3
“いいことをする方がコスパがいい“みんながそう思う世の中になればおもしろい未来がくる。
千葉
「はれのひ」の件をはじめ、モデル設計能力というのか、先の先までを見越した考え方がすごいですよね。「映画でディズニーに勝つ」というお話をされているのを聞いた当初は失礼ながら勝てっこないのでは…と思ったんですけど、「ディズニー映画でもジャングル系は弱いから、そのタイプが公開されるタイミングを待って自分の映画をぶつける」みたいなことをおっしゃっていて。その話があったうえで、今日うかがったことも含めて考えると、そんなふうにいろいろ考えられる西野さんなら、ディズニーに勝つのもあり得るなという気分になりました。
西野
映画化を考えている『えんとつ町のプペル』は、もともと映画化を見越して絵本を作ったんですね。長い話の一部を切り取って絵本にしたので、その前後にも物語があるんです。絵本で明かされていない、なぜ四方をガケで隔絶されたえんとつ町が誕生したのかという背景を映画では描いています。
ざっくりというと、映画はお金の話なんですよ。お金の話にしたのはディズニーに勝つため。ディズニーは「夢の国」なので現実世界と乖離している。だから生活導線上に作品がないんですね。彼らを倒そうと思ったら、「西ニーランド」みたいな模倣をするんじゃなくて、彼らにはできない生活導線に作品を絡めていって、生活しながら作品を思い浮かべずにはいられない状況にする方法しかないと思って。で、生活に関係するモノ…って考えた結果がお金だったんですね。
その作品に出てくるお金は、ストーリーの内容から「腐る通貨」になっていて。時間が経ったら腐って使えなくなる「レター」という通貨です。
千葉
絵本『えんとつ町のプペル』は2016年の発行ですよね。その制作時からレター、レターポットを考えていたということですか。
西野
構想段階ではレターという名前ではなかったですよ。でもまず「腐る通貨」みたいなものがあったらなと考えていて、そこから『えんとつ町のプペル』という物語が生まれて、これはいよいよ実際にも腐る通貨を作りたいなと考えていた。ちょうどそのころに奈良から女の子が来てプレゼンがあって、このアイデアは腐る通貨に絡められるな、と。それで映画公開までに、作品内で使われている通貨をみなさんにも使っていただく仕組みを作ろうという流れですね。だから、レターポットは映画のプロモーションでもあるんです。
千葉
それでリアル世界にも「腐る通貨」であるレターポットを作ったと。レターポットの通貨というかレターは、取得から4カ月が使用期限という仕組みになっていますもんね。うーん、びっくりしました。全部がつながっているんですね…。
西野
まぁ、あとで付け加えた、むりからつなげた部分もあるんですけどね。レターポットを作るとき、あとで法制度的なダメ出しされたら嫌なので、事前に金融庁の人から話を聞こうと思って勉強会というか飲み会を開いたんですね。それで話を聞いたら、「そのレターの価値が半年以上続くとよくない、面倒です」みたいなことを教わって。じゃあレターは4カ月で消滅するようにしよう、ということに。そしたら結果的に、これは「腐る通貨」になったな、映画と全部リンクしたなっていうふうになりました。
千葉
すべてが一本線でつながっているとも思えるし、現実と妄想の世界が複雑に絡み合っているようでもある。聞けば聞くほどわかるような、煙に巻かれるような…(笑)。
西野
あー、確かにそんな感じですよね。僕ってそうなんですよ。あっちこっちが全部絡んでくるんですよね、レターポットの話をしていても、映画の話も絡んでくるから話さなきゃいけなくなるし…。なんかすみません。
千葉
そんな西野さんが目指しているもの、レターポットで実現したいと考えている世界はどういうものなんでしょう。
西野
いまレターポットでたくさんのレターが集まっているのはどんな人かっていうと、日常生活で見返りを求めずに与えている人なんですよ。そういう実例を見たみんなも、「見返りを求めずによいことをしよう」ってふうになったらおもしろいよね、と思っています。損得抜きに、困っている人を助けてあげて、泣いている人に寄り添ってあげる。それが当たり前にできるようになったら、みんなの日常生活の行動が変わったら、一番いいですよね。
千葉
成人式の支援をはじめ、西野さんはすでに実践されていることですね。昔からそういう、人助けをするのを当たり前に考えていたのですか?
西野
いやぁ、どうなんだろう。人助けしているかな…。でも困っている人を見返りを求めずに助けた方が、自分もいい思いができるというのが経験からわかっているから体が動くのかな。例えばレターポットを始めるきっかけとなった「贈り物問題」。これも別に大金を儲けたいとかモテたいとかじゃなくて、絶対にみんなが困っていることだから解決したいと考えて始めたんです。それでいざ動き出すと、いろんな人が力を貸してくれて、「よかったな、いい思いができたな」ってのを体が覚えるんです。そういう経験があると、次に問題に直面したときも自然と助けたくなっちゃう。
だから、みんなが人助けできるようになるにはまず「人助けは自分にもいいことがある」と体に覚えさせなくちゃいけないんですよね。頭だけで考えても、行動するのは難しい。
千葉
では、その練習場所として、いいことをすると自分にもメリットがあると経験するためにレターポットがある感じですね。
西野
そうですね、そうなるといいですね。1回体験してみて、「あ~なるほど、こういうことか」と実感してもらえると体も動き出す。それで、「日常的にいいことをする方がコスパがいいんだな」ってみんなが思う世の中になったら、おもしろい未来が来るんじゃないかなって思います。
派手な仕事ばかりではない。出版した本の「注文とり・サイン入れ・梱包・配送」もほぼ毎日。
インタビューの最後、気になっていたことを聞いてみた。
「寝る時間もないと思うのですが、そのエネルギーはどこから?」
西野さんの答えはこうだ。
「やっぱり楽しいですよ!なんか仕事と思ってしてない感じ。
小学生の時ってザリガニ釣りとか、セミとりとか、ずっと遊んでたじゃないですか。
あの感じでね、ずっとやっちゃうんすよね。」と笑う。
「炎上芸人」と言われることもあるけれど、きっと純粋で正直な人。
自分の中の真実は決して曲げない。それが時に誤解をあたえてしまうのかもしれない。
嘘を言わない、グチを言わない、言い訳をしない。
すべては「行動」でみせる。それも、とてつもないスピードで。
レターポットの「恩贈りの世界」が、きっと未来を変えていく。
西野さんの話を聞いていると、こちらも本気でそう思うのです。