サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.29
実例編訪問美容をエンターテインメントにしていきたい!
中井大輝さん
- 訪問美容開始:
- 2019年
- 訪問施設数:
- 1施設(1回の訪問で約15名)
- 施設訪問頻度:
- 2カ月に1回
- 訪問個人顧客数:
- 6名
- 個人顧客訪問頻度:
- 2〜3カ月に1回
- 価格:
- カット2,500円〜、パーマ5,000円〜、カラー5,000円〜
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Q
訪問美容を始めようとしたきっかけは?
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A
「来てほしい」というお客さまの要望に応えられなかったことでした。
訪問できずにお客さまが亡くなったことにショックを受けました。
昨年までは、関西で十数店舗を展開する中堅サロンで、店長を任されていました。そのときに長く担当させていただいていたお客さまが病気になられたことがありました。その方から「サロンに行けないので家に来てほしい」と依頼されたのですが、当時は訪問美容の知識も技術もなかったためお断りしました。病気が治ったらまたサロンに来ていただけると思っていたのです。しばらくしてからその方のお嬢さまから、「母が亡くなった」とご連絡をいただきました。最後にサロンにいらしてから一度も髪を切らずに亡くなったと知り、申し訳なく、とても後悔しました。
将来、自分がどう美容業界と関わっていくべきか考えました。
もうひとつ、私が訪問美容師を志したきっかけは、自分自身に持病があることでした。自分の将来像を考えたとき、体調的にプレイヤーとしてサロンに立ち続けるのは難しいと考えていたのです。独立して経営者になる道を考えた場合、サロンが乱立する一方で若手の美容師が減っている美容業界の現状で、新しいサロンを作ることに将来性を感じられませんでした。
また、自分自身は年輩のお客さまと接することに喜びを感じていました。少子高齢化の時代では訪問美容にのびしろがあると考え、自分が独立するなら訪問美容があっていると思ったのです。
方向性は見つかったものの、何から始めていいかわからない日々。
ネットなどで訪問美容について調べていくと、料金が極端に安かったり、「美容」とはかけ離れた施術があることに驚きました。それは自分が目指したいものではないと。さらに調べたときに、「trip salon un.」さんの存在を知りました。若いスタイリストたちが訪問美容専業で、サロンと同等のサービスと料金でやっていると知って「自分がやりたいのはこれだ!」と思ったのです。
東京の「trip salon un.」さんとは接点がありません。何から始めていいかわからず、とりあえず大阪の訪問美容専門の大手に「見学させてほしい」と尋ねてみました。しかし、「ノウハウを流出できない」と断られてしまいました。
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Q
訪問美容について学び、始めるきっかけは?
-
A
「訪問美容ゼミ」の第二期生を大阪でも募集していたことです。
第一期ではあきらめた「訪問美容ゼミ」の第二期生に。
一昨年、「trip salon un.」さんも講師を務めるホットペッパービューティーアカデミーの「訪問美容ゼミ」の第一期の募集を見つけました。しかし、そのときは東京開催だけ。店長だった自分がサロンを休むわけにはいかず断念しました。すると昨年、第二期が大阪でも実施されると知り、「会社を辞めてでも絶対に参加したい!」と決心したのです。ゼミの面接ではその熱い思いを伝えて見事合格できました。
ゼミが始まった当初はサロン勤めでしたが、開始して3カ月後にはサロンを退職。生活がありますから、退職後にすぐに業務委託として、現在の「cocona hair maison+」に勤務することになりました。フリーランスなのでサロンと訪問美容のダブルワークがしやすい環境です。
ゼミの締切があったから、一つひとつ着実にできた。
ゼミでは訪問美容の基礎的な知識から、営業ツールの作り方、営業のマナーなどさまざまなことを教えていただきました。一番よかったのは、ゼミには締切があること。次の回までにしなければならないことを設定されるので、後延ばしにしがちな自分にはよかったです。むしろ講師の皆さんが優しすぎたので、もっとお尻を叩いていただいてもよかったかもしれません。
サロンのお客さまたちからの紹介で、契約に結びつきました。
営業は飛び込みで施設を回りましたが、思っていたよりずっと難しかったですね。門前払いは当たり前で、話を聞いていただくのも大変です。私は以前勤務していたサロンを退職する際に、担当していたお客さまたちに「訪問美容をやりたいから独立する」ことを伝えていました。それで、お客さまから施設をご紹介いただき、ゼミが始まって2カ月後に1件の契約を取ることができました。すでに訪問理容の業者が入っていた施設でした。こちらの提案するおしゃれなスタイリングを実現する「サロンクオリティ」を求める方と、理容師しかできない顔そりを求める方の両方がいらっしゃるので、もともと入っていた理容業者と隔月で入らせていただいています。個人の在宅訪問もお客さまたちからのご紹介です。
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Q
訪問美容を実際にやってみてどうでしたか?
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A
自分に合っていることも、大変なこともわかりました。
お客さまやまわりの方に喜んでもらえることがやりがい。
訪問美容を始める前は、「やりたいけれど、本当に楽しんでできるだろうか?」という不安もありました。しかし、実際に施術に行くと、お客さまたちがいつも楽しみにしてくださり、喜ぶ姿を見て、「やはり自分に合っている」と再確認できました。私が心掛けているのは、どんな施術をしたか言葉にして伝えていることです。「耳が見えるようにしましたよ」とか、「やさしい雰囲気にしあげましたよ」などです。そうすることで、どう変わったかをご本人も実感できますし、ご家族や施設の方からも「すっきりしたね」、「やさしくなったね」とほめてもらえます。お客さまがキレイになることで、まわりの人もみんなに喜んでもらえるのが、訪問美容の素晴らしさだと思います。
サロンと違い、アウェイで施術する難しさがある。
一方で、サロンワークと違って、施術するスペースの確保や、普通のイスで姿勢を保つこと、持参する道具の準備などは思っていたよりも大変でした。サロンがいかにスタイリストにとって恵まれた場所であるかを痛感しています。施術後の片付けも施設の方にご迷惑をかけないよう、元の状態よりもキレイにして帰ることは基本ですが、掃除もやり始めたらキリがないので、どこまですべきか悩むときもありますね。
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Q
今後は訪問美容をどうしたいですか?
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A
エンターテインメントにしたいです!
「呼んでよかった」とすべてのお客さまから思っていただきたいです。
「訪問美容をエンターテインメントに」が私のテーマです。今のお客さまも私が施術に行くことを楽しみにしてくれていますが、もっと楽しんでいただきたい。実は、地域の福祉課では、手品や楽器などの特技をもった方々を登録して、ボランティアで施設のイベントなどに派遣しています。そういう方々と一緒に訪問して、「施術を受けてキレイになりながらお楽しみもある」エンターテインメントな訪問美容をしていくことができればと思っています。
中井さんからひとこと
訪問美容を始めるきっかけは人それぞれだと思います。この記事を見つけていただいたこともきっかけのひとつです。調べて満足ではなく、調べたならその勢いで行動に移してほしいです。次に「訪問美容ゼミ」があったらぜひ参加することをおすすめします。物理的にゼミへの参加が無理な場合は、近くで実際にやっている人や会社を探して、見学させてもらうといいかもしれません。
期限を設けるのもいい手です。ゼミのときは締切がありましたが、卒業した今は妻が私の監視役。言った期限までに実行しないとしばかれます(笑)。身近な人に「いつまでにこれをやる」と宣言することで、「やらないとかっこ悪い」状況をつくるといいかもしれません。
Salon Data