イノベーターが
見ている未来
vol.29
その取り組みと背景、そして未来についての展望をうかがいます。
株式会社Lond
石田吉信さん (age.32) 吉田牧人さん (age.32)
2013年、6名の若き共同代表により立ち上げられた美容室「Lond(ロンド)」。銀座の1号店を皮切りに現在はヘア・アイラッシュサロン計8店舗を展開し、約60名のスタッフが活躍。同サロンは「従業員第一主義」を理念に掲げ、なんと創業以来ずっと離職者はゼロ!離職率が高い美容業界において、なぜ人が辞めない組織を実現できているのか?彼らの理念や取り組みを、代表2名にうかがいました。
また「Lond 銀座店」は、「ホットペッパービューティーアワード 2018・ベストサロン部門(全国3万6000店を超える掲載サロンからネット予約上位のサロンを表彰。6~9席の部)」にて、2年連続全国1位に輝くという快挙を達成した。
https://www.lond.jp/
第1章美容学校の同級生6名が集結して創業
「辞めようと思って来る人はいないのに、いつしか辞めたくなる。
“その流れを断ち切れる組織”をつくりたいと思った。」
ロンドさんは6名の共同代表という珍しいスタイル。本日は代表のうち石田さん、吉田さんのおふたりからお話をうかがいます。まず、6名で経営することにしたきっかけを教えてください。
吉田●代表の6名は、もともと美容学校の同じクラスだったのが出会いのきっかけです。卒業後はそれぞれが有名店と言われるところに就職していて、当初は33歳くらいになったらみんなで独立しようと話をしていました。33歳という年齢は、それくらいがキャリアハイの時期だろうし、技術のほかに業界のことや経営のこともわかってくるころかなということで設定したもの。
でも、ホットペッパーさんが我々の夢を変えたんです。結果的には、僕らが27歳~28歳のときに独立してロンドを設立しました。
ホットペッパービューティーが独立の時期を早めた?
吉田●我々が就職した当初は、雑誌にサロンが紹介されたり、モデルやタレントが通ってくるサロンというのが強みになって爆発的に集客が伸びていました。ところが次第にホットペッパーのような集客サイトが台頭してきて、逆に紙媒体が衰退していった。6人で集まって話すときも「雑誌のメリットがもうないよね」と不安を抱くようになって。
でも逆の発想をすると、経営手腕次第で集客できるようになったとも考えられるわけです。これまではプレイヤーが有名かどうかが集客力の決め手でしたが、集客サイトという新たなツールのおかげでコネがない新規サロンも集客ができる。この考えが独立を後押ししたんです。
雑誌ではなく、ネットやSNSで認知を得る時代への変遷を敏感に感じ取ったんですね。6名一緒にやろうというのは学生時代から決めていたことですか?
石田●誰から言い始めたのかもう定かではないんですが、みんなで店を出そうというのは学生時代から話していましたね。卒業してすぐくらいには店の名前も「ロンド」って決めていたし。就職後も時間を見つけては会ったり、将来は経営者になるからと、それぞれで経営の本を読んで勉強したり…。「みんなで店を出す」という考えはブレませんでしたね。
吉田●就職して美容師の離職率の高さを目の当たりにしたことも、自分たちの店を立ち上げる気持ちに拍車をかけました。美容師って当たり前に辞めていくでしょう?これまでの美容業界は、「会社を去るのはその人の問題」と考えてきた。「あいつはモチベーションが低いから」とか「うちには合わなかった」とか。でも果たしてそうなのか?と疑問に感じていて。だって辞めようと思って入社してくる人間はいないのに、いつしか辞めたいというネガティブな気持ちに変わってしまう。それって必ずしも本人だけじゃなくて、組織にも問題があるんじゃないか…?そんな思いを、6人みんなが抱えていたんです。だからこそ、離職していく人を止められる組織を作りたいよねって気持ちが強まりました。
共同経営だと意見がぶつかり合ったり、難しさもあると思います。役割分担は?
吉田●人によって共同経営に向き不向きってあると思うんですね。その点、僕は絶対に向いているんですよ。経営はしたいけど細かいことは嫌いだし、スタッフマネジメントもやりたいときはやるけど、ずっとはムリ。そういう足りない部分を、仲間に助けられています。あとは起業して1年くらい経ったとき、改めて「お前は何やりたい?」って話し合いました。そこでなんとなく分担を考えました。興味がある分野や役割分担はハッキリわかれていなくて、多少重なる部分もあります。
石田●会社の方向性はもちろん6人みんなで考えています。ただ現時点では、次はどこに出店するとか内装とか、人を雇う時期だとか、大枠の部分を僕と吉田、ほかに代表の1人である斉藤、この3人で話し合うことが多いですね。あと僕は吉田とは逆でけっこうマメなんで、PDCAを回すのに向いている。どう進めたらいいかとか企画をいろいろ考えることはできるんですが、やっぱり文字にしても写真にしても見栄えが大事でしょう。そのへんのプロモーション、見せ方は吉田が得意なんで頼りにしています。
みなさんそれぞれが得意分野で力を発揮しているんですね。ただ美容師さんは就職先で技術を学ぶ機会はあっても、教育や財務などを学ぶ機会はあまりないと思います。そのへんは?
吉田●さっき石田が話したように昔から本を読んだりはしてきましたが、経営やマーケティングに関して我々はいわばアマチュア。でも人も店も増えていって、このままではよくないと考えて、それぞれが身銭を切ってセミナーに行ったりして勉強して。僕も経営塾に入っているんですよ。トップに立つと教えてくれる人がいなくなるし、僕は楽観的すぎるところがあるので、「リーダーとは、経営とは」っていう神髄の部分をきちんと学んで、店に少しでも反映できればと思っています。
石田●マーケティングに関しては、吉田は日頃の習慣というか視点が自分とは違うからこそ、センスが磨かれてると感じますね。たとえば本屋に行ったときも、女性が雑誌を立ち読みしていたら何の記事をどのくらい見ているかチェックしているんですよ。そういう視点や積み重ねがあるから、プロモーションも「半歩先に届くもの」を打ち出してくる。僕が思いつくのは「一般的ないいもの」だとすると、吉田はそこからちょっと外れた「おもしろいアイデア」を提案してくれる。その点において、すごく信頼を置いています。
少し前に、同じく共同経営をされている大先輩と飲ませてもらう機会があって。「組織にはリアリスト、ドラマチスト、ロマンチストの3人が必要だ」というお話があったんですね。それを聞いたとき、うちには揃っているなと思ったんです。僕はけっこうロマンチスト、吉田はドラマチックなエンターテイナーで、もう1人の斉藤はリアリスト。バランスがいいんだなと改めて思いました。
なるほど、個性的でおもしろいですね。
ロンドさんは高価格帯のサロンが多い銀座に出店しながら、中価格帯で勝負に出て成功した点が特長です。なぜこの戦略を?
吉田●うちはオープン当初はカット4000円台で始めました。この価格にしたのは斉藤の市場調査が元になっています。銀座の地図を買って全美容室をマッピングして、100店舗以上のサロンの価格帯をリストアップしていきました。するとオープン準備をしていた5年前、中価格帯のサロンは6%しかありませんでした。その話をホットペッパーの営業担当の人にも話したところ、「中価格帯のサロンがいないのは、エリア特性に合わないから。難しいと思います」と言われました。でもうちは逆に、「競合がいないからやろう」と決断したんです。すると結果的にはオープン初月から400人以上の新規客がやって来ました。
もう一つの理由は「お客さまが来たいタイミングに、やりたいメニューができること」を重視したから。これは僕らがもともと高価格帯の有名サロンに所属していたからこそ、生まれた考えです。当時の有名サロンに来ていたお客さまは必ずしも大満足してはいなくて、失客率がすごく高かった。その要因はいろいろあるでしょうが、金額によるところが大きいと思うんですね。独身時代は通えても、結婚して子どもにお金がかかったりすると、一度に1万5000円、2万円を払うのが難しくなる。さらに現代は女子会にネイル、まつエク…と、お金をかける先が多様化している。10年も20年も前の、美容バブルと言われた時代の価格設定のまま、お客さまが同じ頻度で通えるはずはないんです。だから、うちはあえて価格を下げることにした。有名店で育ったからこそ、“プライドをもってプライドを捨てて”、プライシングを下げたんです。
たしかに、時代が変わったのだから昔と同じ戦略が通用するとは限りませんよね。銀座では前例がない勝負に出て、見事に勝ったと。
吉田●お客さまがたくさん来店されただけじゃなく、おもしろいことが起きました。来店周期が早まったんです。一般的には2.5カ月~3カ月に一度来店して、1回1万2000~3000円の客単価というところでしょう。するとお客さま1人あたりの売上は年間6万円くらい。うちはカット・カラー・トリートメントをして客単価9000円~1万円ですが、来店頻度は2カ月に1回。だから年間の1人あたりの売上はやはり6万円くらいになるんです。なのでお客さまが1年間に払う金額がたいして変わらないのに、うちなら2カ月に1回通える。するとカラーもさして伸びていないし毛先もきれいな状態を保ったまま、サロンに行くタイミングが迎えられるんです。
これまでの高価格帯サロンでは、スタッフは誇りをもって働けるし会社は売上が上がる、ただし、お客さまは高いなと思いつつ通ってくださるという「Win-Win」の関係でした。でも中価格帯にしたことで、スタッフのやりがい、会社の売上に加えて、お客さまの満足度も高まるという「Win-Win-Win」にできたんです。
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