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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.61

実例編134店舗の大手サロンで取り組む訪問美容とは?

神奈川、東京を中心に134店舗のサロンを展開するケンジグループ。約1,300名のスタッフを抱える同社は、2019年からグループとしての訪問美容をスタートしました。大手グループが訪問美容を進めるうえでのメリットや大変なこと、現場での工夫について、本部の担当者である事業企画課の松見朋親さんと、サロンワークと並行して訪問美容を行うスタイリストの蓮沼今日子さん(「Be2 by KENJÉ」所属)にお話を伺いました。

KENJÉ GROUP

  • 全スタッフ約1300名
  • 134店舗
スタイリスト:
蓮沼今日子さん
訪問美容開始:
2019年
訪問施設数:
40施設(グループ全体)
施設訪問頻度:
1〜2カ月に1回(1回の訪問で5〜25名)
訪問個人顧客数:
直近1年間で約30名(グループ全体)
個人顧客訪問頻度:
顧客により異なる
訪問スタッフ:
約30名(グループ全体)
価格:
施設:カット2,750円、パーマ4,400円、カラー4,400円 在宅:カット6,600円、パーマ8,800円、カラー8,800円

Q

グループとして訪問美容を始めたきっかけは?

A

多様化するスタッフの働き方改革のためです。

大手グループならではの多様なスタッフの働き方を考えました。

松見さん: ケンジグループは神奈川を中心に134店舗のサロンをもつフランチャイズグループです。総勢1,300名を超える、幅広い年齢層のスタッフが在籍しています。スタッフによって最適な働き方は異なるため、個々のスタッフの技術力を活かす場を今まで以上に広げていきたいと考えたひとつが、訪問美容でした。また、グループとして技術力やサービスなどは高い評価をいただき、ケンジグループとしてのブランドに地域から信頼をいただいています。地域の方々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上に少しでも貢献したいという思いもあります。以前から、高齢やケガなどが理由でサロンに来られなくなったお客さまから要望があった場合に、ご自宅まで伺い訪問美容を行っている店舗もありました。グループの取り組みとしては2019年にスタートしています。

本部で情報収集しながら、参入意向のあるサロンを募集。

松見さん: グループとして始めるにしても最初は何もわからず手探り状態でした。本部で事業企画を担う我々が、まずホットペッパービューティーアカデミーが開催する「訪問美容セミナー」に参加して基本的なことを学ぶなど、情報収集から始めました。訪問美容をするために美容師以外の資格は必要ありませんが、施術する側・される側双方の安心材料として福祉美容の民間資格も有効と考え、福祉美容を学べるスクールの情報も集めました。
グループでは定期的にオーナー会議を実施しているので、そこで訪問美容への参入意向を確認し「興味がある」と回答したオーナーさんたちに声がけしてスタッフを集めています。最初は本部近辺の藤沢にあるサロンのスタッフ2名からスタート。福祉美容の講習を受けてもらい、必要な道具は本部で用意して体制を整えていったのです。

  • 「表に出るのはあくまでスタイリストで」と後ろ姿での登場となった本部スタッフの松見さん

Q

訪問美容の運営はどのように行っているのですか?

A

営業は本部がすべて担当。売上は本人と本部で分配。

DMからの成約率は2%以下。それでもブランドの強みを伝え続けていく。

松見さん: 営業はすべて本部で行っています。インターネットで見つけた介護施設のまとめサイトを参考に、施設をリストアップしDMを郵送。届いたころに電話でアポ取りをして、アポを取れたら私が説明に伺っています。最初は200件くらいDMを送り、そのなかで電話でアポを取れたのが4%くらい。契約に結びつくのはさらにその半分あればいいほうで、その繰り返しです。ほとんどの施設がすでに訪問理美容業者と契約しているので、そこから変更してもらうためにいかに強みを伝えられるかがポイントとなります。我々の強みはケンジグループという54年間培ってきたブランド力と、技術力が高いスタッフの多さです。
蓮沼さん: 実際に介護施設に訪問に行くと、職員の方やご家族など、誰かしらケンジグループのサロンのお客さまが必ずいらっしゃるのです。「ケンジさんなら安心してお任せできる」と言っていただけるので、先輩たちが築いてきてくれた実績と信頼に感謝しています。

  • 「訪問美容がスムーズにできるグループ力に感謝」と語る蓮沼さん

DMを送っていた介護施設から半年後に連絡がくることも。

松見さん: 営業をかけてすぐに成約に結びつかなくても、半年くらいしてから、施設側が訪問業者を切り替えるタイミングのときに先方からご連絡をいただくこともあります。だからタネをまいておくことがとても大事ですね。最初の契約が取れたのは営業を始めてから3カ月目くらいだったと思います。ただその直後にコロナ禍が来たので思うように営業は進みませんでしたが、それでもコロナ禍中に13施設と契約できました。現在は40施設と契約いただいています。グループ全体で訪問美容を行っているスタッフは17名おり、やりたいと手を挙げてくれているけれど契約施設が近隣にないために待機してもらっているスタッフも約10名いるので、我々がもっと営業をがんばって契約数を増やしていきたいです。

  • サロンのブランド力をDMでも「ケンジ訪問美容」と全面で伝えている

訪問美容のみに使用する道具は本部負担。

松見さん: 訪問美容での本部とサロンの費用分担としては、訪問美容にのみ使用する掃除機やスーツケース、トリマーや、消耗品であるカラー剤・パーマ液は本部で負担し、サロンワークと共通で使用するはさみなどはサロン負担としてもらっています。最初に始めてもらったスタッフ2名分の福祉美容講習費は本部で負担しましたが、現在はサロンまたは本人負担でお願いしています。初期投資として本部でかかった費用は道具類で16万円、2名分の講習費11万円の合計27万円でした。
訪問美容の売上は担当スタッフ60%、本部40%で割り振っています。

  • 蓮沼さんはサロンで使っているパーマ液などを携帯用の瓶に小分けして介護施設に持参している

Q

蓮沼さんが訪問美容スタッフとして手を挙げた理由は?

A

もともと訪問美容がやりたくてスタイリストになりました。

祖母を担当していた訪問美容師にあこがれていました。

蓮沼さん: 認知症のため実家で在宅介護している祖母が訪問美容を利用していたのです。もともとおしゃれな祖母でしたがサロンに行けなくなってから気持ちが落ち込むこともあったのです。でも、訪問美容師さんが来てくれる日はおしゃれして待っていたり、カットしてもらうとすごく元気になっていたのです。それを目の当たりにして「美容の力ってすごい!素敵な仕事」とあこがれて美容師を目指しました。私が入社したときはまだグループとしての訪問美容はありませんでしたが、いつかは自分もやりたくて、比較的お客さまの年齢層が高いサロンへの配属を希望したのです。所属する「Be2 by KENJÉ」の上司が個人的に在宅のお客さまの訪問美容をしていたので、日頃からいろいろお話を伺っていて、グループで始まると知ったときにいち早く手を挙げました。

訪問美容を始めてからサロンのリピーターも増えた!

蓮沼さん: 私個人では現在、7施設と在宅のお客さまは12名担当しています。施設には基本はひとりで訪問しますが、人数が多いときは他のサロンのスタッフとふたりで行くこともあります。訪問美容は基本はサロンの定休日と自分の休日を利用しています。施設には直行直帰で行けるので丸一日つぶれるわけではないですし、自分のやりたいことなので負担に思ったことはないですね。
訪問美容を始めてから、サロンのお客さまが暑い日や荒天の日でも来店してくださることのありがたみを心から感じるようになりました。その感謝の気持ちがお客さまにも伝わったのかリピーターが増えていき、結果としてサロンの売上も上がったのです。訪問美容は予測不能なことしか起きません。意思疎通の難しい利用者さまとのやりとりを通じて何が起きても動揺しなくなったことで、接客力の向上につながったのかもしれません。

  • 蓮沼さんが訪問美容を志すきっかけとなった大好きな祖母と

  • 施設での施術でも笑顔で会話を絶やさない蓮沼さん

Q

訪問美容で工夫したり心がけていることは?

A

全方位に気づかいをすることです。

利用者さまとの会話がはずむように持ち物やファッションを工夫。

蓮沼さん: 介護施設では少しでも美容の時間を楽しんでいただくことを心がけています。そのため、自分のファッションや持ち物も意図的に目につくように工夫しています。例えば前髪は常にカラーをして季節によって変えたりすると「前髪が派手な美容師さん」と覚えてもらえます。スマホも派手にデコったり、タブレットのカバーをパスポート風にしたりしていると「おもしろいわね!」とお声がけいただいて会話のきっかけになるのです。施術中はタブレットで音楽をかけて、サロンのような雰囲気づくりもしています。タブレットは訪問美容ではとても重宝する道具です。サロンでは施術後に大鏡と手鏡を使ってバックスタイルの確認をしますが、施設にはサロンのように大鏡がありませんし、高齢者の方は振り向く姿勢が苦手なことが多いです。そこで、施術前と施術後のバックスタイルの写真をタブレットで撮影してご覧に入れるとわかりやすくて喜んでいただけます。

  • 瓶の形をしたステンレスボトル、パスポート風のタブレットカバー、スマホのデコレーションなどがすべて会話のネタに

  • タブレットでバックスタイルを撮影すると、大きな画面でビフォアー&アフターを確認できて好評

職員の方々との信頼関係が何より大事。

蓮沼さん: 利用者さまへの気づかいと同様に心がけているのが職員の方々とのコミュニケーションです。介護の現場をいちばん番知っていらっしゃいますし、施術がスムーズに行えるかどうかも職員の方々との信頼関係で変わってきますから、日頃から尊敬する気持ちをお伝えするようにしています。ある日、ひとりで25名の施術をすることになったのです。そのときに「午前中で絶対終わらせます!」と宣言しました。すると職員の方々も燃えてくれて、スムーズに連携できていつもより素早く進んだのです。おひとりにかけられる時間は10分程度でしたが、それでも「10分間を満足してもらう」と自分に課して、会話はいつも通りにするよう心がけました。時間通りに終わったときは思わず職員の方々とハイタッチしていました(笑)。訪問美容でコミュニケーション力と技術力も成長できていると感じています。

Q

グループとしての訪問美容の今後の展望は?

A

サービスやターゲットを拡充していきたいです。

グループとしての訪問美容スキルを底上げしていきたい。

松見さん: 蓮沼さんのように訪問美容に携わったスタッフにやりがいを感じてもらえて、サロンワークとの相乗効果があることを見ると、グループとして訪問美容をやって本当によかったと感じられます。蓮沼さんの姿を見て他のスタッフの意識改革にもつながっていると思います。しかしまだ課題は山積みです。訪問美容をやりたいスタッフ数と契約件数のバランスが合うよう、さらに営業を続けることも課題。また、訪問美容師の教育が今後のポイントです。グループとしての訪問美容のスキルを底上げしてくためにも、技術や情報の共有の方法をシステム化させていきたいと考えています。
蓮沼さん: 同じ施設にいつも私ひとりで行くとは限らないので、施設ごとの利用者さまの情報をスマホで作成し、利用者さまの特徴や気をつけるポイントをスタッフ間で共有しています。こうした情報のやり取りの有効性やスタッフ個人が蓄積したノウハウなどを、他の施設に通っているスタッフにも共有する場ができるといいですね。

  • スマホのメモ機能で利用者さまの情報を蓄積。スタッフ間で共有している

あくまでスタッフのためになる訪問美容に。

松見さん: 高齢化が進む日本では、訪問美容の需要は伸びる一方です。そのなかでヘアだけでなくネイルやスキンケアなども導入することで、お客さまのQOLの向上にいっそうつながると思いますので、今後はサービスの拡充もしていきたいです。また、高齢者の方だけでなく育児中でサロンに来られないお客さまなど潜在的な顧客層へのアプローチも進めていきたいです。ただし、私たちの訪問美容はあくまでスタッフファースト。無理強いするのではなく、訪問美容をやることでスタッフの生きがいやより良い働き方に結びつけるという基本理念はブレないように進めていきます。

松見さんと蓮沼さんからひとこと

松見さん: ケンジグループのなかには、若いお客さまはスタッフに任せ、オーナー自身が訪問美容を始めたところもあります。オーナーの年齢層のスタイリストには訪問美容はフィットすると思います。これからのサロンのあり方として、訪問美容をメニューに組み込むことは欠かせなくなってくるのではないでしょうか。
蓮沼さん: サロンのお客さまにも「訪問美容やっています」と言うと「じゃあ、将来私にもやってね」と未来契約をいただくことがあります。訪問美容をやっていると、サロンのお客さまと長いつながりをもつことができるようになると思います。

Salon Data

KENJÉ GROUP 【ケンジグループ】

創業年
1971年
店舗数
134店舗
スタッフ数
約1,300名
URL
https://kenje-group.co.jp
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