サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.49
実例編ママ美容師が訪問美容で独立した理由は?
島沢佑理さん
- 訪問美容開始:
- 2021年
- 訪問個人顧客数:
- 約30名
- 個人顧客訪問頻度:
- 2カ月に1回
- 価格:
- カット4,000円〜、パーマ1万円〜、カラー9,000円〜
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Q
島沢さんの現在の働き方に至るまでの道のりは?
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A
ふたりの子どもの出産をきっかけに、考え方が変わってきました。
サロンに来られないお客さまへの対応を調べるうちに、訪問美容を知りました。
新卒で入社したサロンに勤務していた7年目のころ、長男の妊娠をきっかけに一度退職しました。出産を経て、美容師を続けるかどうかも考えたなかで、1年後に元のサロンに復帰しました。でもパートのアシスタントとしての復帰でした。そのサロンは規模が大きく、カット以外はアシスタントが担当する分業体制の店舗。でも、私はスタイリストとしてひとりのお客さまのすべてを担当したいと思っていたので、復帰後ほどなく、今も業務委託でお世話になっている西宮のサロン「Tete」に転職しました。「Tete」で勤務して2年ほどたったころに、高齢や乳幼児の子育てなどの事情で、サロンに来られなくなるお客さまがでてきたのです。そうしたお客さまと関わりつづける方法を調べたときに、訪問美容を知りました。
ふたり目出産とコロナ禍を機に、独立して訪問美容を始める決意をしました。
訪問美容の技術を学べる講習があることを知り、「Tete」のオーナーの小豆澤康生さんに相談したら、「好きにやっていい」と言ってくださいました。2日間のコースで訪問美容の知識と技術の基本について学べる福祉美・理容師の基礎講座を受けました。介護の知識もあった方がよいかと思い、介護職員初任者研修の資格も取りました。でもそのころはまだ、「いつか訪問美容ができたらいいな」と考えていた程度でした。その後、2020年に第2子の妊娠・出産で産休に入りました。当初は産休・育休後に「Tete」に復帰するつもりだったのですが、休んでいる間にコロナ禍がきたのです。西宮にあるサロンと大阪の自宅が離れていたため、長時間電車に乗って通勤することに不安を感じて、働き方を考えるきっかけになりました。そのときに、「訪問美容なら子育てしながらでも、自分のペースでできるかもしれない」と考えたのです。
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Q
サロンではなく個人で訪問美容をやろうと思った理由は?
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A
自分のやり方でやってみたいと考えたからです。
今は子育てに軸足がある時期。
オーナーは訪問美容について「サロンの取り組みとして、好きなようにやっていい」とおっしゃってくださっていました。それでも自分でやってみようと思ったのは、子どもたちが小さいうちは、子育てに軸足をもちたかったからです。フルタイム勤務はまだ難しいので、時間に融通をつけながら、サロンにもご迷惑がかからないような働き方を選びました。また、私は「やろう!」と思ったら自分のやり方ですぐやりたくなるタイプ。道具を揃えるにしても、サロンの取り組みになると一旦相談して決めなければなりませんが、個人なら自分の好きなように揃えられます。一方で初期費用はすべて自己負担になりますが、独立してサロンを構えることと比べれば、固定費などはかからずに済むと考えました。
初期費用は自動車代も含めて200万円以上かかりました。
自分でやると決めたら、訪問美容をやっているスタイリストさんのブログを参考に、必要な道具をすべて揃えました。シャンプーや薬剤、ロットなどはサロンと同じものを購入し、他にも移動式のシャンプー台や、お部屋に敷く使い捨てのシート、掃除道具、道具一式を運ぶ台車などを購入。また、車がなかったので、ワゴンタイプの軽自動車も買い、宣伝用のホームページを作るためにパソコンも買いました。車の次に高額だったのはシャンプー台。私は重量のあるしっかりしたタイプを選んだので、新品で11万円くらいでした。全部で200万円以上かかった資金は、独身時代からの自分の貯金をあてました。個人宅中心の訪問なので、軽自動車にしてよかったです。訪問先によっては道幅や駐車スペースが狭いことがあるので、小回りの利くタイプがおすすめです。
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Q
訪問美容の顧客はどのように獲得していますか?
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A
紹介中心で現在は個人宅のみです。
いまは子育て中心のため、積極的な営業はしていません。
実は現在まで営業らしい活動は特にしていません。もともとサロンのお客さまだったり、スタイリスト仲間や友人・知人からの紹介中心です。個人宅のみで約30名のお客さま宅を訪問しています。今は子育て中心の生活なので、顧客数を一気に増やしたいわけではありません。子どもが急に熱を出すこともよくあるため、施設と契約してしまうと、キャンセルによって一度に複数のお客さまにご迷惑をかける怖れもあるからです。
紹介以外では、ホームページとInstagramを作成して、情報を発信しています。
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Q
実際に個人で訪問美容を始めてみて、いかがですか?
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A
自分の都合で予定が立てられて、子育てとの両立がしやすいです。
高齢者の方の施術にはサロン以上に気を使うようにしています。
訪問美容をやってみて大変だと感じるのは、高齢者のお客さまに体調の急変があった場合です。ご家族がいらっしゃるケースがほとんどで、私自身にも介護の知識があるので大事に至ることはありませんが、やはりサロンに比べて気を使うことは多いですね。また、施術するスペースがサロンのように広くはないので、立ち位置や体勢に苦労したり、明るさが足りずに見えにくい場合もあります。切り残しなどがないように、サロン以上に丁寧に全体をよく確認するようにしています。個人で行うデメリットとしては、やはり子どもの体調不良によるスケジュール調整です。サロンの場合は他のスタッフに代わってもらうなど相談できますが、個人の場合はお客さまに予約の変更をお願いすることになるのが心苦しいですね。
子育てを中心に、訪問美容以外に、サロンと介護施設での仕事もしています。
やってよかったと感じるのは、お客さまに喜んでいただけることと、やはり自分の都合で予定を立てられることです。サロン勤務の場合は出勤時間が決められていますが、訪問美容の場合は予約を自分で調整できます。お客さま宅までの往復の移動時間はかかりますが、直行直帰できるので、施術が終われば自宅に帰れます。
わが家は夫が飲食店勤務で帰宅が深夜になるので、朝の保育園への送りは夫が、お迎えは私が担当しています。なので、子育て中心の生活が無理なくできるのがメリットです。
「Tete」勤務時代から継続して指名してくださるお客さまもいるので、2カ月に1回くらいのペースで、業務委託でサロンにも立っています。また、週に3日ほど、介護職としてリハビリのデイサービスのパートもしています。私は何もしない日があるより忙しくしている方が性に合っているみたいです。資格は取りっぱなしだと勉強したことを忘れてしまうので、介護職員初任者研修の資格を取った直後から週1回くらいデイサービスの仕事もしていたんです。介護の資格はなくても訪問美容はできますが、高齢者の方と関わったり、いずれ自分の両親が高齢になったときなど、普段の生活に役立つと考えています。
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Q
今後は訪問美容をどのように発展させたいですか?
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A
訪問美容を必要としているあらゆる方のもとに伺いたいです。
年齢を問わず、外出が困難な方は大勢います。
現在のお客さまは高齢の方だけでなく、乳幼児の子育て中で外出が困難なママさんも多いです。私自身、出産後にサロンになかなか行けなかったことも、訪問美容を始めたきっかけのひとつ。さまざまな理由で外出ができない方々のもとへ伺うことができたらと思っています。特に最近感じるのは、若い方でも体の障害だけでなく、心の病気で外出が困難な方が多いこと。外出できないことで、髪のお手入れができず、ますます病院などに出かけることができなくなってしまう場合もあると思うのです。訪問美容の対象となるかどうかは自治体によって異なるかと思いますが、そうした方もきれいにしてさしあげることで、力になれたらいいですね。また、「訪問美容を利用してみたいけれど、家が散らかっているから…」とお考えの方もいます。介護や子育て中のお宅はお手入れが行き届かなくて当たり前ですから、気にせずお声掛けいただきたいです。将来、子育ての手が離れたら、訪問美容中心に活動していきたいです。個人宅だけでなく施設へも訪問先を広げていきたいと考えています。
島沢さんからひとこと
訪問美容はサロンのお客さま以上に、施術後に喜んでいただけるやりがいのある仕事です。お客さまのもとを訪れるたびに、毎回「やってよかった!」と思えます。思い立ったときが始めどきだと思います。「やってみたい」と思っているのであれば、サロンのオーナーに相談したり、技術を学べる講習を調べて参加してみたり、できることから踏み出してみると、次の一歩が見えてくるかもしれません。がんばってください!
Salon Data