Vol.1/美容業界の常識は社会のヒジョーシキ!?
- サロンの労務知識
美容の未来のために、学びと調査・研究を
サロンオーナー必見!
須多井 リスオ(スタイ リスオ)
小尾奈 サロヒコ(オオナ サロヒコ)
赤出 ミーコ(アカデ ミーコ)
秋田センセイ
ビューティー
Vol.9でお伝えしたように、人を雇った場合は「法定労働時間」または「変形労働時間制」で、労働時間の上限が決められています。その時間を超えて勤務させた場合は、超えた時間分を割増賃金としてスタッフに支払う義務があります。いわゆる残業代のことですが、残業代は通常賃金の時給とさらに通常賃金の時給の「0.25倍以上」をプラスした額を払わなければなりません。
例)通常賃金の時給が1,000円の人が10時間残業した場合の残業代
(1,000円×10時間)+(1,000円×0.25×10時間)=1万2,500円
月給制の時給は以下のように計算します。
*ここで言う「月給」とは、基本給と毎月必ず支払われる手当(能力給など)のことです。残業代を計算する場合には家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金および1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いて計算します。
1)1年の日数(365日または366日)から年間休日数を引いて、年間労働日数を算出。
2)年間労働日数を12カ月で割って、1カ月の平均労働日数を算出。
3)1カ月の労働日数に、1日の所定労働時間を掛けて1カ月の労働時間を算出。
4)月給を1カ月の労働時間で割る⇒これが時給です。
*歩合給に対する残業代計算はまた別途行います。
例)月給が27万円で、年間休日が104日、所定労働時間が8時間のスタッフの時給(365日の年)
(365日-104日)÷12カ月×8時間=174時間
270,000円÷174時間=1551.7円→1,552円(小数点以下は四捨五入)
*このスタッフが時間外労働した場合は、1時間当たり「1,552円×1時間+1,552円×0.25×1時間=1,940円」の残業代を支払います。
実は、スタッフに時間外労働をさせる場合、残業代を支払っていても、労働基準監督署に届け出が必要って知っていましたか? これは通称「36(さぶろく)協定 」と呼ばれるもので、労働基準法の第36条に規定されています。法定労働時間を超えて労働させる場合や、法定の休日に労働させる場合には、あらかじめスタッフの過半数代表者などと書面で協定を結んで、これを所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。書面の作成の仕方などは、管轄の労働基準監督署にお問い合わせください。
届け出を出さずにスタッフに時間外労働をさせて、行政の調査を受けた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金になることがあります。スタッフに時間外労働が発生することを伝えた上で、オーナーとスタッフの代表で簡単な書面を作成するだけですから、時間外労働の可能性がある場合は必ず提出しておきましょう。
「36協定」を提出して、スタッフに規定の残業代を払っているからといって、いくらでも残業させていいわけではありません。スタッフの健康を守るために、時間外労働はできるだけ減らすことが望ましいからです。そのため、「1年間の時間外労働時間は360時間が限度」、「1カ月では45時間が限度」にしなければならないと決められています。(ただし、1年単位の変形労働時間制の場合を除く)
年間で360時間ということは、1カ月平均に換算すると30時間であるため、1カ月の時間外労働の目安となるでしょう。ただし、「臨時的な特別な事情がある場合」には、36協定を締結し、年に6回以内であれば限度時間(月45 時間・年 360時間)を超えて時間外労働をすることが可能です。その場合でも「月の時間外労働と休日労働の合計が、毎月 100時間以上にならないこと。」「月の時間外労働と休日労働の合計について、どの2~6か月の平均をとっても、1カ月当たり 80時間を超えないこと。」が必要です。
特別条項を締結せずに時間外労働が年間360時間を超えた場合には、労働基準監督署長の必要な助言・指導の対象となります。前述のように制度上では決まりがありますが、守られていないケースもあります。しかし、働く人の健康を守るのが経営者の義務です。例えば、1カ月で80時間以上の残業をした従業員が病気にかかった場合などは、業務が原因の労働災害と認定され、従業員から損害賠償を請求されるケースもあります。こうしたことが起こらないように、スタッフの時間外労働を減らす経営努力が求められているのです。
スタッフが開店前や閉店後に練習するサロンも多いと思います。その時間を労働時間と見なすか、または、労働外の個人的な自主練の時間と見なすかは法律上の決まりはなくサロンごとの実態で判断されます。
サロンが労働時間と見なしている場合は、練習することによって法定労働時間を超えれば時間外労働として残業代を支払う必要があります。
大事なのは労働時間ではなく自主的な練習と見なす場合は、そのことを個々のスタッフと話し合って納得してもらうことです。具体的には、「サロンがスタッフに対し練習する場所を貸しているに過ぎない」ことをスタッフと書面で確認しておきます。練習時間を業務命令で行わせているにもかかわらず、あいまいなまま進めると、スタッフから「残業だと思っていたのに支払われない」と訴えられるというトラブルが起こるかもしれません。
ほかにも、社外での研修や、社員旅行や社内でのレクリエーションなど、強制参加ではないけれどスタッフの参加が望ましい雰囲気のある行事等も練習と同様です。実施する前に、労働時間なのかそうでないのかはきちんとコミュニケーションを取って伝えるようにしましょう。
次号では、休日・休暇について解説する予定です。
監修
特定社会保険労務士
秋田繁樹さん
プロフィール:
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研代表。東京都社会保険労務士会所属。国内大手生命保険会社、大手企業のシステムインテグレーターなどを経て、独立開業。人事労務のスペシャリストとして、多店舗展開の美容室の労務管理や就業規則・社内規定などにも詳しく、多数の美容室の指導相談に当たっている。http://www.akita-sr.com/
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