺟のために家にカットしに来てもらえないか」と依頼があってそれ以降、在宅で施術させていただくことになりました。自分としても、そのお客さまの最後の美容師になりたいという気持ちもあり、今も通わせていただいています。
他にも年齢とともにサロンに来られなくなるお客さまが出てきたため、サロンのホームページで以前から在宅の訪問美容をやっていることは告知していました。けれど事業としてはまだ捉えておらず、施設などへの営業はしていませんでした。

若いスタッフの「人の役に立ちたい」という希望をかなえたかった。

本格的に訪問美容を事業化しようと考え始めたのは、まだアシスタントだった若手スタッフが退職を希望したことがきっかけでした。理由を聞くと、「サロンの美容師になることが想像がつかない」と答えたことに驚きました。我々のサロンは大阪の中心地で、最先端の美容を志していますが、彼のやりたいことをじっくり聞いてみると、「人を癒やしてあげたい、役に立ちたい。だから訪問美容をやりたくて美容師をめざした」と。入社のときには彼の意向をきちんと聞いてあげられていなかったのです。
確かに近年、彼のようなホスピタリティ重視の若手が増えてきたと感じていました。ずっと一線でがんばりつづけてきたベテランも、年齢を経るとペースダウンした働き方を望むと思います。サロンに立ちつづける以外でもスタッフが働ける多様性を考えるのが経営者の仕事です。そこに訪問美容が向いていると考え、事業として訪問美容をめざそうと考え始めました。

  • 「スタッフが訪問美容をやりたい気持ちに気づけていなかった」と語る竹中さん

Q

事業として訪問美容をめざして、すぐに始めたのですか?

A

「訪問美容ゼミ」で学びながら、営業を始めました。

1から学ぶために「訪問美容ゼミ」に参加することにしました。

訪問美容を事業化するといっても、何から手をつけていいか全くわかりませんでした。そのときに、ホットペッパービューティーアカデミーの開催する訪問美容のイベントがあり参加してみました。訪問美容についての基礎知識と、講師であるふくりびさんの医療用ウィッグの話を聞いて大変感銘を受けたのです。そして、「訪問美容ゼミ」が開催されることを聞いて、「これは是が非でも参加したい!」と申し込みました。
「訪問美容ゼミ」では知識や技術を学びながら、営業ツールの作成や介護施設への営業活動も行いました。しかし、やりながら戸惑いが出てきました。というのは、一般的な訪問美容の料金はサロンに比べてかなり安く、求められるものもサロンとは違うと思ったからです。自分のなかでモヤモヤが続いていました。

訪問美容で自分がめざすものを整理して考えました。

モヤモヤした気持ちのなかでも、若手スタッフとともに100カ所以上の介護施設へ営業に行きましたが、契約には結びつきませんでした。料金だけで門前払いされたりしていたため、その状況を見て、ゼミの講師の方が「手当たり次第に営業をかけるのではなく、ターゲットを絞った方がいい」とアドバイスしてくださいました。あらためて自分が訪問美容で何をやりたいのか考えました。
モヤモヤのきっかけは、「とにかく早く安くカットしてほしい」という施設の要望でした。確かに美容にかけられる時間も費用もない施設や利用者さまも多くいます。その一方で、私の在宅のお客さまのように、「サロンに行けなくてもキレイでいたい」という方もたくさんいるはずです。美しくするだけでなく、お客さまの頭皮に負担をかけないような施術もサロンの差別化ポイントとしてきました。「サロンクオリティを訪問美容で実現することこそ、私のやりたかったことだ」と気づくことができました。

  • 「旅する美容室」と称した「elmo」の営業ツールは、ライブのフライヤーやチケットのようなおしゃれなデザイン

  • サロンのオリジナルシャンプーのサンプルなどを、営業ツールのひとつしてプレゼントし、使用している材料の品質もアピール

ターゲットを絞ったことで、やりたい施設との契約に結びつきました。

自分のめざすものが整理できると、営業先も自然と絞られて、美意識の高い利用者さまが多そうなエリアの施設を重点的に回りました。するとそれまでより話をちゃんと聞いてくれる施設が増えたのです。複数の施設をもつ大手がすぐにでも契約していただけそうなこともありました。逆にその時点ではこちらの体制が追いついていなかったので、経験を積んでから将来的にまたうかがうと伝えて今もフォローしています。
現在訪問している施設と契約いただけたのはゼミの最終⽇の前⽇。何度も⾜を運んでトライアルなどをしていた施設です。すでに他の訪問美容事業者が入っていましたが、私たちのトライアルが利⽤者さまに評判がよかったこともあり、その事業者と併⽤で契約させていただくことができました。

Q

訪問美容を実際にやってよかったことは?

A

美容師としての自分たちのあり方に気づけたことです。

訪問美容はお客さまから力と美容師としての誇りをいただける。

お年を召されても美意識の高いお客さまと接して、我々の施術を喜んでいただけることで、「サロンクオリティで訪問美容もやる」という自分たちのあり方を再確認することができました。キレイにすることでお客さまを勇気づけることができる、美容師という仕事の素晴らしさもサロン以上に実感しています。
また、認知症の方でも施術中に昔の話や人生の話をしてくださいます。人生の大先輩方のお話をうかがえることもこの仕事の醍醐味です。そうした方々が本当に屈託のない笑顔で幸せそうにしてくださることで、私たちが力をいただいています。

  • 移動式シャンプー台を持ち込み、シャンプーもパーマも丁寧な施術が評判だ

  • お花やおしゃれな鏡など、施設をサロンのような雰囲気に演出。サロンごと移動している「訪問美容室」がコンセプトだ

訪問美容をやりたいスタッフのためにも、顧客数を増やしていきたい。

当初退職を希望し、私に訪問美容のきっかけをつくってくれた若手スタッフは、訪問美容を実際にやって「人から必要とされることがうれしかった!」と喜んでいます。彼を含め、現在3名のスタッフが私とともにサロンと兼任で訪問美容に携わっています。まだ契約施設が1件なので、今は施設に行けるのは定休日。私たちの訪問美容は始まったばかりなので、スタッフたちの厚意で成り立っており経営的にはまだこれからです。他のスタッフのなかにも訪問美容をやりたいと言ってくれているメンバーがいるので、今後、顧客数をもっと増やしていきたいですね。ただ、「カラーは地肌に液剤をつけない」など丁寧な施術がセールスポイントなので、限られた時間内に施術人数を増やす方法を模索中です。

  • 訪問美容のスタッフの浦 さや香さん(左上)と、中村将也さん(左下)と。中村さんが退職を希望していたスタッフだが、竹中さんとともに「訪問美容ゼミ」にも参加し、希望の道でがんばっている

Q

今後はどのように訪問美容を展開したいですか?

A

どんな状態の方にも施術できる技術を身につけ、幅を広げていきたいです。

サロンのお客さまとの一番の違いはシャンプーのとき。

訪問美容の施術で大変なことのひとつが’シャンプーです。カットやパーマ、カラーはお座りいただいた状態でできますが、シャンプーのときは姿勢を変えていただく必要があります。しかし、背中が曲がった状態の方など、シャンプーしやすい体勢が人によってそれぞれ異るのがサロンとの大きな違い。私たちはまだ経験が浅く、限られた状態の方しか対応できないため、今後はどんな状態の方でもシャンプーができるようになるのが当面の目標です。それには技術だけでなく、座ったままでできる移動式のシャンプー台を取り入れるなど、道具も多様に準備しなければならないと思います。
どんな方でも対応できる状況になれば、サロンクオリティを維持しながら時間短縮もできるようになるはずです。そのときに、さらに私たちの強みを活かして差別化をしていきたいと考えています。

竹中さんからひとこと

訪問美容に一歩踏み出せるかどうかは、動機づけの違いではないでしょうか。漠然と「やってみたい」では踏み出しにくいので、「なぜ自分は訪問美容をやらなければならないのか?」を自分に突きつけてみるといいと思います。当初の私も方向性が明確でなく、迷走していたような気がします。
私の場合、「スタッフが望んでいるから」と、「サロンに来られないお客さまがキレイになりたいと望んでいるから」というふたつのやらなければならない動機がありました。その上で、サロンと同様のクオリティで訪問美容を行うという方向性に気づけたことで突き進めました。もちろん今後高齢者が増えるため、やるべき事業ということもあります。
訪問美容をするもしないも、スタッフの成長を願ってこそ。経営者として訪問美容の価値について考えてみてはいかがでしょうか?

Salon Data

el zafiro 【エルサフィロ】

アクセス
阪急 梅田駅から徒歩3分/御堂筋線 梅田駅から徒歩5分
創業年
2001年
店舗数
3店舗
スタッフ数
21名 
URL
https://beauty.hotpepper.jp/slnH000071488/
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