2012.01.24
経営難に陥った老舗温泉旅館やリゾートホテルを次々と再生に導き、「リゾート再生請負人」と呼ばれるようになった、星野リゾート社長の星野佳路氏。「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、自ら行った星野リゾートの組織改革の秘訣は、変革が求められている美容業界でもきっと参考になるはずです。
PROFILE
星野 佳路(ほしの よしはる)
1960年長野県生まれ。慶応大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年株式会社星野温泉(現星野リゾート)社長に就任。以来、「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、「もう一つの日本」をテーマにする滞在型リゾート「星のや」、高級温泉旅館「界」、ファミリーをターゲットとするリゾートホテル「リゾナーレ」などのブランドを全国に展開。
|第3章|「誰に、何を提供するか」は、「自分たちらしさ」を生かす
2つ目のキーワードは「コンセプトへの共感」です。これについては、青森の古牧温泉にある「青森屋」の事例を交えてお話ししましょう。星野リゾートは大型温泉旅館の案件には手を出さないのが原則ですが、重要なパートナー企業であるゴールドマン・サックスが所有していたことで、2005年に運営を開始しました。
最初に「コンセプト委員会」を作りました。コンセプト委員会は、現地スタッフによる立候補制です。そして、「誰のために」「何を提供するのか」を考えます。この2点が明確になると、やるべきことが見えてきます。「誰のために」は、できるだけ的を絞ったほうがいい。そう言うと、当てはまらないお客さまを切り捨てるのかといった声が上がりますが、結果的にはそうなりません。魅力的な軸がある旅館には、コンセプトに定めた以外のお客さまにも支持されます。
コンセプト委員会を結成後に行ったのは、競合分析です。同程度の規模で評判もよく、経営に成功している石川県の和倉温泉にある老舗旅館「加賀屋」と、北海道の阿寒湖にある「鶴雅」のオーナーに連絡をして、現地で勉強させていただきました。自分の経験からも、成功している競合は意外と情報をオープンにしてくれますから、みなさんもぜひ、知りたいことがあったら、尋ねてみるといいと思います。
もう1つの重要な調査が「既存顧客調査」です。売上げが落ちたときには新しいマーケットに目を向けがちですが、まず見るべきは、既存顧客です。青森屋は、売上げが3割下がりました。でも、今の時世に青森の団体温泉旅館に、7割の人が残っている方が驚きです。その7割の人たちに、お茶とお土産を用意して話を聞いてみるのです。なぜこの温泉に来たのか、どこに満足しているか。そうすると、自分たちが気づいていない理由を発見します。これまでの経験上、コンセプトを考えるうえで、既存顧客がメインターゲットにいなかったことはありません。必ず既存のお客さまにヒントがあります。
日本の温泉旅館の場合は、日本全国どこでも、自然がある、温泉がある、郷土料理がおいしいといった、似通った特徴が挙がってきます。これらはどれもコンセプトにはなり得ませんが、青森屋の場合は「津軽弁が面白い」という発見がありました。私が彼らのコンセプト会議に参加していても、彼ら同士の会話がまったく分からないのです。そこで私は「通じない旅館」をコンセプトに提案したのですが、彼らには反対されました。そして彼らが考えてきたのが「のれそれ青森」。「のれそれ」とは津軽弁で「もっともっと」という意味です。
コンセプトが決まると、スタッフのモチベーションも変わります。「のれそれ青森」らしいことはやるべきこと、そうでないことはやめるべきことと明確になり、コストカットも合理的にできるようになりました。使われていない宴会場に「じゃわめぐ(ざわめく)広場」を作ったり、「かっちゃのばんげまんま(お母さんの晩ご飯)」といった食事メニューを考えたり、毎日ねぶた祭りを再現したりと、「のれそれ」らしい“通じない”企画がずらりと並びました。さらに、ソフトの改善である程度の利益が出ると、今度はハードを高めていくということをしていきました。
日本の地方の大きなホテルは、東京のホテルを目指しがちです。でも、青森屋は「青森らしい旅館」であることを大切にしました。「自分たちらしさ」が大切だと思えることが重要なのです。