女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.9トップサロンの覚悟とは?
270名全員が「辞めたくない会社」に。
Ramie/ヘアサロン
(GARDENグループ)
東京都中央区
2006年、原宿に200坪の巨大サロン「GARDEN」をオープン。「世界で認められるブランド」を目指し誕生したお店は、トップクラスのデザイン力で瞬く間にニューヨーク店を含め9店舗に。日本の美容業界をリードするサロンとなりました。中でも、2013年に「新大人世代へ向けて」をコンセプトにオープンした「Ramie」ではママスタイリストが活躍中。初めての産休・育休制度を作り、約270名のスタッフを抱えるグループのトップでありながら、労務管理にも熱心に取り組んでいる代表の加藤さんにその取り組みと想いを伺いました。
1取り組み
本人の「どうしたいか」を尊重し、
産休・育休にも幅広く対応。
どんな工夫をしている?
人によって妊娠時の体調はもちろん、出産・育児に対する希望も環境も違ってくるし、妊娠初期ではいつまで働けるか聞かれても分からないもの。定期的に希望を聞いて、本人に期間などの詳細を決めさせている。
例えば、産休に入るのは出産の何日前という基準があっても、「里帰り出産をしたい」とか「出産準備をもっと前からしたい」という本人の意志があれば、早くから休業に入ることも可能。育休も同様で、幅広い選択肢を与えた上で、個々人の希望に沿った形を本人とサロン側で一緒に考えている。
制度を考えたきっかけは?
産休制度のことは創業当時から考えていたものの、今までの美容業界では妊娠を機に退職するケースがほとんど。その中でスタイリスト・青木さんが、「出産しても働き続けたい」という意志を持って相談してきたことで、取り組みが始動した。
そもそも美容師は「朝練習して、昼間営業して、夜練習」という職人の世界。産休制度や給付金のことを知らない人がほとんどで、それが美容業界に産休制度が普及していない一因。相談に対してはそのような情報と選択肢を伝えることからはじめている。
2取り組み
希望給与から勤務体系を導く、「逆算型」の時短勤務。
どのような勤務体系?
家庭によって必要な収入や夫・親のサポート状況は異なるもの。家族とも話し合ってもらい、「いくら必要か」「いくら稼ぎたいか」という希望を聞いた上で、それを実現するための給与体系、労働時間をゼロから設定していく。「長く働いてくれているので、社会保障の部分はきちんとキープしてあげたい」という想いから社員のままで給与と勤務体系を変更している。
どのように利用されている?
まずは初めてのケースをきちんと話し合うことからスタートした制度。給与や労働時間など、何を一番優先するか、何があればやっていけるのかなど、本人が望む形をヒアリングした上で形にしていった。
特に結婚した女性の場合は、「夫の扶養の範囲内でやるか」というのが大きなポイントになってくるもの。扶養のメリットデメリットを説明した上で、家族と相談して来てもらい、もし「扶養の範囲で」という希望であれば、1年間の所得を逆算。週何日なのか、月何人くらいなのか、「固定給+歩合」にするか、時給にするかなど、一人ひとりの意志を尊重しながら、会社としてできる範疇で雇用条件を変えている。現在は青木さんに続き、産休中のスタッフが1名、結婚して営業1時間前に帰る時短勤務を利用しているスタッフが1名いる。
3取り組み
自分の目で選んだスタイリストにお客さまを託す、
「仲人型」の引き継ぎ制度。
どんなやり方?
産休に入るスタイリストが、担当しているお客さま一人ひとりに合いそうなスタイリストを選び、お客さまに了解を取った上でご紹介するしくみ。産休前にお客さまがご来店した際にそのスタイリストに来てもらい、顔を合わせてもらった上で引き継いでいる。
メリットは?
一方的にサロンの都合で引き継ぎを行うのではなく、お客さまのことを第一に考えて生まれた制度。その店舗に限らずグループ店舗も含めて多数のスタイリストの中から選ぶことで、よりお客さまに合う人を探すことができる。産休に入るスタイリストにとっては、引き継ぎをきちんとすることでお客さまのケアができ、安心して産休に入れるというメリットも。
4取り組み
ハードな職場で働く女性の体調をケア。
どんな取り組み?
年に一回、健康診断を行っているものの、体調管理は勤務体制がハードな美容業界にとって大きな課題。特に女性は婦人科系の問題も大きく、寝不足が続いたり、不規則な食事が続いたりすると、不調になるケースも。そのような体調不良をケアするために、様々な取り組みを企画し、今後実施していく予定だ。
具体的には?
今、計画しているのは、原宿や青山など、ハードな環境の中で働いている女性が「体調管理のためになにをすべきか」ということを専門家の方に話してもらう勉強会。例えば実際に働いているスタッフの検査結果を例に、「こういう生活をしている人はこんな栄養素が足りないから、これとこれを一緒に買って食べなさい」など、食生活や生活習慣の現実的なアドバイスをしてもらう。長年、ハードな美容の現場でスタッフを見守っている加藤さん。「どうやってケアしていこうか」と考え、様々な角度から施策を検討している。
サロンオーナーインタビュー
- Q. 制度を作る上での課題は?
-
A. 時短は今までにない働き方。周囲の理解を得るには、トップの意志を全体に伝えることが必要だった。
美容師は自分の勉強のために朝早く来たり、自分の時間を削って下の子を教えたり、会社のためにがんばって、実力で這い上がって来る世界。その中で、時間が限定される働き方をしている人が今までサロンにいなかったので、周りから見るとどうしても、「なんであの人だけ」というような空気になってしまう。それが今までの美容業界のムードであり、結婚を機に退職していく人が多い理由のひとつでもあったと思います。
それを踏まえて、「結婚しても働き続けられる環境を作るんだ」というトップの意志を全体に伝えていかないと、理解を得るのが難しいと感じたので、会議の場などで積極的に伝えるようにしました。
うちは「人がやめたくない会社」というのをスローガンの1つに掲げています。だから、スタイリストの青木が結婚・出産しても働きたいというのを自分の意志で伝えてくれたことが、非常にうれしいことでもありました。青木が新しい働き方を選び、時間は短くても一生懸命お店のために、スタッフのために働いている姿を見せてくれたことで、「結婚しても働ける」ということが皆に見えて、今、2番目、3番目につながっています。
- Q. サロンが働き方を変える必要性は?
-
A. 「人がやめない仕組み」を作っていかなければ美容室の繁栄はない。受け入れる覚悟が必要。
経営者目線で見れば、少子化で美容師もどんどん減っている中で、女性が結婚を機に辞めていってしまうような会社はすぐに淘汰されてしまいます。これからはいろんな働き方が美容業界でも必要となってくるし、サロン側もそれを受け入れる覚悟を持ってやっていかないと、今後の美容室経営は難しくなっていくと思います。
原宿・青山など中央は特殊で、まだ以前と変わってない所の方が多いですが、でも徐々に変わってきてはいます。美容学校が定員割れをし、サロンの数に対して新人がとても足りない時代。これをみんなで取り合っているわけですから、やめない仕組みづくりはブランドやデザイン力で人が集まる中央のサロンより、地方の方が先に取り組みをはじめていて、今、美容業界誌でもクローズアップされています。
価値観が変わってきた中で、中央でも今までと同じ厳しさや労働環境ではほんの一握りの人しか残らなくなっている。業界全体が変わらざるをえない状況にきていると思います。
Salon Data
Ramie【ラミエ】(GARDENグループ)
- アクセス
- 東京メトロ銀座駅から徒歩3分
- 創業年
- 2013年 ※Ramie
- 店舗数
- 9店舗(GARDENグループ)
- 設備
- 23席
- スタッフ数
- 25名(うちスタイリスト9名、アシスタント14名、レセプション2名) ※Ramie