女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.72「愛と感謝」でスタッフと一生関わるのが信条。
ママも若手も活躍するトップサロンの経営とは?
La Bless
大阪府大阪市
梅田、心斎橋など大阪の中心に5店舗を展開し、アナウンサーやモデルの顧客も多い「La Bless」。メディアで話題の技術「カーブドカット」でも知られるサロンです。月に250〜300万円を売り上げるスタイリストが何人もいながら、スタッフ同士はいつも和気あいあいとして仲が良く、最近2年で新人の離職はほぼゼロ。ママスタッフも3名誕生し、子育てをしながら輝く姿に後輩女性も憧れを抱くという、まさに理想的な環境です。店名の由来である「愛と感謝」の理念に根ざした経営について、オーナーの木村博次さんに取材しました。
1取り組み
希望する全スタッフが相談の上、時短で勤務することができる。
どんな取り組み?
出産して復帰した子育てママだけに限らず、家庭の事情や健康面の不安で本人が希望する場合は、相談の上で誰でも時短社員として働くことができる。出勤日や勤務時間については特に決まり事を作らず、個別にケースバイケースで対応。現在はママスタッフ2名と、結婚した女性スタッフ1名のほかに、独身の女性店長1名も時短勤務をしている。もちろん状況が変われば、フルタイムの働き方に戻すこともする。
背景とメリットは?
「スタッフは基本的に生涯雇用」という理念を掲げる「La Bless」。「男性はもちろんのこと、女性スタッフに対しても何らかの形で一生関わっていく」とオーナーが宣言している。特に女性は結婚・出産だけでなく、ベテランになるにつれて体力の低下や体調の変化が大きく、波がある。「スタッフに疲弊のサインが見られたときは、会社から働き方を変えてみないかと勧めることもあります」(木村さん)
個人的な事情でも仕事をペースダウンすることができるという選択肢があれば、ママだけでなく誰もが安心して働くことができ、その結果、本人が望まない離職も防ぐことができる。また、結婚や出産を選ばないスタッフも、ママスタッフと同様に働き方が選べるので、不公平感が生まれない。
2取り組み
早くから稼げる技術指導と、会社からのビジョン提示で「若いスタッフがやめないサロン」に。
どんな取り組み?
オーナーの木村さんが開発した「カーブドカット」の技術を習得するカリキュラムにより、最短2年でデビューできるという早期育成を実現。結婚・出産前の早いうちに美容師として売上実績を上げられるように指導している。その一環として、新人研修に「ママさん座談会」を組み込み、過去2回開催。ママスタッフから産休前後の働き方の違いや、育児と仕事の両立について話を聞き、若いうちに実力をつけることの大切さを学んでいる。さらにそれぞれのスタッフに対して5年後、10年後にどんなビジョンがあり、どんな環境を用意できるかを、会社の方からスタッフに提示している。
取り組みの背景と、そのメリットは?
アシスタントから一人前になるまでの育成期間の長さは、美容業界長年の課題。特に女性の場合、スタイリストデビューから結婚・出産までの年数が短いことが多く、早くキャリアを積まないと美容師としての将来が厳しくなる。「La Bless」でも復帰後の時短勤務の給料は、産休前の実績がベースになるので、できるだけ若いうちに稼げるように育てることを重視している。その結果、20代で月200万〜300万円を売り上げる優秀なスタイリストも育っている。
また、スタッフに対して個別に会社から将来のビジョンを提案するのは「“La Bless”にいる方が成功できる、価値を高められると伝えたいから」(木村さん)。スタッフに仕事を続けてもらうには、個人と会社のビジョンが一致することが最も大事だと考えている。
こうした取り組みは、若手スタッフの離職の少なさに繋がっている。この2年で34名の新卒採用をしているが、退社は1名。離職率はほぼゼロに近い。
3取り組み
ママスタッフを大型店に集め、大人数によるサポート体制をつくる。
どんな取り組み?
現在、時短で働いている2名のママスタッフは、いずれも系列店の中で最も規模の大きい「cubic 天王寺駅前」に配属。また、今産休中のスタッフも同店に復帰する。今後、出産する女性スタッフについても、本人に特別な希望がなければ、同じ店舗に集めていく予定だ。
メリットは?
子育て中のママスタッフがいると、子どもの病気などによる急な欠勤も避けられない。その場合は他のスタッフでサポートするが、総勢24名の「cubic 天王寺駅前」であれば分母が大きいため、急にひとり欠勤したとしても他のスタッフで協力しあうことで負担は分散される。また、同じ店舗にママが複数いれば、普段から助け合ったり、心配事の相談もできるので、子育てをしながら働く不安も解消しやすい。
4取り組み
「La Bless学園」として、両親や仲間に感謝する企画多数。
互いに尊敬し合い、助け合う風土をつくる。
どんな取り組み?
会社では、サロンを「La Bless学園」と学校になぞらえた、さまざまな取り組みをしている。
たとえば入社式は、新入社員の親御さんに子どもへのはなむけの手紙を書いてもらい、一生の記念に残るようにその場で読み上げている。また「授業参観」として、スタッフの親御さんを特別料金でサロンに招待し、娘や息子の仕事ぶりを見て安心してもらい、より一層のサポートをお願いしている。
さらにスタッフが炊き出しをして「給食」を作るほか、社員旅行は「修学旅行」として、営業に支障がないよう全員を5組に分けて、毎年海外へ行く。行き先はバルセロナやゴールドコースト、バリ島、ラスベガスなどさまざま。美容師をしていてはなかなか行けない遠方まで足を延ばす。
なぜそうした?
サロン名の由来になっている「Love」(愛)と「Bless」(感謝)を、すべての取り組みに落とし込むことが、オーナーとしての木村さんの信条。スタッフに対してこの理念を何度も言葉にし、さまざまな活動で実践することで、「ラブレスイズム」を浸透させているという。
スタッフがいつもお客さまや仲間への愛と感謝を胸に、「美容師になって良かった」と幸せを感じて働いていれば、お互いの働き方を尊重し、サポートし合う気運が自然につくられる。今後、結婚や出産をする女性スタッフが増えていっても、多様なキャリアが受け入れられる風土があれば、サロンとして成長していけるはずだ。
オーナーインタビュー
- Q. 関西トップサロンの厳しいイメージがありましたが、温かな経営方針に驚きました。最初からこうした考え方をされていたのですか?
-
A. スタッフの離職や業績の伸び悩みを経験して変わりました。
まだ1店舗だった頃はこうした考えはなく、従業員満足について意識の低いオーナーでした。中途採用したスタッフが次々やめて、売上も頭を打ち壁に当たったころ、ある人に「美容師として生きるのか、経営者として生きるのか決めなさい」と言われたんです。それまでは自由が欲しくて独立しただけの、単なるわがまま美容師でしかなかった。でも、自分ではなくスタッフに目を向けないとサロンはうまくいきません。「スタッフを幸せにする経営者になろう」と決めたのが、変わったきっかけでしたね。
サロンのママ第1号が誕生したのは2年ほど前、月に250〜300万円を売り上げていたトップスタイリストでした。初めてだったので何人ものオーナーさんに話を聞き、会社としてどう支えるかをかなり考えました。今後もっとママが増えると思いますが、彼女たちには若い女性スタッフのロールモデルになって欲しいと期待しています。
- Q. 女性スタッフがさらに輝くサロンにするために、これから取り組んでいきたいことはありますか?
-
A. ママを積極的に幹部として登用できるしくみを作りたいです。
今のママスタッフはまだ子どもが小さいので少し先のことになりますが、将来はママさん幹部が欲しいです。キャリアと経験を活かして、若手を引っ張る人材になれるはず。店長や本部の役職付きはもちろんですが、時間的に制約があってもリーダーとして復帰できるポストを作りたいですね。たとえば「La Bless」として作品を作るときの撮影チームや、カラーリングチーム、HPの制作や美容師教育のリーダーも考えられます。
一定のキャリアコースはなくても、その人の能力に合わせて柔軟に選択肢を用意できるようにしたい。まだ青写真の段階ですが、3〜5年くらいの間には実現したいですね。
Salon Data