サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.59
実例編福祉ネイルとスクール講師を両立!
大森康子さん
- 訪問美容開始:
- 2017年
- 訪問施設数:
- 3施設
- 施設訪問頻度:
- 1カ月に1回
カラーリングアート1本1,000円〜、甘皮処理1,000円〜、爪磨き1,000円〜、ネイルケア1,500円〜、ハンドトリートメント500円〜(出張費別)
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Q
もともと養護教員をされていたそうですが、なぜネイリストに?
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A
子どもの頃から美しいものや絵を描くことが好きでした。
人の役に立つ養護教員もやりがいはありました。
短大を卒業した後、私立学校の保健室で養護教員として働いていました。保健室に来るのは体調が悪い生徒だけでなく、何か悩みを抱えている子が多いのです。そういう生徒たちの話を聞いたりするのも養護教員の大切な仕事でした。人の役に立って幸せに貢献する仕事がしたくて就いた仕事でしたが、私にはもうひとつ、子どものころから絵を描いたり美しいものに関わりたいという気持ちもありました。その気持ちが強くなって、ネイリストを目指すことにしたのです。養護教員を退職してネイルスクールに通い、ネイリストの資格を取りました。
サロン勤務を始めたときから、独立を視野に出張ネイルもしていました。
当初からいずれは独立して自分のサロンをもちたいと考えていましたが、まずは百貨店などにサロンをもつチェーンのネイルサロンに就職。そこでプロとしての技術や接客を身につけていきました。独立を視野にいれていたので、サロンワークの時間外に、知り合いから紹介してもらった個人宅に出張ネイルにも行っていました。ネイルサロンに行くことにハードルを感じている人が予想以上にいて、知人の紹介なら安心と感じていただけたようです。お客さまのお友達同士が10人くらい集まる場に呼んでもらって、1日かけて全員の施術をするということもよくあり、口コミでお客さまがどんどん増えていきました。独立当初の顧客は、ほぼすべて出張ネイルでご利用いただいていた方々でした。
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Q
福祉ネイルを始めようと思ったきっかけは?
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A
自然災害の被災地で福祉ネイルをしているというニュースを見たことです。
ネイル+養護教員の経験が福祉ネイルに結びつきました。
私の住む栃木が東日本大震災や豪雨による洪水と、相次いで被害を受けました。それらの災害で被災された方々への復興支援で、ネイリストがボランティアで被災地を訪れているというニュースを見たのです。ネイリストの仕事と過去の養護教員の経験がつなげられそうで、それこそが自分が目指す道だと感じました。福祉ネイルを検索で調べたら、日本保健福祉ネイリスト協会(以下、JHWN)がスクールを運営していることを知り、そこで学んで福祉ネイリストの資格を取得。独立とともに、自宅サロンでの通常のネイルと、介護施設などへの訪問ネイルを始めることにしたのです。
サロンネイル、施設訪問、福祉ネイルスクール講師の三足のわらじです。
独立したころ知人の紹介で、介護施設で働く介護士の方々にネイルを教える講師を依頼されたのです。ネイルでおしゃれをすることで利用者さまを元気づけたいと考えていらっしゃる施設で、そこで定期的に講師を務めることになりました。ネイリストになったときから将来は講師の仕事もしたいと考えていたので、福祉ネイリストを育てるためのスクールの運営の資格も取り、JHWNの認定校として「福祉ネイルスクールoyama」をスタート。そのころから軸足を訪問ネイルとスクール運営にシフトして、自宅サロンでの施術は新規を取らず既存のお客さまのみにしました。口コミと紹介で増えていた個人のお客さまのカルテ数はすでに200枚を超えていたので、それ以上はできないと判断しました。
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Q
訪問美容の営業はどのようにしたのですか?
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A
参加した福祉関係のイベントをきっかけに、契約をいただきました。
自治体のイベントをホームページでチェック。スクールの生徒募集はSNS。
コロナ前までは定期的に通っていた高齢者施設は5軒ほどありました。実は個別に営業した施設はひとつもなく、自治体などが主催している福祉や介護関連のイベントに参加していただけでした。そのイベントに来ていた施設の方やケアマネジャーの方から後日連絡をいただいて、契約に結びつきました。イベント情報は自治体のホームページをチェックして見つけました。一方、福祉ネイルスクールの生徒募集はInstagramから問い合わせが来ることがほとんどです。
コロナ禍で施設訪問が困難に。
コロナ禍で訪問できなくなった施設が多く、まだすべての施設への施術を再開できているわけではありませんが、福祉ネイルスクールの生徒向けの実地研修をさせていただいてる施設には継続して訪問しています。2017年にスクールを始めて以来、たくさんの生徒が福祉ネイリストとして巣立っているので、卒業生たちが契約先の施設に訪問する際に人手が足りない場合に、フォローとして訪問するケースも増えてきました。また、栃木市の社会福祉協議会からのお声掛けで、子育て中のママなどのために市がサービスとして行うイベントに半年に1回有償ボランティアとして伺ったりしています。
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Q
大森さんの今後の展望は?
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A
福祉ネイルの認知度を上げていきたいです。
ネイルや会話を通じて、お客さまに元気になっていただきたい。
ネイルはもともとお客さまと近い距離で、対面で行う施術です。出張ネイルをしているときに感じたのは、「施術のためだけでなく、身近な人には言えない悩みや愚痴を私に聞いてほしくて利用いただけているのでは」ということでした。口コミと紹介だけでお客さまが増えていったことには、人の話を聴くことが重要な養護教員の経験がとても役立っていたと思います。高齢者の方々も私とお話することを楽しみにしてくださいます。そしてネイルをして手元がきれいになると、本当に喜んでくださり元気になられます。福祉ネイルは介護施設にはまだまだ認知度が高くありませんが、我々の存在とネイルをすることの良さをもっと知ってほしいと考えています。
福祉ネイルの効果データを集めて研究していきたい。
私が所属するJHWNでは、利用者さまのQOLを上げるために、医療や介護・福祉現場におけるネイルの可能性をさらに高めようとする活動をしています。福祉ネイルによる利用者さまの変化やネイルの効果を科学的に捉えようと、研究論文を発表する場もあります。データを取るためには施設との連携が欠かせないためコロナ禍で中断していますが、研究自体は続けています。こうした論文集が施設への説得材料にもなると考えています。今後は福祉ネイル全体の価値を高めるための活動もやっていきたいです。
大森さんからひとこと
新しいことに挑戦するには勇気が必要ですが、一歩踏み出してしまうと思っていたより簡単だったと感じるものです。最初の一歩は、誰かに背中を押してもらうと勇気が出やすいですよね。やってみたいことを周りの人に相談したり、打ち明けてみるとよいと思います。信頼できる人なら相談された段階で、みなさんがやりたいと思っていることを察して、きっと背中を押してくれますよ!