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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.6

実例編飛び込み営業で50以上の施設を担当。
腹をくくって展開する経営方針とは?

市川でアットホームなサロンを経営する宮本さん。全社員6名の会社ながら、サロンは店長に任せ、訪問美容は「美和(びわ)」という別ブランドで展開。自ら訪問美容専任スタッフとふたりで、なんと50〜60施設を手掛けているそう。ご本人自身は「当初は訪問美容の発想はなかった」と語ります。しかし、スタッフの夢を叶えたい想いと経営者としての責任で、これからも戦略的に広げていきたいという、経営のポイントをうかがいました。

allin(千葉県市川市)

  • 全スタッフ6名
  • 1店舗
オーナー:
宮本崇史さん
訪問美容開始:
2012年
訪問施設数:
約50〜60施設(1回の訪問で5~18名)
施設訪問頻度:
2カ月に1回
訪問スタッフ:
専任2名
価格:
カット1,500円〜2,000円

Q

訪問美容を始めたきっかけはどんなことでしたか?

A

一緒に独立したスタッフが「やりたい」と言ったからです。

不退転の気持ちで始めたんだね!

独立後に考えていた事業が飛んでしまって、「やるしかない」状況で始めたのが訪問美容でした。

勤めていたサロンから独立する際、当初考えていた事業の計画が頓挫してしまったのです。独立するときにふたりの仲間を誘っていたため、彼らのためにも「なんとかしなければ」と。それが現在一緒に訪問美容をやっている高山亮と、現「allin」の店長である江波戸隆夫です。お金もやることもなく、追い込まれていた状態ですね。そのときに高山が「訪問美容をやろう!」と言ったので、取り掛かりとしてサロンをオープンさせるための資金づくりで始めた感じです。江波戸はずっと「サロンをやりたい」という意志があったので、面貸しのサロンで業務委託として勉強してもらって。2012年1月にその活動をスタートさせ、3年後の2015年に「allin」をオープンさせることができました。その頃には訪問美容も今と同じくらいの50以上の施設と契約させていただいていたので、会社として大きな位置づけになっていたのです。だから「allin」は江波戸に任せ、私は高山と「美和(びわ)」というブランドで訪問美容専任として続けることになりました(美和のブログはこちら→http://ameblo.jp/biwabyinti/)。

  • 一緒に独立し、訪問美容を始めるきっかけとなった高山さん(右)と

1軒1軒足で稼いで、1年で30以上の施設からお仕事をいただきました。

訪問美容を始めるにあたり、まず役所にいって介護施設のリストをもらいました。そして1軒1軒直接訪ねて行く飛び込み営業を始めたのです。行ってみてわかったのですが、介護施設の職員の方は本当に忙殺されているので、電話や郵送での営業ではほとんど取り合ってもらえません。電話は利用者さまの介護の邪魔になるし、手紙はすぐ捨てられてしまう。だから顔を見せてまわることがとても大切なのです。
訪問のタイミングも重要で、施設側が「理美容業者を代えようかな」と考えているときでないと契約には結びつきません。けれどそのタイミングはこちらにはわからないので、1度断られてもあきらめずに、何度も同じ所に行きました。私はサロン勤務時代にも個人宅をまわってチラシを配ったので、飛び込み営業自体には抵抗はありませんでした。施設の職員の方々は基本的にやさしい方が多いので、顔を見せれば邪険にはされません。
私たちはサロンワークをしていなかったので、当初は時間をすべて営業に使えたこともよかったのだと思います。行ってみると当たりはよく、最初の1年で30以上の施設からお仕事をいただけることになりました。現在はふたりで50〜60の施設をまわっています。

  • イラストもすべてお手製の営業ツール。メニューだけでなく、自分たちの経歴や特徴も書かれた親しみのある内容で、毎年作り直しているそう

Q

50以上の施設を定期訪問しながら、マネジメントもするのは大変ではないですか?

A

正直大変ですが、まだまだできると思っています。

データを緻密に分析しているよ!

職員の方々との信頼関係が何より大事。

現在訪問している施設の約2割はご紹介です。紹介については当初は甘く考えていて、すぐに紹介で広げられると思っていたのです。けれど、私たちが訪問美容をしていると知った他業種の訪問業者から、「施設を紹介してほしい」と言われることがあり、考えが変わりました。紹介する立場になると、よほど信頼のある業者でないと自分たちのお客さまには紹介できないですよね。紹介した業者に万一のことがあったときに、私たちの信頼もなくなるからです。だから施設の人から他の施設のご紹介をいただくようになるまでに、信頼関係を築くことが大事でした。
施設の職員の方々とのコミュニケーションは何より大事です。施術も、利用者さんをカットする場に連れてきてもらったり、カラーやパーマの際にはシャンプーをしてもらったりと、職員の方とお互いの責任の範囲で分業して成り立つのです。日々「お互いに一生懸命やっている」という前提のもとで、協力しあって信頼関係は生まれると思います。
職員の方はお客さまを広げてくれる人でもあるので、「自分のサロンのスタッフと同じだ」と思って接するようにしています。気を使いつつ、こびは売らない関係が大事なのではないでしょうか。

効率よい訪問のために、データを集めて分析しています。

50〜60施設をほぼ2カ月に1度ずつ訪問していて、1回の施術人数は施設によって異なります。理想はふたりで1日に36名の施術をコンスタントに入れることです。ふたりで80施設くらいまでなら担当できると考えています。そのためには効率が大事なので、訪問先は事務所がある佐倉から車で1時間半以内としています。また、佐倉を中心に施設の位置をマッピングして、効率のよい予約の入れ方を検討しています。意外と大事なのはお昼の使い方で、午前の訪問先を12:00までに終えて、午後の訪問先を13:30スタートとすると、1時間半で移動と昼食をしなければなりません。
また、1回の人数が比較的少ない施設の場合、1年くらいかけて何曜日が施術人数が多いかデータを集めて、こちらから訪問曜日を提案しています。データ分析はとても重要。訪問するたびにその日に施術した人数や利用者さまのお名前などをパソコンに入力して、数字を見ながら気づいた点をメモして、どう改善したらいいか常に考えています。

定期訪問先は、年間予約でスケジュールを決める。

自分もプレイヤーとして日々訪問しながら、予約を管理し、データ分析するのは、正直本当に大変です。けれど、やっていくうちに道筋が見えてきます。予約の調整は最も大変なマネジメントのひとつですが、毎年11月に翌年の年間予約を受け付けて年末までに決めています。年末までに日にちが確定しない施設については、予約が決まった施設との位置関係を見て、日にちを提案してみます。あとは半年スパンで微調整したり、ご紹介があれば新規を入れる感じです。

  • 1回の施術人数や予約が多い曜日、施設間の距離など、数値化できることはデータ化して、訪問効率を分析している

Q

訪問美容で大変なことと、やりがいを感じることは?

A

訪問美容は課題満載ですべてが大変。でも課題を解決していくこと自体が、自分自身のやりがいです。

いつの間にかやりがいが芽生えたんだ

サロンワークとは何から何まで違うことが大変。

訪問美容は本当に大変なことだらけです。サロンのように待っていても誰も来てくれないので、営業が必要ですし、施設の職員の方々と信頼関係を築いていくのも時間がかかります。サロンはホームだけれど、施設はアウェイ。現在50以上の施設をまわっているとはいえ、数回行ってリピートがなかったところもあります。何か大きな失敗をしたというより、施設の方とフィーリングが合わなかったという感じですが、その感覚を大事にしないとまた次にリピートがもらえないかもしれない。
施術もサロンとは違い、お体が不自由な方の場合は施術時の体勢が自由ではなかったり、双方の椅子の高さが変えられないため、こちらが足腰を曲げた姿勢で行わなければならないこともよくあります。経験で慣れてはくるものの、毎回がケースバイケースなので、訪問美容はサロンワークとは全く違うのだと日々痛感しています。

  • 「訪問美容は大変」といいながら、経営者としてさまざまなやりがいを見出した宮本さん

  • 初めから訪問美容を希望していた高山さんには、ファンの利用者さまがつくほどの人気だそう

人生の先輩たちが「純粋に喜んでくれる」ことがやりがいにつながる。

私自身はそもそも訪問美容を志していたわけではありませんが、一緒にやっている高山は、もともとおばあちゃん子で年輩の方々が大好きでした。また、昔から「毎日違う場所に働きに行きたい」という志向があって、「訪問美容をやりたい」と言っていたのです。私は経営者として、「仲間がやりたいことを全力でサポートしたい」と思っていたので、それができることが自分自身のモチベーションや、やりがいにつながっています。そして、引っ張っていく立場として、私が仕事を楽しんでいなければなりません。美容に限らず「いろいろな課題を見つけて、それを解決する方法を考えて実行する」ことが好きなので、課題だらけの訪問美容が楽しいのかもしれません。
実際に訪問美容をやってみると、「本当に助かる!」とか、「本当にありがたい!」と利用者さまが喜んでくださいます。その喜び方が純粋で、サロンで働いていたときとは違った反応をいただけるのもモチベーションになっています。また、人生の大先輩である利用者さん世代にしか聞けないお話や、人としての対応、今までの生き方や今の生き方など、非常に貴重なお話がうかがえます。純粋に尊敬できる方々の施術ができることが、この仕事の喜びにつながっています。

  • 「美容師になってから施設カットの現状を知って、もっとかわいい年輩のスタイルを増やしたいと思った」と高山さん

Q

訪問美容について今後どんなビジョンをお持ちですか?

A

うちの取り組みを情報発信しながら、いろいろな人とつながって広げていきたいですね。

これからの人のことも考えているよ!

業界で一般的な「カット2,000円」は適正価格なのか考えています。

訪問美容は今後ももちろん広げていきたいです。今まで訪問美容のスタッフを募集したことはありませんが、将来的には新しいスタッフを入れて現場は高山に任せ、自分は経営に専念したいと思っています。そんな話を利用者さまにすると「イケメン雇ってね」とおっしゃるのです。訪問美容のお客さまは8割が女性で、若い男性スタイリストを好む方も少なくありません。敬語をいやがる利用者さんも多く、孫みたいな感覚なのかと思えば、「おばあちゃん」と呼ぶと「あんたのおばあちゃんじゃないよ」と叱られる。女性として扱われたいのだと思います。だからお名前できちんと呼んで礼儀をわきまえつつ、親しみを込めて接しています。目標は「訪問美容業界の毒蝮三太夫」です(笑)。
でも、パートではなく社員として男性を雇用するということは、うちとしてもそれなりの体制を取るということ。だから「イケメン雇ったら料金上げていい?」と冗談半分、真面目半分でお伝えしたりしています。
訪問美容で「カット2,000円」は一般的な料金ですが、正直、サロンワークに比べて安すぎる価格だと思っています。利用者さまの事情はありますが、経済的に恵まれている方もいらっしゃるので、一律価格でいいのかと。施設の方からも「君たちの仕事はもっとお金を取ってもいいはず」とおっしゃっていただくこともあります。今後は料金体系も考えていくべきかもしれません。

ホットペッパービューティーアカデミーのセミナーで可能性を感じました。

先日、ホットペッパービューティーアカデミー主催の訪問美容セミナーに参加させていただきました(セミナーの様子はこちら)。そのとき「訪問美容をやりたい人がこんなにいるんだ!」と知りました。「少し先に訪問美容を始めた自分が、これから訪問美容を目指す人たちに対してできることがきっとある」と思いました。一方で、日々訪問するなかで、施設側の人々の悩みも感じています。それらの課題をまた解決することが自分にできたら、現場の施術とは違った訪問美容への貢献ができるのではないかと。これからはもっと情報発信しながら、いろいろな人たちとつながりを持てたらいいと考えています。

  • 「訪問美容業界の毒蝮三太夫になる!」と笑いながら、訪問美容の発展に貢献したい熱い想いも語る宮本さん

宮本さんからひとこと

私たちは計画していた事業が飛んでしまい「すべて失ってしまった!あるのは技術だけ!」という切羽詰まった状態で始めました。だから大変なことが起きても「やるしかない」ことがモチベーションになりました。けれど、訪問美容の現場はサロンとは全く違うため、現場に出てから戸惑うことも多いかもしれません。「誰かの役に立ちたい」というモチベーションだけでは続けられないこともあるでしょう。訪問美容を志す人は、一度現場に足を運んで、五感で施設を体験してみることをおすすめします。それでもモチベーションが変わらなければ、一緒に訪問美容を広げていきましょう!

次号では、出張美容専用車を「第2のサロン」として導入し、訪問美容を展開するサロンをご紹介する予定です。

Salon Data

allin【アリン】

アクセス
本八幡駅から徒歩3分
創業年
2012年
店舗数
1店舗
設備
5席
スタッフ数
サロン4名、訪問美容専任2名
URL
http://beauty.hotpepper.jp/slnH000312158/
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