2011.01.18
「顧客満足度経営」で名高いホテル・リッツ・カールトン。その日本支社長だった高野登さん。日本一のホテルになれたのは、日本一になると覚悟を決めたから、と語ります。本物のホスピタリティとは、何なのか。お客様が、感動するサービスはどのように生まれるのか、お話いただきました。
PROFILE
高野 登(たかの のぼる)
1953年、長野県生まれ。プリンスホテルスクール(現日本ホテルスクール)第一期卒業。1974年渡米。ニューヨーク(NY)・ホテルキタノ、NYプラザ、LAボナベンチャー、SFフェアモントなどでの勤務を経て、1990年にザ・リッツ・カールトン・サンフランシスコの開業に携わる。1992年に日本支社開設のため一時帰国。1993年にはホノルルオフィスを開設。翌94年、日本支社長として転勤。リッツ・カールトンの日本における営業・マーケティング活動を行いながら、ザ・リッツ・カールトン大阪の開業準備に参画。2007年3月のザ・リッツ・カールトン東京の開業後は、さらにポジショニングを強化すべく、積極的にブランディング活動に取り組む。2009年9月、退社。2010年1月、人とホスピタリティ研究所設立。現在に至る。
|第5章|「ウサギとカメ」と「10万円のオムレツ」
ウサギとカメの話を覚えていますか? ウサギとカメが競走して、ウサギが寝ている間にカメが先にゴールをして勝った話です。これは、ビジネス倫理の話で、カメは最後まで自分のゴールに向かって走り、ウサギは自分のライバルが「弱い」と油断して寝たがために負けたものです。でも、現実問題に置き換えて、ウサギとカメを競走させると、カメに勝ち目はありません。そこで今度は「絶対にカメが勝つ」というレースを考えるのです。
「5つの島を回るレースはどうか?」
「泳ぎに自信のあるウサギでも5つの島は難しいのでは」
「時間がかかってもカメが勝つだろう」
だからこのレースが発表された時点でカメの勝ちです。
「鶴は千年、カメは万年だから、一万年かかるレースはどうでしょう?」
絶対にウサギが負けますよね。
……これを、リッツ・カールトン戦略会議の中で、本気で考えて議論します。
このウサギとカメの話から何を学ぶかと言うと、「絶対にカメが勝てるレース」を考えるときに、フォーシーズンとか帝国ホテルとか、色々なライバルとガチンコ勝負をしないで、「絶対にリッツ・カールトンが勝つため」にはどうしたらいいかを「戦略」的に考えているのです。
リッツ・カールトン大阪は、一日一組限定でメインダイニングルームを借り切って、オムレツを作ってお客様にお出しするという商品をご提供したことがあります。お二人で10万円です。そうすると、営業から「10万円もするオムレツを誰が買うのですか」と反対意見が出ました。でも、これが実施されたとき、金土日は3ヶ月先まで予約でいっぱいになりました。営業マンの感性の範疇をはるかに越えた世界で生きているお客様が、山ほどいたということです。
では、10万円のオムレツを他のホテルが真似したでしょうか──。どこも真似していません。「あれはリッツだからだよな」「あれは邪道だよね」と、色々な言われ方をされましたが、別にいいのです。お客様が喜んでいらっしゃるわけですから。