サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.9
実例編サロンの発展とスタッフの将来を見据えて、
訪問美容を始めたオーナーの想いとは?
Silky(東京都八王子市)
- 全スタッフ6名
- 1店舗
- オーナー:
- 佐藤陽介さん
- 訪問美容開始:
- 2015年
- 訪問施設数:
- 2施設(1回の訪問で15〜20名)
- 施設訪問頻度:
- 1カ月に1回
- 価格:
- カット1,700円〜、パーマ4,000円〜
-
Q
佐藤さんが個人的に訪問美容を始められたのはなぜですか?
-
A
サロンワークとどれくらい違うかを、まずは自分自身が体験しようと思いました。
経営者としてサロンの将来を考えて始めました。
日本が高齢化していることは間違いありません。長いお付き合いをいただいている常連のお客さまたちが、高齢になられてサロンに通えなくなったときのことを、オーナーとして今から考えておくべきだと思いました。ただ、今のスタッフたちは訪問美容を志してうちに入社したわけではなく、おしゃれなスタイリングをしたいメンバーたち。だから、無理に「一緒にやろう!」というのではなく、まずオーナーである私が勉強して実践すべきだと考えました。訪問美容がビジネスとして成り立って、私の姿を見て興味をもってくれるスタッフがいれば、そのとき一緒にやってくれればいいと思っています。
大手の訪問美容チェーンで研修を受け、委託として活動。
訪問理美容を専門で手掛けている会社で、訪問理美容師を養成する研修を受けに行きました。研修を受けてみて思ったのは、件数をこなさないとビジネスとして成立させるのはむずかしいということです。カットやカラーの技術もサロンとは異なり、スピードを求められます。対象が高齢者や障がい者の方々なので、時間をかけずにいかに整えるかが重要視されていました。
その会社で研修を受けると、委託で仕事を紹介してもらえます。現在はサロンから近距離にある有料老人ホームと、障がい者施設の2箇所の委託を受け、月に1回ずつ施術を行っています。いずれも、私と同様に委託を受けたスタイリストとチームを組んで訪問しています。有料老人ホームは4名のチームで、1度の訪問で約55名、障がい者施設は2名のチームで20〜30名を担当しています。
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Q
委託として活動していて、どんなことを感じられていますか?
-
A
自分のサロンで始めるなら、「サロンの美容を施設で受けられるサービス」を目指したいです。
勉強中なので不満はありませんが、課題は多々見えてきています。
サロンの売上は落とせないため、訪問美容は定休日にあくまで私個人の活動として行っています。また、現在は勉強と経験のためと思っているので、訪問美容での利益は考えていません。それでも、料金体系に疑問を感じることはあります。
例えば、私が所属するチェーン会社が施設から受け取るカット料金は1,700円〜ですが、施設によっては手数料が必要な場合もあります。施設側の手数料が施術料より高いケースも。そのため、同じスタッフが行っているのに、施設によって利用者さまの負担額が全く異なるのです。
また、介護施設でなく有料老人ホームの場合、お元気でおしゃれしたい利用者さまもたくさんいらっしゃいます。しかし、時間が限られているので、お互いに満足のいく施術とサービスをご提供できないケースも多々あります。浴室で行うため、サロンのようなシャンプー台がなく、前向きでシャンプーしなければいけないなど不便なこともあります。なるべくサロンで施術を受けている雰囲気を出すために、アロマをたいたり、音楽をかけるなど工夫はしています。でも、おしゃれをしたい方のニーズに近づけるには、課題がたくさんあると思います。
自分のサロンで始めるのはまだ時期尚早。
課題を見つけつつ、いろいろと勉強させてもらっているので、日々発見の毎日です。将来的に「Silky」で訪問美容を始めるとしたら、団塊の世代の方々が施設の中心になる頃と考えています。おしゃれに敏感で今もお元気でサロンに通ってくださっていて、求めていらっしゃるサービスも高い方々です。そのお客さまたちは施設に入ったからといって、10〜15分でカットを終えるサービスでは満足されないと思います。
現在訪問している施設の利用者さまでもサロンと同等の質を求められたり、毎月カラーをして我々の訪問を心待ちにしてくださる方も多いです。そうしたニーズにお応えできて、ビジネスとして成立する体制を整えられたときに、サロンの事業として始められればと考えるようになりました。
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Q
オーナーとして、訪問美容にどのような展望をお持ちですか?
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A
店舗を増やさずに会社を成長させるチャンスだと思います。
パートで働きたい女性活躍の場にもなり、サロンの新しい成長の一手になる。
今は美容師を志す若い人が減って、求人が非常に大変な時代です。その時代背景でサロンを大きくするために多店舗展開はむずかしいと考えています。店舗の数を増やさずに事業を大きくするひとつの手として、訪問美容に将来性を感じています。サロンワークのスタッフとは別に、訪問美容の予約が入ったときにだけ担当してもらう専任スタッフを雇う方法なら、それが可能ではないかと思います。子育てなどで休眠しているスタイリストが、時間限定で働けるいい機会になると思います。
また、現在サロンで活躍している女性スタッフにもママスタイリストがいます。彼女が時短の分はまわりがうまくフォローしてくれていますが、他の女性スタッフたちもいずれは子どもをもつかもしれません。そのときに、スタッフたちが働きやすい環境をつくるために、訪問美容を活躍の場のひとつとして、いろいろな美容の形を設けておくことも、経営者として必要だと考えています。
佐藤さんからひとこと
「訪問美容をやりたいな」と悩んでいるなら、まず行動してみることです。私も思いついてすぐにネットで探し、行動しました。やってみて初めて、何が必要か、課題は何かなどが見えてくるからです。若い美容師さんで訪問美容を目指す人も少なくないそうですが、若い方は最初はサロンワークと兼務をおすすめします。おしゃれを求められるサロンと、スピードを求められる訪問美容では求められる技術が全く異なります。早いうちに訪問専任になってしまうと、将来事情が変わってサロンに戻らなければならいときに、ついていけなくなる可能性があるからです。ただ、両方できることは美容師としての幅をひろげることに必ずなると思います!
次号では、介護の資格を取り、介護施設でバイトをしながら訪問美容に励むオーナーをご紹介する予定です。
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