女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.10621人中15人がママスタッフ。
採用に困らないサロンの秘密とは?
「LUACE 川口」
埼玉県・川口市
キッズスペースがある「LUACE 川口」。子連れのお客さまがひっきりなしに訪れ、子どもたちの笑い声にあふれたサロンです。2013年の創業時から「女性スタイリストがママになっても活躍できるサロン」をめざし、子どもがいるお客さまをメインターゲットとした人気店として成長しています。ここまで「ママ」にこだわったオーナーの鈴木僚さんにお話をうかがいました。
1取り組み
サロンのコンセプトが「ママのための美容室」。創業当初からキッズスペースを併設。
どんな取り組み?
「LUACE 川口」は働くスタッフもお客さまも「ママ」が中心。小さなお子さま連れのママが気軽に来られるように、オープン時から保育士常駐のキッズスペースを併設。保育園に入れていない子どもがいるスタッフも子連れで出勤できる。全スタッフ21人中、スタイリストが13人、保育士が8人。ママスタイリストは9人おり、そのなかでブランクを経て復帰したスタイリストも6人いる。
ママスタッフを中心にした理由は?
鈴木さんが独立を考えていた頃、アシスタント時代にお世話になった先輩女性スタイリストと再会。スタイリスト時代は売上で常にトップクラスだったその先輩は、結婚・出産を機に退職。しかし、再会したときに先輩がスーパーで働いていたことに鈴木さんは衝撃を受けた。
「くわしい事情は聞けませんでしたが、美容師資格をもってあんなに活躍していた女性が、子どもができたら辞めなきゃいけない美容業界ってなんだろうと疑問に思ったのです。そのとき、自分が独立するなら、ママになった女性たちが活躍できるサロンをコンセプトにすれば、逆に強みになると考えたのです」(鈴木さん)。
そこで、ママスタイリストの強みを活かすために、顧客ターゲットもママに絞り、キッズスペースのあるサロンをつくった。サロンの特徴を明確に打ち出すことで差別化することができたのだ。
また、新卒ではなく経験のあるママたちを採用することで、ブランクはあっても全員がほぼ即戦力。働きたかったママスタイリストのニーズを掘り起こすことで、求人すればすぐ応募がくる状態だという。
2取り組み
完全歩合制のため、スタッフが自分の都合に合わせて働くことができる。
どんな取り組み?
「LUACE 川口」の雇用形態は正社員またはパートで、完全歩合制だ。夫の扶養の範囲で働きたい人、正社員としてバリバリ働きたい人など、本人の希望で選べる。また、アシスタントはおらず、ひとりのスタイリストがひとりのお客さまをマンツーマンで担当。そのため、予約の時間を自分の都合で調整できるなど、自由度の高い働き方が可能。
「完全歩合制」と「マンツーマン担当」のメリットは?
ママスタッフ中心としたことで、一人ひとりの働ける時間や日数には制限が出てくる。そのため、1店舗で13人のスタイリストを抱えながら、本人たちが働きたい時間に予約が入るように調整。完全歩合制にすることで、サロンには売上と人件費が比例し、スタッフには働き方の自由がきく、という双方へのメリットがある。
一方、完全歩合制には一人ひとりの売上が安定しないデメリットもある。それを解消するために、鈴木さんがホットペッパービューティーのデータを見ながらターゲットに響くプランを設定するなど、攻めの集客を心がけているという。
また、お客さまをマンツーマンで担当することで、お客さまと接する時間が増え、信頼関係が高まって失客も防げる。「分業で1日に何人ものお客さまを担当する働き方よりも、より深い接客力が求められ、スタイリストとしてもステージが一段上がっているのです。ママ同士なので会話もはずみます。育児経験者ならではの魅力です」(鈴木さん)。
3取り組み
スタッフの働きやすさが第一。働きやすい環境づくりのためのきまりごとをつくった。
どんな取り組み?
「LUACE 川口」には4つの決まりごとがある。それは、「感謝の気持ちを忘れないこと」「お互いに協力すること」「謙虚でいること」「つねに笑顔でいること」だ。
背景とメリットは?
もともと鈴木さんはマニュアルなどで人の行動を縛ることが好きではなく、自由に働いてもらおうと思っていた。しかし、経験者採用で集まったスタッフたちは、美容師と保育士、バリバリ働きたい人と家庭を中心にしたい人など、それまで働いてきた環境や考え方が異なる人たちばかりだ。最初はそのことによる課題がさまざま出てきたそうだ。
「『小さいお子さまのいる女性に貢献する』『自分のペースで働ける』という根本理念はありつつも、何かネガティブなことが起きて余裕がなくなると、自分のことしか考えられなくなってしまいます。けれど、会社としては『まずスタッフの働きやすさ』を考えています。けれど、誰でもひとりでは何もできません。『みんなで協力して初めてみんなの夢に近づける』ことを意識してもらいたいと思いました。そこで、みんなが気持ちよく働けるための決まりごとをつくったのです」(鈴木さん)
一見、「気持ちの問題」のようなことだが、決まりごととして全員が常に意識することで、サロンの雰囲気がよくなり、みんなが働きやすくなったそうだ。
4取り組み
認可外保育施設もつくり、保育園待機のスタッフのニーズに応える
どんな取り組み?
サロンのキッズスペースとは別に、「LUACE」では認可外保育施設もつくった。保育園の待機のために復帰できない美容師たちが、心置きなく働けるようにするためだ。
なぜそうした?
「キッズスペースは従来からあり、保育士も常に2名ずついますが、保育園のようにお昼寝や食事をしたり、お散歩するまではできません。スタッフたちからのニーズもあり、もともと保育士を何人も雇用しているので、スタッフ専用の保育施設をつくろうと考えたのです」(鈴木さん)。
内閣府の企業主導型保育事業として申請し、今年から始動している。
オーナーインタビュー
- Q. パートタイムのママスタッフ中心で、利益を出すことに不安はありませんでしたか?
-
A. 利益から追わず、人に貢献することを先に考えれば、結果は後からついてきます。
経営で、先に目先の利益を考えてもいいことは何もないと思います。オーナーが自分の取り分を増やしても投資をしなければ資産は増えません。何に投資をするかというと「人材」だと思うのです。人に対して奉仕すれば、利益はあとからついてくると私は考えています。働きたい、活躍したいと考えている人を受け入れて、その人たちを活かす方法を考える。活躍する人とは、課題解決のための想像力をもった人です。そういう人を採用すれば、必ず利益を生み出してくれます。
- Q. けれど、ほぼ前例のないママ中心のサロンに踏み切るには勇気が必要だったのでは?
-
A. 前例がないからこそチャンスだと思いました。固定観念にとらわれない方がいいですね。
「スタイリストは常にサロンにいなければいけない」という固定観念をまず捨てました。「いつ出社して、いつ働いてもいいじゃないか」と。そのために完全歩合制にしたり、キッズスペースをつくったりしたのです。課題や失敗もありましたが、そこから学んだことの方が多いですね。
経営者はひとりで考えがちですが、すべてひとりで抱える必要はありません。私も何か起きたときは、社長の大野木に相談したり、スタッフたちの話もよく聴いています。また、同じ悩みをもつ経営者同士で共創していくことが理想だと思っています。業界としてもっと女性美容師の活躍の場を広げていきたいので、我々の事業形態に共感してくれるオーナーさんがいれば、事業提携するなど一緒にやっていけたらいいと考えています。
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