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訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.56
実例編介護施設60件、個人宅600名。成長の秘訣は?
訪問美容Regalo
- 全スタッフ10名
- 代表取締役:
- 近江谷広樹さん
- 訪問美容開始:
- 2013年
- 訪問施設数:
- 60施設
- 施設訪問頻度:
- 1カ月に1〜3回(1回の訪問で2〜60名)
- 訪問個人顧客数:
- 約600名
- 個人顧客訪問頻度:
- 1〜3カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 10名(正社員4名、パート5名、業務委託1名)
- 価格:
- 個人 カット3,850円〜、カラー9,350円〜、パーマ1万450円〜 (※出張費は別途1,000円)
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Q
訪問美容を始めようと思ったきっかけは?
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A
2011年に3つの出来事がかさなったことでした。
寝たきりの祖母、東日本大震災、重度障がい者施設での経験が重なりました。
かっこいい仕事がしたいと思って美容師になったので、当初は自分が訪問美容の道に進むとは考えていませんでした。それがたまたまですが、2011年に3つの出来事が重なって起きたのです。1つは、自分の祖母が寝たきりになったこと。お見舞いに行ったら、本人の好みとは違う短髪にされていたのが可哀相で。寝たきりの方のカットは初めてでしたが、おしゃれに見えるようにしてあげたら、涙を流して喜んでくれたのです。2つ目が東日本大震災です。震災ボランティアでカットしたら、皆さんに喜んでもらえて、大変な状況でもキレイになると元気になる、美容の力を感じました。3つ目は、社会福祉施設を経営している友人から、重度障がいの方のカットを頼まれたことでした。じっとすることができないため、サロンに連れて行けないことをご家族が悩んでいると。そこで毎月ボランティアでカットをしていたら、ご家族から感謝のお手紙をいただいたのです。サロンに行って素敵なスタイルにするという、当たり前のことが今までできなかったけれど、私が施設に訪問することでそれがかなえられたことを喜んでいただけました。
その3つが重なって、困っている人がたくさんいることを知ったのです。美容師としての自分のあり方を振り返り、訪問美容を志そうと決意しました。
介護の資格を取り、技術はセミナーで学びました。
訪問美容で独立しようと決意したことを、当時勤務していたサロンに伝えました。引き継ぎに1〜2年かかりそうだったので、その間にまずヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)の資格を取りました。また、訪問美容を志す美容師向けのセミナーに参加して、寝たきりのカットなどの技術を学びました。寝たきりの方のベッドカットは、ボランティアで重度障がい者施設に通っていた経験も役に立ちましたね。セミナーでは、訪問美容に必要な移動式シャンプー台などの道具の情報を得ることもできました。
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Q
訪問美容の営業はどのように進めたのですか?
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A
飛び込みで介護施設やケアマネさんを訪ねながら、契約後は紹介で順調に増えていきました。
介護施設やケアマネさんの事務所にヒアリングに行きました。
営業は、千葉市内の介護施設やケアマネジャーさんの事務所に、飛び込みでヒアリングを兼ねて行きました。介護を受けている方や職員の方、ご家族が、ヘアについて何に困っているのかを知りたかったのです。すると、すでに訪問美容事業者が入っている施設でも、髪が洗えないとか、カラーやパーマができないなど、「そんな当たり前のことができてないのか」と思うことが多々ありました。私は初めからサロンクオリティでやるつもりで、価格もカットを5,000円〜と考えていました。しかし、施設の担当者から「今の訪問美容事業者は1,500円でやっている」と言われることも。価格で勝負したくなかったので、個人宅のお客さまを中心に展開することにしました。ヒアリングでも、施設よりも個人宅のご家族に困りごとが多かったのです。介護度や障がいが重度だと、訪問美容事業者の方から断られることがあるからでした。
お客さまの喜ぶ声からの紹介で、在宅は順調に増えていきました。
ひとりで独立して訪問美容をスタートした頃はまだそれだけでは生活できなかったので、元のサロンで業務委託として勤務させてもらっていました。半年後くらいに、個人宅のお客さまが80名ほどになり、施設の契約も取れ始め、ようやく「訪問美容だけで食べられるかな」と思えるようになってきました。個人宅のお客さまが順調に増えていったのは、施術後のキレイになったお写真を撮って、お客さまからケアマネさんたちに見せてもらっていたことが大きかったと思います。お客さまたちが喜んでいる声を聴いて、またケアマネさんから紹介が増えていきました。
介護施設は体験会で試してもらい、クオリティで勝負しています。
介護施設への営業は価格で断られないように工夫しました。技術には自信があったので、「一度体験で試させてください」とお願いすると次につながることが多かったです。訪問美容に対する施設の困りごととして、メニューが少ないことがありました。例えばカットのみだったり、それも椅子に座ったカットだけでベッドカットは別料金にしている事業者もあるのです。我々はベッドカットは当たり前だと思っているので、別料金にはせず、カットだけでなくサロンと同じカラーやパーマなどのメニューに対応できます。他の同業者が入っていても、もう一社増やしていただくことで、利用者さまが価格帯や仕上がりの違いなどの選択肢を持てるようになると提案していきました。
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Q
スタッフを9名雇うことになった経緯は?
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A
独立当初から組織として大きくしたいと思っていました。
サロンでは働けないママスタイリストの活躍の場にしたい。
訪問美容を始めて1年ほど経ったときに、ひとりでは限界が来たためスタッフを雇うことにしました。もともと独立したときから、組織として大きくしたいという思いがありました。「サロンに行けない人々をおしゃれなヘアスタイルにしてあげたい」という仲間を増やしたかったからです。また、出産などで美容師を辞めざるを得なかった女性スタイリストの雇用の受け皿になりたい思いもありました。現在は私を含めて10名でやっていますが、まだ増やしていきたいです。
スタッフの教育にも力を入れ、毎朝オンライン朝礼を行っています。
スタッフの教育はマニュアルを作成し、講習会を定期的に行っています。新しく入ったスタッフには、最初の1カ月ははさみを持たさず訪問先に同行して見学してもらい、お客様への接し方やサロンとの違いなど、訪問美容で大切なことを感じ取ってもらっています。また、スタッフは直行直帰が多いため、精神的なケアのためにも毎朝オンラインで朝礼をしています。前日の訪問での気づきや、ケアマネさんの反応などを報告し合って情報共有しています。
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Q
経営者としての今後の展望は?
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A
要介護の方だけでなく、ご家族もケアしていきたいです。
訪問美容とは別に、ヘッドスパサロンを開店しました。
訪問美容は軌道に乗っていますが、これからますます必要とされる仕事です。それだけでなく、個人宅を訪問するスタッフたちが、ご家族さまから介護で睡眠不足になったり疲労しているというお悩みを聞くことが多いのです。ご家族さまを癒やし、ケアしてさしあげたい気持ちから、2023年の12月に「ヘッドミントVIP稲毛店」を開店しました。ヘッドスパのフランチャイズ店に加盟した形です。一般のお客さまはもちろん、普段介護でお疲れの方々に来ていただけたらと思っています。今後は訪問美容のメニューにもヘッドスパを入れたいと考えています。
地域で一番愛される訪問美容会社に。
訪問美容をやってよかったのは、新しい世界が広がったことです。勉強や情報収集のための講習会や異業種交流会で、介護施設に訪問する美容以外の業種の方々や医療・介護関係者の方々とお目にかかることが多々あります。自分も学ばせていただきながら、つながった方々が訪問美容の必要性を施設に語ってくださることもあるのです。サロンワークだけしていたら、こうした世界は得られなかったと思います。また、訪問美容を始めたばかりのころ、個人宅のあるお客さまに対しミスをしてしまい、「もう来なくていい」ととても怒られたことがありました。お詫びの手紙を何度も出したところ、「そんなことしてくれる人いないよ」と私の気持ちを理解いただけて何度もご利用くださるようになったのですが、私が施術した翌日にその方が亡くなったのです。「近江谷さんに最後にかっこよくしてもらったことを父はとても喜んでいた」と、ご家族が葬儀に呼んでくださり、火葬される直前にお目にかかることができたのです。哀しかったですが、人生最後のカットを喜んでいただける、この仕事の必要性を痛感した出来事でした。それ以来、どんなに重度の方のところでも駆けつける、皆さまのライフパートナーとして「千葉県で一番愛される訪問美容会社」を目指しています。
近江谷さんからひとこと
訪問美容に行くと「こんなに喜んでいただけるんだ!」という体験を味わうことができます。この成功体験が一度でもあると、次の一歩が踏み出しやすくなると思います。なので、近くに訪問美容をやっている人がいれば同行させてもらってはいかがでしょうか。我々のところに体験しにきていただいてもかまいません。隠さず全部見せますので、志のある方はお声掛けください!
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