Vol.1/美容業界の常識は社会のヒジョーシキ!?
- サロンの労務知識
美容の未来のために、学びと調査・研究を
サロンオーナー必見!
須多井 リスオ(スタイ リスオ)
小尾奈 サロヒコ(オオナ サロヒコ)
赤出 ミーコ(アカデ ミーコ)
秋田センセイ
ビューティー
産前産後休業や育児休業からスタッフが復帰する場合、原則として職務や雇用形態、労働時間、賃金などは、休業に入る前の原職に復帰させることを法で促しているように思われます。ただし、原職以外に復帰させたとしても本人が同意し、一般的労働者が同意する合理的理由が客観的に存在すれば不利益な取り扱いにはなりません。注意する点としては、サロン側から変更を強要してはいけないということです。
出産後の生活のイメージは、子どもを産んだ後でないとなかなかできないものです。出産前は以前と同じように働くことを本人が希望していても、いざ子育てが始まると思うようにいかないのはよくあることです。また、保育園に入園できずに復帰時期が延びることも珍しくありません。
オーナーの準備としては、まず、復職するスタッフの働き方に関する規定を整備しておきます。次に、出産したスタッフの復帰のメドがついた頃に話し合いをして、本人の希望を聞きます。そして、希望を反映した復帰後の条件を提示し、本人の合意を得られたら復職後の「雇用形態」「労働時間」「賃金」などを書面にしましょう。しっかりと手順を踏むことで、無用なトラブルが回避できます。
休んでいたスタッフの復職時は、本人のフォローとともに、その間サロンを守ってきた他のスタッフのフォローも大切です。もともと仲間だったスタッフの復帰とはいえ、ママとなったスタッフが以前と全く同じように働けるとは限りません。子どもの発熱によって早退を余儀なくされることは最もよくあることです。そうした起こりえる事態などを周囲のスタッフにもあらかじめ説明するなど、お互いに気持ちよく働ける雰囲気づくりをオーナーが率先して心がけたいものです。
産休や育休から復職したスタッフや、3歳未満の子どもを育てているスタッフについては、育児・介護休業法で短時間勤務制度が義務付けられています。短時間勤務制度は実は法的な解釈が非常に難しい制度です。ひとつの考え方としてご説明すると、利用するスタッフの1日の所定労働時間は、原則として6時間とします。また就業規則にも「1日の所定労働時間は、原則として6時間とする」と規定します。就業規則でそのように明記しておけば、本人から6時間以外で働きたいと希望があった場合、6時間以外の労働時間を予め就業規則で設定することも可能です。実際の運用が難しいと思ったら、社会保険労務士に相談することが無難です。
また、法律上では子どもが3歳未満の場合となっていますが、サロンとスタッフの話し合いによって、3歳を超えて短時間勤務をすることも可能です。
短時間勤務であっても雇用形態はもとのままです。短時間勤務になるからといって本人の希望がないのに正社員をパートに替えてはいけません。
また、本人の合意のもとで決められた時間以上に勤務した日は、超えた分の残業代を支払わなくてはいけません。
パートでも法律により、日々雇用される者や1週間の所定労働時間が1日6時間以下の者は除外されます。つまり、短時間勤務制度の対象者にはなりませんので注意してください。
また、労働者の過半数を代表する者との書面による労使協定がある場合には、次の者も短時間勤務制度の対象者から除かれます。
・当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
・業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する従業員
ポイント2の「短時間勤務」以外にも、子育て中のスタッフは育児・介護休業法により、さまざまな制度で守られています。その例をご紹介します。以下の例はいずれも、女性だけでなく男性スタッフにも適用されます。
●所定労働時間の制限
事業主は、3歳未満の子どもを養育するスタッフから請求があった場合は、所定外労働をさせてはいけません。
●子の看護休暇
小学校入学前の子どもを養育するスタッフは、会社に申し出ることにより、年次有給休暇とは別に1年につき子どもが1人なら5日まで、子が2人以上なら10日まで、病気やけがをした子どもの看護、予防接種及び健康診断のために休暇を取得することができます。また申し出があれば始業時刻から連続⼜は終業時刻まで連続しての時間単位での取得が可能になりました。有給にするか無給にするかは各サロンの規定によります。
●時間外労働、深夜業の制限
小学校入学前の子どもを養育するスタッフから請求があった場合は、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、1カ月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。
また、スタッフから請求があった場合は、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させてはいけません。
上記の制度はいずれも「子育てをするスタッフから請求または申し出があった場合」などとなっていますので、スタッフから請求または申し出がない場合は、他のスタッフと同様に勤務することができます。ただし、労働基準法で決められた労働時間内であることが大前提です。
次号では、介護などの事情を抱えるスタッフの働き方についてお伝えします。
監修
特定社会保険労務士
秋田繁樹さん
プロフィール:
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研代表。東京都社会保険労務士会所属。国内大手生命保険会社、大手企業のシステムインテグレーターなどを経て、独立開業。人事労務のスペシャリストとして、多店舗展開の美容室の労務管理や就業規則・社内規定などにも詳しく、多数の美容室の指導相談に当たっている。http://www.akita-sr.com/
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