第2章異業種とコラボした新たな取り組み
「メンズに求められるのは、ビューティーではない。
“かっこいい生き方=ライフスタイル”の提案だと思うんです。」
サロン出店のほか、プライベートブランド商品の開発や、ヘアケア商品のプロデュースも手がけていますね。
プライベートブランド商品は、一度はトライしてみたいという考えで取り組んだものです。自社の商品は利益率が高かったりお客さんへのアピールになります。また、スタッフのモチベーションにつながるのもメリット。ただ正直にいうと、自社で商品を売るのは在庫を抱えるデメリットがありますよね。なのでうちはメーカーという立ち位置になるよりも、メーカーと手を組んで商品をプロデュースするほうがいいかなと現在は考えています。
サロン以外で売上を出そうとすると、まず物販を考えますよね?
理美容業は労働集約型で、時間と交換に「売上」を得ています。ですからおっしゃるように、時間をかけずに収益を上げる手段としてはまず物販が思い浮かびます。ですがメンズコスメのマーケットは確実にあるものの、他社の例を見ても現状は売上確保も難しいのでは?
じゃあどうするか、僕らのサロンの価値って何だろう?考えていくと、お客さんはうちの技術だけを買いに来ているんじゃないんですよね。「かっこいい男の生き方」とか、そういうライフスタイルを求めて来ているんです。それで始めたのが「カスタマー・オブ・ライフ(人生の顧客)」をコンセプトにした、「男の勝負」シリーズです。
それは、どういったものですか?
たとえば「ジュネス男の勝負レストラン」は、「JUNES」のお客さまが会員登録して予約をすると、特別メニューが食べられるというものです。
まず「カスタマー・オブ・ライフ」というコンセプトは、ヘアスタイルだけじゃなく、「お客さまのライフスタイルごとデザインする」という意味です。「JUNES」のパンフレットにもサブコピーとして「ヘア&ライフ スタイル デザイン」と添えています。最初は「メンズ トータルビューティー」って入れていたんですね。だけど20年間メンズオンリーでやってきた僕の実感としては、「ビューティー」ってメンズにはピンとこない言葉だなと感じて。「ビューティー」は女性がつくってきた文化であって、男性にはなじまない。それよりは「ライフスタイル」のほうがしっくりくると思うんです。
内容は簡単に言うと、「ジュネスでカッコよくなって、女性とデートしよう」というもの。うちのお客さん限定で食べられる、7000円~1万円くらいのコース料理を各レストランに用意してもらいました。この値段は「日常の中にあるハレの日」設定。女性を連れていくのに5000円じゃちょっと安くて格好がつかない、かといって1万円を超すと結構厳しいな…という僕なりの男目線で決めました。
うちの主要ターゲットは年収500万円~1000万円というイメージ。これは全体の数パーセントという上位層ですが、そうした方々でも案外、家庭をもっていると自由になるおこづかいは限られてきます。理美容室代としても1回の代金としてはカットやオプション込みで5000円~1万円が支払える相場。「男の勝負レストラン」の価格帯も、そういう相場感から設定しました。
センスを信頼している理美容師さんにすすめられたレストランなら、安心して大切な人を連れていけますね。そういった着想はどこから?
実はもともとやっていたことなんですよ。お客さんから「どっかいいお店ない?」ってよく聞かれて、僕の行きつけを紹介する…というやりとりを「仕組み化」しただけなんです。外部と組んだビジネスは「三方よし」じゃないとうまくいかない。コラボしたレストランは代金を得て、新しいお客さんが増える。そのお客さんもうちの顧客なので、ある程度の層に限定することができます。また、うちのお客さんはいいレストランに出あえる。うちのサロンは、お客さんに喜んでもらえる…とまさに「三方よし」の仕組みです。
大きな利益を上げるというより、ブランド価値を上げる取り組みという位置づけですか?
そうですね。儲けよりもお客さんと長く付き合ううえで提供するサービスの一つであり、「レストランどうしよう?」というときに「そうだ、JUNESに頼ろう」と思い浮かべてもらうことに価値があると思っています。実際に利用したお客さんからは、「ありがとう」ってお礼の連絡をいただくことが多いんです。単純にうれしいですよね。
現代は「消費者の時間の奪い合い」と言われています。そうしたなか定期的にサロンでお客さまの時間を確保できる理美容室は、とても優位性がありますよね。
1時間対面で僕の話すことを聞いてもらえるって、営業する人からしたら非常に価値のあることですよね。会話するうちにお客さんの趣味嗜好を知ることもできるので、理美容師は膨大な個人情報も持っています。ただ、押し売りくさくなってしまったらダメ。そしてまず、お客さまと信頼関係が築けていることが大前提です。だからこうしたビジネスモデルができる理美容師は限られてくるし、そこが難しいところです。